法曹志望者「精神論」の目的

      「泣き言をいうな」という論調が、いまだに法曹志望者にかぶせられます。「合格枠は旧司法試験より広がった」「就職難はお前たちだけではない」「何も法曹だけが就職先ではない。他に目を向けよ」等々。要するに、現在起こっていることに対して、志望者側の心得違いをいう、いわば根性で難局を乗り越えよ、という精神論です。

     どうも日本人は、この手の精神論をアプリオリに自省に結び付けがちで、その効果があればこそ、これを繰り出す方々もいるようにお見受けしますが、いうまでもなく、こうした精神論を繰り出して難局を乗り越えるという話が成り立つには、肝心の制度なり政策が「正しい」という前提がなくてはなりません。もちろん「正しい」というのは、大きく括ってしまえば、それが本当にこの社会に良いことをもたらすという前提です。

     そして、いうまでもなく、その前提が疑わしいのにもかかわらず、繰り出される前記精神論は、むしろその効果によって、その制度や政策を擁護することを目的としている、もしくは結果としてその意味しかないことを、大衆は十分に疑ってかかる必要があります。法科大学院制度が「7、8割合格」の化けの皮がはがれた直後から繰り出されている、この手の精神論も例外ではありません。

     最近も、そうしたものを目にすることになりました。「悲観主義からは何も生まれない~2012年新司法試験の結果より」(「企業法務戦士の雑感」)というエントリーで、ブログ氏は言います。

      「個人的には、『法科大学院生が全員司法試験に受からないから、法科大学院制度は失敗』とか、『司法修習を終えても弁護士登録しない人が400人もいるから法曹養成制度の見直しが必要』とかいった安直な議論は、そろそろいい加減にやめた方がいいんじゃないかと思っている」

      「法科大学院修了」という「学部卒」と比べれば圧倒的に有利な肩書を生かしてさっさと新しい仕事に就き、即戦力として、学んだ知識を活用している人も相当数いる。今回試験で、受験回数制限の上限に達してしまった1000人以上の修了者も、「旧試験を10年、20年受け続けてしまった」かつての受験生に比べれば、相当恵まれている。修習後未登録者の「問題」も、単に修習修了者と登録者の数字の差を拾っているだけ。安くはない弁護士会費をわざわざ支払わなくても、企業なり自治体なりに就職すれば、自らの知識・能力にふさわしい働きの場はいくらでもある。見方を変えれば、これまで「修習が終わったら何となく法律事務所に所属する」という流れに否応なく巻き込まれていた修習生が異なる進路を選びやすくなっている――。これらが、ブログ氏が「安直な議論」をやめた方がいいとする根拠となる現状認識のように読めます。

     彼は、新聞の論調の引用から入って、こうした議論そのものに対する意見として述べていますが、もちろんそれが志望者自身の「悲観主義」を射程にしていることは、次の注釈欄の一文でも明確です。

      「もちろん、『本当は法律事務所に就職して、“普通の弁護士“の仕事をしたいのに、その就職の機会に恵まれないから、なくなく未登録のまま待機している』という人もいるのは知っているが、未登録者全体から見たら少数派だと思う」
      「少なくとも自分は、『死に物狂いで事務所への就職活動をして就職できなかった修習生』というものを知らない。何となくネットでエントリーして履歴書を出して、それではねられて『就職先ない』なんて言っている修習生は、たくさんいるのかもしれないけれど、そんな人々のために制度を変える必要はないと思う。残念ながら」

     そもそも法科大学院修了が、学部卒よりも、選択の幅も含めて「圧倒的に有利」という現状認識には疑問がありますが、この現状での「仕方がない」からの断念組をなにやら前向きな選択者のようなイメージでとらえているように見えます。少なくとも「『修習が終わったら何となく法律事務所に所属する』という流れに否応なく巻き込まれていた修習生」というのは、おかしな表現で、まさにそれを望んで、そのために努力してきた志望者には不適切な表現に読めます。ここを不本意と描くことで、次の「異なる進路が選びやすくなっている」という切り口が生きてくるカラクリに見えてしまいます。

     返す刀で、注釈では、「異なる進路を選びやすくなっている」にもかかわらず、本来の希望を通そうとしている志望者の心得違いを言っています。そして、最後はやっぱり精神論。「死に物狂い」でいかないからダメなんだ、と。

      「個人的には」との前ふりで、こうした意見が述べられるのはもちろん自由ですが、受けとめる側はここで納得してはいけないと思います。こうした精神論によって本当に事態が改善するのか、より法曹志望者が離れていくだけではないのか、そして、結局、志望者もこの社会も幸せにしない制度・政策を擁護するだけではないのか――。現実論に基づく悲観主義を精神論で覆い尽くす楽観主義が、この国を良い方に導いたためしがないといっていい、歴史に学ぶべきです。


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    No title

    日本の公務員,大企業では,依然として終身雇用が一般的である中,
    弁護士業界に淘汰を持ち込めば,淘汰された弁護士に行く先はほとんどない。

    No title

    件のブログはわりと好きで、以前から読んでいたのですが、たしかに今回の記事については、河野さまのご指摘が適当かと思います。
    ロー卒の社員採用については私も知るところですが、個人的には(あ、こういったら今回はいけないのか)三振するような人を法務担当として採用することには反対しています。
    いまや修習修了者でも単なる「院卒」扱いで採用するご時勢ですし。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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