法曹志望者に伝えられるべき現実

     おカネや時間をかけても弁護士には必ずしもなれず、たとえなっても就職難が待っている、という現状をどう法曹志望者に伝えるべきか、ということが課題になっています。こう書くと、一般の人間からすれば、現状をありのままに伝えればいいだけではないか、ということになりそうですが、それがどうも簡単ではありません。

     この課題というのは、そもそも現状でこの現実が十分に伝えられているのか、という問題意識につながっていることですが、問題は肝心の現状認識に幅があるということです。つまり、端的にいえば、現在起きていることを将来的な見通しとつなげて、どうとらえているのかの違い。弁護士界の中でも、この深刻さをもっと伝えるべき、という意見もあれば、悲観的なことを言っていても仕様がない、もっと将来性や「夢」のある話をすべき(第17 回弁護士業革シンポ第6 分科会「今こそ『夢』実現!~より深く、より広く、若手弁護士の活躍の場はここにも~」)という意見も、いまだに聞かれるのです。

     このテーマについて、考えさせられる一文を坂野智憲弁護士が自身のブログで掲載しています。彼は仙台弁護士会での厳しい司法修習生の就職事情について報告し、無謀な増員政策のツケを払わせられる司法修習生に同情しつつ、次のように書いています。

      「この事態を日弁連や法科大学院の増員論者達はどう見ているのだろう。受け止め方には二種類あるだろう。ひとつは『法曹資格を得たからといって当然法曹になれると考えるのが誤りで一般企業に就職すればよいことだ』というものと、『本来増員分を法曹として吸収するだけの需要はあるはずだがそれが顕在化していないだけ、もう少し我慢』というものだ」
      「前者であればスッキリするしひとつの考え方であろう。ただそれならそれで法科大学院のパンフレットに『司法試験に合格しても法曹になれるとは限りません、むしろ今後は年々法曹になれる確率は低下すると見込まれます。一般企業への就職も保障の限りではないし就職の世話など法科大学院は致しません。それでもよいという方だけ入学して下さい』と書くべきだろう」
      「後者は過去10年間言われ続けてきたものだが、未だに顕在化していない。今後も同じことを言い続けるのは嘘つき・無責任というほかはない」

     現実は増員推進論のなかに、この二種類が混在しています。前者は、法曹界外から聞こえてくる声で、それによって法曹界そのものが志望先として淘汰されてしまうことに何のこだわりもない見方にもとれます。一方、後者はその不安があるがゆえに、「期待」を強調するもので、日弁連の推進派は基本的にこのスタンスにとれますし、前記「夢」を語れ派も結果として、こちらの主張を補強するものになります。

     ただ、坂野弁護士も厳しく指摘していますが、果たして後者の立場の人たちが、どこまで確信をもって、その「期待」、将来性をアピールしているのか、そこは疑いたくなる現実があります。

     一方、前者の立場にしても、坂野弁護士もいうように、それならばそれで相当な深刻さが伝えられていいはずですが、現実は「生存バイアス」といわれるような、ある種の錯覚を生むような内容になっています(「苦しい法科大学院ガイド」 「ある法学生の『選択』」)。

     もっとも、既に法科大学院の志願者激減を見ても、現状はちゃんと社会に伝わっているという見方もあるかもしれません。しかし、これはあくまで被害者を増やさない、という立場に立っているかどうかの問題、つまり、前記したような大マスコミを含めて、増員推進論者の姿勢が、そのことに配慮しているのかという問題です。

      「法曹資格を得たからといって当然法曹になれると考えるのは大間違い。むしろ今後は年々法曹になれる確率は低下する。一般企業への就職も保障の限りではないし就職の世話など法科大学院はしてくれない」

     坂野弁護士は、法曹を選択肢として考えている大学生や社会人に対してはこうストレートにいうべき、としています。そのことを、「改革」理念にしがみつき、それが弁護士の環境を激変させたことに根本原因があることを認めたくない人々や、その理念が生み出した法科大学院制度をどうしても正しかったとしたい人々が、都合が悪いこととして阻害する結果となっていいのかどうか――そのことが問われているように思います。


    ただいま、「日弁連の『法科大学院制度の改善に関する具体的提言』」「予備試験」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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