「負け組弁護士」の時代

     ついに、ここまできたか、という気持ちにどうしてもなってしまう座談会が話題になっています。「週刊現代」が9月22・29日号で掲載した「異色座談会 年収3億円×年収300万円 開成→東大 同じ学歴でもこんなに違う生活と考え方」です。話題の中心は、弁護士が「負け組」として登場していることです。

     登場人物は、リーマンショック前には3億円を達成し、都心に億ション、軽井沢に別荘を持つ外資系証券会社トレーダーA氏、年収は700万円の地方公務員B氏、そして、ロースクールに特待生として進学するも司法試験になかなか受からず、30歳を過ぎてから弁護士になって現在は首都圏の弁護士事務所に勤務する年収300万円のC氏。同氏の現職だけに、ご丁寧に「負け組弁護士」の肩書が付されています。

     正直な読後感をいえば、よくできた小噺といった印象を持ってしまいます。編集者目線で見れば、それは料理がしやすい覆面座談会ですし、そもそもフィクションとして読まれている向きもあるようです。ただ、それ含みで読んでも、この記事は考えさせられるものがあります。いうでもなく、週刊誌がこうした形で弁護士を取り上げること自体、この時代を象徴しているとみることができるからです。

     このなかで、印象に残るのは次のようなやりとりです。外資系証券会社に対して存在する嫌悪感が気にならないか、というB氏の問いに、それを否定し、その理由として「おカネを手に入れて自由を買いたい。10億円貯まったらセミリタイアするつもり」「自由というのは、そういった『世間の偏見』からも自由ということ」というA氏。

     これに対して、弁護士C氏も、人生の最終的目標は「労働からの解放」だと。民間企業の窓際族で、寝言で上司を「ぶっ殺すぞ!」とか叫びながら定年までしがみついていた父親のような生き方はしたくないと、ずっと思ってきた、と。すかさず「年収300万円では一生解放はされないな。『働くことが美しい』という考えはないの?」というB氏に対しC氏は、それは日本の洗脳教育だと、マルクスを読め、基本的に、労働とは搾取されることであり、「経済学・哲学草稿」に〈人間の供給が需要よりはるかに大きいとき、労働者の一部は乞食の状態か餓死に陥る〉と書いてある、と。では、なぜ300万円なんだと突っ込むA氏にC氏は言います。

      「俺は権威が欲しかっただけで、弁護士の仕事がやりたかったわけじゃない。このままじゃヤバいと思ってるよ」

     こうしたかけ合い自体が、出来過ぎ感を持ってしまうところではありますが、ここで見る限り、C弁護士は弁護士という肩書の「権威」と「労働からの解放」を目指して、どうも後者の方は、早々にあてが外れたということのようです。

     ひっかかるのは、「権威」という言葉です。かつて弁護士から、この言葉を聞く時、権威主義に対する対抗者としての立場、「権威」に服従しないための「権威者」を志すといったようなニュアンスが聞かれました。だが、C弁護士のいう「権威」とは、何だったのでしょうか。弁護士という仕事そのものに興味がないそれは、東大卒のプライドを維持したかっただけ、と解釈すればいいのでしょうか。

      「自由」を求めて弁護士になった、という言葉はかつてから多く聞きました。それは前記「権威」あるいは「権力」からの精神的な自由という側面がありますが、現実的には「経済的自由」が担保され、それを支えていたことも否定はできません。それが崩れたゆえに、高い会費を求める弁護士会の強制加入、弁護士自治を「規制」としてとらえる見方が強まっているのが現在です(「『弁護士自治』崩壊の兆候」)。

      「このままじゃヤバい」と考えるC弁護士は、資本主義から距離を置きたいとしつつ、知り合いのソーシャルアプリで「メチャクチャ儲かっている奴」にあやかって、そういうことを始めようかと考えているそうです。もはや「リーガルサービスとの親和性は不要」とおっしゃる方は既に登場していますが(「法律事務所系『回転ずし』という現象」)、C弁護士の場合、支えようとしているものが、リーガルサービスなのかも定かではありません。

     この世界を目指す動機は何であれ個人の自由ですし、そういう意味では、大昔からC弁護士のような弁護士は「経済的自由」に支えられて存在していた、という人もいるかもしれません。そういう意味では、中には「改革」が、「負け組」として淘汰する側でいいではないか、という人もいるかもしれません。

     しかし、問題はC弁護士のように弁護士に「権威」だけを求める人材が、競争・淘汰論者の想定に反し、弁護士としての「評価」として生き残るのではない形で増え続けることが、果たして市民にとって望ましいのか、そして、そもそもこうした状況の「負け組」が象徴として扱われるこの世界に、なにはなくとも「弁護士」という仕事をやりたいがために目指すという有志が、どの位見込めるのか、という現実的な話です。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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