法曹養成制度検討会議の注目点

      「法曹の養成に関するフォーラム」からのメンバーの横滑りに、新味のある議論を疑問視する見方が出ている法曹養成制度検討会議(「『出来レース』としての法曹養成制度検討会議」)ですが、それでもこの中で、新たに加わった4人がどういう発言をするのかは、やはり注目する必要があります。

     8月28日の検討会議第1回でも、彼らに発言の機会が与えられ、この会議に望む問題意識の一端が明らかにされていますが、このなかに、特に注目できる共通した認識を見つけることができます。それは端的にいえば、「このまま弁護士を増やすだけではどうにもならないということ」と、括れるように思えます。

     清原慶子・三鷹市長の話。条例制定、訴訟の予防としての法律相談、法務研修、住民や関係団体との協定・覚書内容のリーガルチェックなど、法曹有資格者の必要性は認められるが、自治体現場で採用が増えない。顧問弁護士と職員採用での有効性の検討が十分でなく、顧問弁護士が活用されている。その理由は、長引く景気低迷のなかで、財政改革が進められ、そのなかでも公務員の定数削減と人件費の削減は優先順位が高く、専門性から給料・報酬での厚遇の必要性からも、自治体としてはあえて採用することへのインセンティブが働いてこなかった――。

     つまり、経済的に余裕がなかった、ということになります。要するに、いくら必要性を羅列しても、経済的なハードルをクリアできければ、弁護士を増やしたところで採用は増えないことになります。

     医師である国分正一・東北大学名誉教授の話。医学部で7000人を超える卒業生を出しているが、こうした検討委員会を設けるという話にはならない。理由は働けるから。それは医学の進歩どうのではなく、38兆円に近いお金が国民医療費として使われ、毎年1兆円ずつ国民医療費が増えているという現実。これによって医師ばかりではなく、増えている骨接ぎの人たちも生きていける。仕事がある。法曹の問題について、こういった財政的経済的な裏打ちがあるのか。裏打ちがなければ、どうしても間口は広がらない――。

     ニーズがあって、それに対応する弁護士が数として必要であるとしても、経済的財政的裏打ちがなければ成り立つわけがない。当たり前のことでありながら、今回の「改革」の弁護士増員をめぐる論議で、えんえんと欠落し続けているようにみえる視点です。

     さらに、こうした経済的な前提条件のほかに、もう一つ「増やすだけではどうにもならないこと」と括れる彼らの共通認識は、法曹有識者自身が法律事務所以外の道を選択しない現実と、そのことと法科大学院教育が関係しているのではないか、ということです。

      「法科大学院さんの方で自治体をインターンシップとか実務研修の場として期待していないという現状」「言うなれば,法科大学院のカリキュラムの中に、必ずしも自治体勤務をキャリアデザインとして積極的に位置付けていただいていないのではないか」(清原市長)

      「(医学の分野で専門が分化し、臨床医学が発達したように) 臨床的な社会を意識した分化があるか。学生がそういう教育を受けていれば、キャリア形成の資質が深まり、自分の夢のような、あるいは人生設計ができます。そうなれば、プライドを持って企業に行けるんではないか」「弁護士さんとして開業するのがベストの姿だとしか考えられなければ、なかなかほかの分野には行かないだろう」「もちろんそれには給与等で開業に匹敵するような、あるいはそれより多少少ないけれども、プライドを持つことによって給料の少ない分を補えるということ」「こんな幾つかの分化というようなものがあって、法曹人の多様性というものが生み出されていく、こういう教育をしているか」(国分・名誉教授)

     こうした法曹有資格者の、企業よりも法律事務所を志向する意識そのものは、仕方がない(和田吉弘弁護士、新委員)、あるいは企業へ就職する意欲を出せ、といっても、法曹教育を一体で考えなければ無理(萩原敏孝・小松製作所特別顧問、フォーラム既存委員)といった意見も出されています。

     もっとも、企業・自治体を「受け皿」と想定して、そのニーズに対応した能力と意識をプロセスの教育で醸成するとしても、その規模や成り立たせる経済的環境の問題を抜きして、まず、数を生み出してしまうというのでは問題は解決しません。また、いうまでもなく、その意識醸成には時間がかかります。

     むしろ既存委員からは、例えば日本語による法律サービスの提供とか、日本企業のニーズを的確に把握した上で日本法と現地法を比較対照しながらきめ細かいアドバイスをするといった仕事は、弁護士でなければいけないのか、ニーズはあると言いながら、なかなかマーケットにならない原因の一つは、弁護士でなければいけないというハードルがある、資格を持った弁護士の職域というだけで限定すると、最初からハードルが高くてマーケットが作りにくいんではないか(山口義行・立教大学経済学部教授)といった見方も出されています。

     これは、採用する側の立場に立って、ニーズに対応するというのであれば、「弁護士」という資格にこだわらず、一定の分野の法律専門家を養成・認定していく方向があってもいい、という考え方です。「改革」が唱えてきた弁護士が社会の隅々に乗り出す、弁護士拡大論・活用論からいったん目を離すもので、当然、増員論そのものにも影響を与えるものとなります。

     こうした「改革」路線が描いてきた絵を、根本的に描き変えざるを得なくさせる現状認識が、今後、この会議で、どう扱われていくのか、そこは大きな注目点です。


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    ニーズを無視した職域拡大論のような

    そもそも自治体で弁護士のニーズがそんなにあるのかな、という気はします。
    自治体における弁護士職員の有効性については仙台の坂野先生が以前に
    ブログで取り上げてらっしゃいますが、
    http://jsakano1009.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-5aae.html
    個人的な感覚としては、こちらの見解に共感できるところです。
    弁護士が法律の専門家といっても、たいていの弁護士は行政法や地方自治
    法に疎いですし、まして立法法務(最近では政策法務と言われていますが)に
    ついてはまったくの素人です。
    国家公務員の世界では弁護士資格者も他の職員と同じ待遇で採用されて
    いますが(大学院卒の扱いです)、一般的な若手弁護士を採用するのであれ
    ばこうした待遇が適切ではないでしょうか。
    「弁護士職員だから特別扱いして」と言っているようでは、自治体も採用する
    気にならないでしょう。
    ちなみに、市長が弁護士で弁護士職員を大量採用した兵庫県明石市では、
    弁護士職員などを巡る騒ぎが尽きないようです。
    こちらの市会議員さんのブログに地元の新聞記事が掲載されていました。
    http://blogs.yahoo.co.jp/tsujitatu0917/37527299.html
    http://blogs.yahoo.co.jp/tsujitatu0917/37511497.html
    もっとも、これらの騒動はちょっと特殊事例に思えますが。。

    No title

    「日本企業のニーズを的確に把握した上で日本法と現地法を比較対照しながらきめ細かいアドバイスをするといった」ニーズにこたえるために、旧司法試験時代では諸外国に自費留学した弁護士も多くいました。
    しかし、法科大学院の学費を支払って、貸与制を乗り越えて弁護士になった若手には、そんな経済的余裕はないでしょう。その意味では司法改革が逆にニーズにこたえられない状態を作りだしているといえるのではないでしょうか。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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