需給の「ミスマッチ」という言い方

     弁護士を増やしてみたものの、需要がないという現状認識に対するものとして、最近、やたらに目につくのが、「ミスマッチ」という言葉です。需要がないのではなく、需要と供給が分野的にずれている、かみ合っていないだけである、という言い方に聞こえます。

     日本経済新聞の9月18日付けの社説「『多様な司法』実現へ構想を練り直せ」にもこんな表現が出できます。

      「この10年間に弁護士の数は1万8800人から3万500人へと1.6倍に増えた。司法改革の設計当初に見込んだほど弁護士に対する需要は広がっておらず、司法修習の設計当初に見込んだほど弁護士に対する需要は広がっておらず、司法修習を終えた時点で2割の人が就職先が決まらないため弁護士登録をしていない。だが、これは仕事がないというより、需給のミスマッチの問題ではないか」

     日経は6月にも、この「ミスマッチ論」を掲げていますが(「弁護士資格が『職業』に直結しない未来」)、弁護士でも、国際法曹協会(IBA)会長の川村明弁護士がダイヤモンド・オンラインの特集連載「弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年」のインタビューで、司法研修所が育成している実務家が、企業や社会が広く必要としている法律プロフェッションのニーズにずれがあることを指摘し、「時代の要請と供給のミスマッチマッチしているのか」などとしています(「『国際的』弁護士必要論の通用度」)。

     しかし、そもそも論として、今、起きていることは、ミスマッチの問題とくくるべき問題なのでしょうか。もっといってしまえば、そうくくることで何とかなる話でしょうか。日経の今回の社説では、やはりビジネスの現場で、M&Aや資本市場からの資金調達、事業再生などに精通した弁護士が必要な場面が増えている、としています。問題はその規模の問題です。企業が弁護士を大幅に採用するような状況や、そのニーズに応える事務所が大量に採用する用意があるのに、弁護士の意識や養成体制が違う方を向いているというのであるならば、それはミスマッチかもしれませんが、現状は果たしてそういう状況で括りきれるのでしょうか。

     仮に必要とする側がニーズを満たしてくれていない、あるいはまだ数が必要という意味で、彼ら側にとって「ミスマッチ」という言葉が当てはめられる余地があるとしても、日経自身が引用するような、当初の設計ほど需要が広がっていない、という大きなズレの原因を果たしてこの言葉のなかに、押し込められるのか、そのことに根本的な疑問を持ちます。企業での採用に関しては、今後、増えるという見通しではあっても、それを増やしてしまった大量な弁護士の受け皿として期待されることには慎重な意見が企業サイドから聞こえてくる現状を見ても、とてもそれを最上段に振りかぶれるような状況にないように思います。

     まして日経の社説は、最近の世論の目線も計算のうえでのことか、ここで「いじめ問題」でも弁護士・会のやるべきことがある、としていますが、これが大量の弁護士を経済的に支える有償のニーズになり得ると、どうしてみているのか、少なくともこの文脈でみることには違和感を持ちます。これまでも書いてきたように、採算のとれない大量のニーズが存在し、それに対応する大量の弁護士がどうしても必要というのであるならば、それを支えきれる経済的な基盤を別途作ったうえでなければ、成り立たないのは当然の話ですが、なぜかえんえんとそうした話にはなりません。

     日経の社説は、司法試験合格者数減含みで、今後進められる政府・検討会議の議論を牽制するものです。その本心は「実態に合わせて理念を下げるような『合格者数の削減ありき』の議論ではなく、どうすれば本来の司法改革が実現できるかを考え」ろ、という言い方に現れています。

     理念を実現しようとした「改革」がもたらしている実態を省みず、理念を貫けという、どうしても司法審「路線」に固執する、あるいは傷つけまいという発想のおかしさ。前記「ミスマッチ」という言葉に、現状を押し込めようとする苦しい手法は、まさにその象徴というべきです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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