全国紙記者の目に映っている現実

     東京弁護士会の機関誌「LIBRA」の9月号で、全国紙4紙と共同通信の記者5人が参加した座談会を掲載しています(「座談会 司法記者は語る」)。企画の狙いどころとしては、司法記者を知るというところにあったかもしれませんし、それはそれなりに目的を達成しているのかもしれませんが、個人的にはこの内容に肩透かし感があります。

     それは端的にいって、裁判員制度を除いて、司法改革関連の、とりわけ弁護士界内で問題視されている、大新聞論調に切り込む内容が全くないからです。弁護士の増員政策、あくまで司法制度改革審議会の路線にのって旗を振る姿勢、ニーズ「開拓論」「まだまだある論」をあくまで展開し、弁護士会の慎重論に対し、すわ「変節」をいう論調、本当に「二割司法」が描いたような極端な日本の現実があるのかどうか、「社会のすみずみ」に弁護士が登場する社会を含め、この「改革」が描いた絵は本当に大衆が求めているものなのか――これらを、現場の彼らがどう見るのかどう思っているのか、それこそ聞きたいところでしたが、主催者側には全く聞く気がみられません。

     それは意図的に、そうしているととれます。もちろん、現場記者と本紙論説の考え方、見方は違いますし、その違いはこれまでもさんざん耳にしてきました。そこが、はっきりしてしまうことが、「改革」を推進しようとする弁護士会にも、メディア側にも不都合であるという事情が、この企画の進行に深く関係しているのではないか、といったうがった見方をしてしまいます。

     ただ、そうしたこの座談会のなかでも、前記したような意味で「改革」の問題点につながる興味深い指摘が、一カ所ありました。毎日新聞・和田武士記者の次のような発言です。

      「そもそも弁護士というものの実像が伝わってないですよね。実際、一般市民で弁護士が必要な方は、そんなにたくさんいるわけではないですよね。しかも、毎日必要にしているわけでもないし、人生で何回かしかないだろうトラブルにたまたま巻き込まれたという人が弁護士を必要になるわけですね」
      「でも、 その人たちにとって弁護士というと、やっぱり敷居も高いし、 何か頭のいい人たちで、相談したらお金をたくさん取られるというイメージぐらいしかありません。自分がいざトラブルに巻き込まれました。では、どこにどういう形で相談をすればよくて、この弁護士は何に詳しくて、お金はどのくらいかかるのかということがやっぱりわからないですよね」
      「弁護士会でも一生懸命いろいろな情報提供をされていると思うのですが、それが必要とされる方にダイレクトには伝わってないのかなという気がしますよね」

     実は、弁護士を必要とする市民はそんな沢山いるわけではなく、しかも人生で度々お世話になるようなものでもなく、振って湧いたようなトラブルに巻き込まれたような人が必要になる存在――。これは、いわばこの「改革」が、ことさらに直視していない、大衆にとっての弁護士という存在の現実です。

     度々これまでも書いてきましたように、この現実を直視したときに、果たして弁護士を激増させることが本当に市民のニーズの反映といえるのか、本当に増えさえすれば、弁護士におカネを投入する用意がある市民が沢山いると描けるのか、そして一回性といえる市民との関係で、競争による「淘汰」が弁護士を良質化し、その実害を市民が被らないといえるのか、といった当然の疑問が導き出されるはずです。

     この前提に立てば、弁護士・会に求められることも、和田記者の指摘の通りになると思います。つまり、弁護士・会が目指さなければならないのは、その振って湧いたトラブルで弁護士とかかわらなければならなくなった人が、安心して、戸惑わずに、適切に弁護士とコンタクトが取れる環境、そのための情報提供だということになります。

     ところが、結果として「改革」が一番に突きつけているものは、そうではありません。「社会の隅々」論にみられるような、大量のニーズを前提とした、弁護士の拡大政策です。しかも、その肝心のニーズの存在が規模的にかなり怪しくなってきた現在も、推進派はこの見方を維持しようとし、こうなったらならば掘り起こせ、生み出せ、それが国民・市民のため、といわんばかりの主張を繰り返しています。

     弁護士・会に大衆が求めるのは、そんな無理な拡大政策ではなく、大衆にとって取り返しのつかない、数少ない必要とする場面での確実で、安心な弁護士とのコンタクトとその活用にある――。少なくとも、大新聞の司法記者の目にも、その現実が映っていることはうかがい知れるのです。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「弁護士の競争による『淘汰』」についてもご意見募集中!
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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    大抵の人にとって、社会生活上の紛争に巻き込まれるのは、稀であるというのは、まさにそのとおりですよね。
    弁護士も成人君子ではないので増員の結果、仕事の奪い合いという事態となれば、回収リスクの高い人、端的に言えばお金のない人の依頼は回避する傾向が生まれ、結果、社会の隅々に司法サービスをという崇高な理念に反する結果も危惧されます(この理念自体は、否定できないものと僕は考えてます)。

    体の異常が突発的に起こるように、普通の人にとっては社会生活上の紛争に巻き込まれるのは多く突発的であり、病気みたいなものと考えれば、医者と同様、その解決にかかるコストは保険で対応すべきであって、国民全体の負担とすることも考えてよいと思います。

    弁護士の業務の対象の多くが社会生活上の紛争の解決であって「営業」に馴染まないですから、最低限、相手を問わず収入を確保する仕組みを作り、その上で弁護士としてのスキルでの競争による淘汰の土壌ができてくれるといいのですが…。

    もっとも、外部的評価とその提示のしにくい弁護士の技術による淘汰は、保険制度を構築しても難しいとは思いますが。。

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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