「期待」から導き出される危うさ

     メンバーを見ただけで、「結果は見えている」といったため息が聞こえてくる法曹養成制度検討会議(「『出来レース』としての法曹養成制度検討会議」)がスタートした8月28日、その直前にあった滝実・法務大臣に対する閣議後の記者会見では、記者からやはりこの会議のことが取り上げられました。

     この会議でどんな議論を期待するのか、という質問に、「今までにない幅広い意見をこの検討会議で出してもらいたい」と回答した法相に対し、記者がすかさず突っ込みを入れています。

      「今までにない幅広い意見とおっしゃいましたが、検討会議のメンバーを見ると、基本的にはほとんど法曹の養成に関するフォーラムのメンバーで構成されています。また、一部は違いますけれどメンバー的にも、基本的には法科大学院の存続ありきのようなお考えの方々のようですが、そうした中で改革の根本的な見直しの議論ということができるとお考えでしょうか」

     改めて誰の目にも、そうとしか見えないのだな、と思ってしまいます。その意味で、質問としては当然のものというべきです。しかし、これに対し、法相はこう答えています。

      「新たな4人が加わることによって、議論が別の展開をみせることが期待できるわけです。例えば医学部のプロフェッサーに入っていただいておりますが,そういった専門家を育成する立場からの意見というものも一つの期待感としてあるわけですし、また介護施設関係の経験者には、その観点から、これからの高齢化社会を迎えて介護の関係から法曹に対してどのような期待感を持っておられるのかとか、そういった今までにない分野からの意見というものを一つの問題意識として検討の幅を広げるということを期待しているわけです」

     新たな4人とは、ここでいわれている大学名誉教授の医師、社会福祉法人理事長のほか、市長と弁護士で、残り13人が「法曹の養成に関するフォーラム」からの横滑りです。議論はこれからで、彼らがどのように議論に貢献するかは未知数ですし、あらかじめそれを低く見積もるような話は、4人に対して、非礼に当たるかもしれませんが、単純にこの人数構成から考えても、本当に「別の展開」を期待しているとはとても思えない会議の作りです。

     記者がはっきり見抜いているように、「基本的に法科大学院存続ありき」では、「改革の根本的な見直しの議論」はできないわけですが、法相の口から「幅広い議論」への期待感の声を聞いても、残念ながらフォーラム後継組織が、そこに留意しているとは、とても思えません。もっとも、この4人にしても「法科大学院存続」ということに対し、基本的にどんなお考えなのかを人選する側が、把握したうえでのことであるならば、そもそもそういうレベルの「別の展開」は、想定外であっても、ちっともおかしくありません。

     さらに、法相はこの日、もう一つの焦点である年合格「3000人」について、こんなことを言っています。

      「直ちに3000人という目標を下げるかどうかというのは,検討会議の結論がどうなるかということもあるでしょうけれども,やはり社会全体が法曹をどうやって利用していくか,受け入れていくかという関連がありますので,予断を持ってどうするかというのは今はなかなか言いにくいと思います」
      「日本もこれから法曹の活躍する部分としてどういうようなことが期待されているかということも考えながら,数値をめぐっての議論がさらに深まっていけばいいと思います」

     法務省が同会議へ2000人を提案するという情報が流れています。しかし、法相としては、ここはこれから始まる会議を、ある意味立てて、その方向性については、明言は避けた、という括り方でいいのかもしれません。しかし、「社会全体が法曹をどうやって利用していくか、受け入れていくか」という問題であるがゆえに「予断を持ってどうするか」はいえないテーマを、法曹に対する各方面の「期待」の声で結論を出せるのか、出していいのかという点で、なにやら危ういものを感じます。

     そもそも「期待」感を集めた算定の先に、現在の失敗があったのではないか、そして、そう考えるならば、今、「どうやって利用されているか」「受け入れられているか」ということの現実が、既に答えとして今出ているのではないのか、と。また、何やら各方面の「期待」の声をもってして、失敗の現実があってもなお、それを越えて、この路線を牽引してしまうのではないか、と。

     日弁連が発表している試算では、年2000人とした場合、平成34年(2022年)に、1500人とした場合、平成39年(2027年)に、それぞれ弁護士は5万人に達するとされています。現在、既に過剰状態が問題になっている弁護士の経済的環境と修養環境がが、それこそどれだけ目覚ましく改善され、どれだけの「期待」があれば、この人数を支え、成り立ち得るとみるのか――。その途方もない話が、前記「法科大学院存続ありき」によって、結論が導き出されるのではないか、というところも、この会議の懸念される「展開」です。

     あるいは記者をはぐらかしただけかもしれない法相の発言ではあっても、その「別の展開」への期待感をいう言葉には、やはり虚しさと危うさを感じてしまいます。


    ただいま、「日弁連の『法科大学院制度の改善に関する具体的提言』」についてもご意見募集中!
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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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