フランス弁護士メンヘル分析の現実味

     法曹人口をめぐる議論では、「フランス並み」などと引き合いに出された同国の弁護士事情の一端が、日弁連の機関誌「自由と正義」8月号の特集「弁護士のワークライフバランス」のなかで紹介されています。知りませんでしたが、フランスでは弁護士に関するワークライフバランスやメンタルヘルスといったテーマに対する問題意識が既に強く存在しているようで、同誌は対策という意味で「先進地」と位置づけています。

     このなかで、弁護士のメンタルヘルスへの取り組みとして、同国の全国弁護士評議会(CNB)の「弁護士の将来に関する委員会」が2010年5月のCNB総会で発表した調査結果の現状分析について、同誌は「日本の弁護士と共通するものがあり、日弁連が今後の対策を考える上で参考とすべき点が多い」と注目し、その概要を紹介しています。

     そこに、気になる報告が出てきます。フランスの弁護士数は10年で4割増加し、約5万人になり、全体の半数が女性、全体の半数が40歳以下となり、一方で急激な増加で弁護士間・公認会計士等の隣接業種との競争が激化。そのようなかで、弁護士の病気による廃業や自殺が増加し、労働不能で所得保障を受領するケースの47%は鬱症状が原因とされている、と。特に若手と女性にアルコール過剰摂取や心理的問題が多く生じており、回答者の32%が喫煙、53%が定期的にアルコールを摂取、51%が心理的トラブルを抱えていた、としています。結果として、実際に問題を抱えた弁護士への援助だけでなく、弁護士全体へのメンタルヘルスへの啓発が必要としており、相当な予備軍がいるとう認識であることもうかがわせています。

     弁護士がその業務自体にストレスを抱えやすい仕事であり、経済的な要因がそれを悪化させることがここで明らかにされていますが、むしろさらに気になったのは次のような記述です。

      「弁護士は、周囲が弁護士に抱くイメージを保持しながら仕事をする必要があり、弁護士の多くが鬱病やアル中であり、自殺しているなどという話を公表して弁護士のイメージを壊すことは許されない」
      「弁護士は多くの場合孤立し、自分が心理的問題を抱えていることを恥ずかしく思い、弁護士会に知られることを恐れている。このため、抱えている問題を他人に話せるようになるのは、事態が悪化してしまってからのことが多い」

     これを「弁護士の職業イメージの維持の要請」とくくって、ここで日弁連機関誌の執筆担当の弁護士が、注目した点は何だったのでしょうか。前段についていえば、日本の弁護士が全体として、弁護士のイメージが壊れることについて、ここで書かれているようなフランスの弁護士の「許されない」といったレベル意識が存在しているのかどうかは分かりません。日本の多くの弁護士は、弁護士イメージの悪化が、自分の業務に及ぼす深刻度を、まだそこまで感じないで済んでいるのかもしれません。

     ただ、むしろ依頼者・市民側にとって、深刻なのは後段の方です。つまり、弁護士が抱えている心理的問題が表に出てこないまま、影響が出てしまう可能性です。これまでの弁護士界を見てきても、こうした危険をうかがわせるケースは現にあります。弁護士が突然、連絡が取れなくなる。弁護士会に当たっても、本人から連絡がないために分からず、ようやくたどりつけた友人の弁護士から、その弁護士がそうした心理的問題を抱えていたことを知らされた、といったことはありました。今よりも、弁護士が少なく、いまほど競争といったことがいわれていない時代にも、そんなことは起こっていたことを考えれば、ここはわが国でも現実的な問題です。

     つまり、これは危険物を取り扱う人間や人の命をあずかっている運転者同様、弁護士という仕事の社会的使命や責任の重大性からすれば、依頼者・市民側のリスク回避は最優先とされてもおかしくないことであり、弁護士の心理状態の維持と、現状の表面化こそ、本来的には社会的な要請としてとらえていいことを示しているように思えるのです。

     既に以前取り上げましたが、昨年日弁連が発表した調査結果では、弁護士業務を遂行するに当たって、心理的な不安が原因と思われる「ストレス症状」が出たことはあるかという質問に対しては、現在あるとの回答が50%、過去にあったとの回答が15%で計65%が現在もしくは過去にストレス症状を経験している結果が出ており、ストレス症状ありと回答した人の実に15%が「自殺を考えたことがある」と答えているというショッキングな結果も出ています。回答率の低さも、前記したような事情を考えれば、少なくとも安心材料とはいえなくなります(「弁護士のストレス」)。

     弁護士の激増政策と経済的な変化によって、この問題を深刻に受け止めざるを得なくなり、対策の「先進地」となっているフランス。この面こそ、日本は「フランス並み」の状況と対策を念頭に置くべきところにきたとみるべきです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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