弁護士の「専門」表示を阻む事情

     かつて在籍していた新聞社で、「全国弁護士大観」という書籍を出していました。版を新しくする度に、必ず全国の弁護士に経歴原稿・写真の提供や、在版原稿の修正を求めて製作してきた弁護士の紳士録のような体裁の書籍ですが、その提供をお願いする情報の中に、「得意な分野」というものがありました。

     いうまでもなく、これを掲載しようとする趣旨は、この本のユーザーとなる依頼者・市民にとって、弁護士の「得意な分野」、専門分野といった情報が、非常に関心が高いということによるものです。現に、本社へのユーザーからの問い合わせでも、この件に関するものが非常に目立ったことは事実です。

     ところが、やや困ったことが生じてしまいました。サイト上などでも見られる、いくつかのジャンルを列挙し、そこから選択させるような形で、選択肢に「法律全般」というのを加えたところ、多くの弁護士がこれを選択してしまう、ということです。これは、弁護士の側からすれば、オールマイティを強調したい、という事情もあります。とりわけ、地方の弁護士からは、より「何でも屋でなければやっていかれない」という声も聞かれましたし、いったん特定の分野を書いていた弁護士が、改訂の際に、「やはり全般がいい」と修正を求めてくるケースも少なくありませんでした。

     しかし、これではユーザーからすれば、何のための「得意な分野」の表記か分からなくなってしまいます。横並びの「全般」表示では、書いていないのと同じになってしまう。ただ、この選択肢を設けないと、何も書かないことがオールマイティを意味すると解釈して、空欄にするという現象もありました。つまり、これはユーザー側が求める「得意」「専門」という情報提供に対して、弁護士側がオールマイティをアピールすること以上のメリットをつかみ切れていないことを示しているようにとれました。

     日弁連で検討か始まっていると伝えられている弁護士専門制度に絡めて、小林正啓弁護士がブログで、面白い小噺調の「近未来小説」を披露しています。ここで登場する話が、まさに前記したような事情につながっています。

      「専門」を看板に掲げれば、それ以外はダメととられる、沢山の「専門」を掲げると「多芸は無芸」になる、と。こういう話になると、必ず引き合いだされるのは医者です。医者には、内科、皮膚科と専門があり、より市民が選択できている、と。現に、今回の日弁連の制度検討も、高度な技量や豊富な経験を持つ医師を学会が認定する専門医制度を参考にしている、と伝えられます。

     だが、ここが違うという話です。つまり、医者の場合、その特定の専門で食べていけるが、弁護士はそれだけでは食べていかれない、という事情があることです。小林弁護士も近未来小説の登場人物にこう語らせています。

      「日弁連としては、おおかた医師会の真似をしたつもりだろうが、医者の場合、内科にしろ皮膚科にしろ、専門分野一つで食っていけるじゃろう。だが弁護士の場合、離婚事件を多く手がける弁護士ですら、それだけでは食っていけないのが実情じゃ。難しくいうと、市場規模が全然違うのだな」

     以前から、日弁連が会員の専門分野を認定する制度は、会内で取りざたされていました。大衆にアピールするうえでのある種の客観性の担保という意味で、創設の意義も唱えられ、日弁連は業務広告に関する指針のなかでは、この制度が創設されるまで、「専門分野」の表示を控えることを推奨してきました。しかし、一方で何を専門認定の基準にするのかや、日弁連がその主体として、「専門」についての責任を負いきれるかといった問題がネックとして指摘されていました(「弁護士の『専門』アピールと『誤導』のおそれ」)。

     この制度をめぐる今後の議論では、こうした問題点からの異論が会内から噴出するのは必至ですが、そもそも論として存在する、前記弁護士の業態の現実が大きく立ちはだかるのは間違いありません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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