新人弁護士と法曹界の「淘汰」

     弁護士激増による新人の就職難、それに伴う「ノキ弁」「即独」増で、従来のイソ弁型の先輩からの実務指導を受けられなくなったことの影響が既に出始めているとみる報道がなされていますが(「『弁護士被害』から導かれる方向」)、以前からこうした傾向に対して、ある言い方を耳にすることがあります。

      「そういう弁護士は市場原理で淘汰されるから、いいはずではなかったの?」

     いうまでもありませんが、こういう切り口のほとんどは、それが少なくとも弁護士の口から聞かれる場合、今回の激増政策に対する、一種の皮肉としていわれていることで、もちろんこの傾向をよしとするものではありません。

     ただ、弁護士の就職難と競争による「淘汰」をあわせみると、あながちそうでもない捉え方ができてしまいます。つまり、これが「淘汰のプロセスだ」、と。だとすれば、弁護士会挙げて深刻に受け止めている就職難というテーマも、いわばあってないようなものとしてとらえられてしまいます。なぜなら、実力において、淘汰されるべき弁護士の「就職先」も、仕事先も考慮する必要がない、ということになるからです。

     つまり、これはどういう状態かといえば、真っ先に「淘汰」のターゲットになる可能性が高いのは、こうした新人弁護士ではないのか、ということです。競争といっても、まず、そのスタートラインに立てず、立っても実力において、圧倒的に不利な新人から、まず、お引き取り願うということにならないのか、という話です。

     少し前の弁護士ブログに、新人弁護士の年収の異常な下落傾向から、そのことを懸念するものがありました(「白浜の思いつき」) 。日弁連機関誌「自由と正義」5月号の特集の中の「新63期弁護士の就業状況について」に掲載されている統計をもとにした分析です。

     年収500万円以下は59期7.6%、現60期14.8%が、現62期25.2%、新62期27.7%、現63期47.5%、新63期(480万円以下)37.0%。300万円以下は59期0.5%が、現63期6.6%、新63期2.3%。400万円以下59期0.3%が現63期13.1%、新63期8.1%(注・数値は前記ブログではなく、「自由と正義」から引用)。

     ブログ氏は、こう懸念します。

      「ベテラン弁護士が、新人との競争に負けてステージから敗退するというようなことは、机の上の議論であって、実際には格差が広がるばかりと言っても言い過ぎではないように思います。今の激増政策は、新規参入者いじめ以外の何物でもないと思うのです」

     そして、ブログ氏も指摘していますが、それだけではありません。年収500万円、300万円台に、どれだけ事前に投資するか。「大学院などいかずに大卒として企業に就職した方がましということになりますから、なぜ、時間や学費をかけて法科大学院で勉強しなければならないのだろうかということになってしまう」(前記ブログ)。法科大学院制度の改善がいわれていますが、その先に広がっている法曹界「淘汰」につながる現実です。

      「500万円でも新人としては貰いすぎ。他の業種はもっと厳しい」「弁護士増反対はベテランが既得権益を守ろうとするもの」ということもいわれますが、この新人弁護士と法曹界の淘汰という厳然たる事実が横たわっています。新人の実力という意味で、それを培ってきた修養期間、そして前記経済的環境を破壊しているのが、この「改革」であることは間違いありません。もちろん、これは市民が求めたわけでも、また市民に利をもたらす見通しの話でもありません。そして、そもそも「新人」が育たず、目指すこともなくなる法曹界に、未来などはないのです。


    ただいま、「弁護士の競争による『淘汰』」「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
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    No title

    弁護士大増員の理由とされた、「需要がいっぱい」は、真っ赤なウソであった。
    また、大増員を掲げながら、ロースクールにお金を払えない人達の合格者枠は、なぜか徹底的に減らされた。

    以上の事実から、大増員の真の理由は、「ロー卒者に大幅な合格者枠を与えること」 であったことは明白。
    すなわち
    「ローにお金上納した人は、高い高い合格率の試験受けられる権利買えますよ~」という
    入学者集めの特権を、国家権力が与えるためである。

    よって、「競争・淘汰」を是とする人間であれば、司法改革を肯定することは、不可能である。
    司法改革を肯定できるのは、競争を根幹から否定し、
    「大学利権とそれにあやかれる一部の人間に対し、国家は徹底的に、手厚い手厚い特別の保護を続けるべきだ」
    という思考の持ち主のみ。

    No title

    そもそも、「需要がいっぱいある」との名目で国家が税金かけて弁護士大増員政策を決定したわけです。
    よって、「淘汰」云々が語られていること自体、当該名目でウソであったことを示すものです。

    また、実態面では、「競争」を根本から否定し、国家権力が大学機構に更なる特権と、莫大な血税贈与により手厚い保護を重ねたのが、司法改革です。
    よって、「競争・淘汰こそが正しい」と考えるのであれば、司法改革を徹底的に批判しなければならなくなります。

    私に反論している方は弁護士さんでしょうか?。なぜ私が弁護士を目指すという結論になるのかはかよくわかりませんが。私が言いたい反論はほぼサカイBさんが述べている通りです。ただ一つだけ。
    私が先ほどあげたような弁護士を擁護してなんになるんですか?彼らが国民から必要とされてるなら淘汰される事はないでしょう。
    もし淘汰のおそれがあって淘汰されたくないというんなら本人が改善すればいいんです。
    彼らを守る意味がよく分かりません。彼らは真面目にやっている多くの弁護士さんの足を引っ張っているように思えます。

    んー。
    自由競争って元来そういうものでしょう?
    学生が大学校内のラーメン屋で満足してるなら、不味かろうが、高かろうが、それが市場が選んだ良質のサービスなんですよ。
    それに、早く参入した方が有利なのはどの業界も同じだし、既存の組織に入れなかった人には逆転の可能性が小さいのもどの業界も同じだし。
    結局、この手の議論で鍵になるのは、「どの業界も同じ」というセリフにどう反論するかだと思う。
    多分そこで弁護士業の特殊性とか公益性とかの話が出てくるんだろうけど、特殊で公益的な業界でも競争の激しい業界ってあるし。
    結局、そこでも「どの業界も同じ」のセリフに戻ってくるよね。
    それに、そもそも参入規制で競争から保護したほうが、国民にとって利益になるとしても、それが正しいとは言えない時代なんじゃないかな?
    たとえば、検察の取り調べが全面録画されることによって被疑者が萎縮して取り調べに支障が生じるとしても、「国民から隠すことによる利益」は正しい利益として認められないというのが、今日の価値観だとしたら、デメリットをいくら言っても仕方ない。
    要は、競争は正義というのが、今日の常識であり、いわばドグマですから、いくら競争による弊害を言っても、「非競争という手段以外で是正すべし」という答が帰ってくるだけだろう。

    ラーメン屋の淘汰とは

    「自由競争させれば、必ずいい弁護士、安くて有能で腰の低い弁護士が勝ち残る筈だ! 絶対にそうなる! ならないはずがない!」という妄想にしがみついている人って、社会生活営んだことがないんでしょうかね。
    例えば、ラーメン屋が「自由競争で淘汰」されるのってどうなるのか、一度でも考えてみたことがないんでしょうね。

    どう考えても、味よりも、接客態度よりも、値段よりも、「店を出している場所」が最重要の決め手だと思いますけど。大学の正門から何百メートルも離れた町外れの、それも屋台でしか出店を許されなかったラーメン屋と、大学正門すぐ前のマンション1階に入居しているラーメン屋と、大学構内の学生食堂と、「平等で公平な自由競争」とやらが成立しているはずがないってことぐらい小学生でもわかるだろうに。いくら大学構内に出店したくても大学当局が認めてくれなくちゃ駄目。正門すぐ前に出店したくても、空き物件が存在しなけりゃお手上げだし、仮にあっても入居・新装開店には莫大な初期投資が要る。既存店舗に就職できた人間とできなかった人間が対等な競争なんかどう考えてもできてるわけがないのに。しかも、ラーメン屋は個人の客がその日の気分で選べるが、弁護士特に企業法務なんて、長期契約が基本でしょ。顧問弁護士を毎日あるいは毎年くるくる気まぐれに替える会社があるんですか? コネと惰性でガッチリに決まってるでしょ。

    「そうですかね?」さんは、ご自身がさっさとどこかの法科大学院に入って下さいな。さっさと新人弁護士になって、既存の悪しき弁護士を実際に淘汰してやって下さいな。それほどまでに堅く信じ込んでいられるなら、ためらう理由があるはずないでしょう。実際に自身で持論を証明して下さいな。そうしてくれたら、私は潔く脱帽して敬意を表します。

    真っ先に淘汰の対象になる=新人弁護士は誤りではないでしょうか?

    真っ先に淘汰の対象になるのは犯罪を犯したような弁護士やお客さんに横柄な態度をとっている弁護士、新人以下の能力しかないような弁護士でしょう。
    他業種なら当然すぐ淘汰されるべきここら辺の人達が淘汰されないことが問題なんです。

    ベテランに対抗する鍵は弁護士事務所の大規模化でしょう。
    実力で劣る新人が唯一ベテランに優る点が組織に入ることに抵抗がすくないというところでしょう。
    事件ごとに分担をすればクオリティーの高いサービスを提供することも可能だし。

    拝読しました。

    「真っ先に「淘汰」のターゲットになる可能性が高いのは、こうした新人弁護士ではないのか」という懸念は、正直考えなかったですね。たしかに、弁護士業は、定年がないこともあり、この懸念は正当なものだと考えます。

    解決策は持ちあわせていませんので、新規参入者の成功を祈るしかないですけど。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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