潜行する日弁連「保釈保証制度」事業

     不透明な部分があるとして、ここで何度か取り上げている日弁連構想の保釈事業構想(「日弁連『保釈保証制度』事業構想の不思議」 「不透明な日弁連『保釈保証制度』事業構想」 「日弁連『保釈保証事業』の見えない担保力」)ですが、その後、どうなったのかについては、表立って伝えられていません。多くの会員が、全く認識していない状態が続いており、構想は立ち消えになったと思っている方も少なくないようです。

     しかし、そうではないようです。この構想は、組合員である弁護士の業務支援等を行っている全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が「保証機関」となり、裁判所が「被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えること」を許した場合(刑事訴訟法94条3項)を前提に、保証書を発行する、というものです。その全弁協が5月31日に開いた総会で、「保釈保証書共同発行」を事業に加える定款変更を可決・承認しています。

      「秘かに」という表現は必ずしも適切ではないかもしれませんが、会員向けに新規事業具体化をアピールするわけでもなく、以前のようにマスコミから情報を流すわけでもなく、あくまで内部で構想のためのお膳立てをした、というものです。その対応の変化は、どうしても「潜行」というイメージを持ってしまいます。

     全弁協や周辺の取材でみえてくるものは、以前の構想は少なくとも立ち消えになったわけではなく、具体化を前提に一部弁護士が推進しようとしていること、それを前提に、依然、外部との交渉を進めていることなどが分かってきました。詳細は明らかにされていないのですが、「潜行」については、これまでも指摘してきたような、対関係省庁での、制度的な枠組みに関するハードルをクリアできていないといったことや、会内からの消極論噴出をおそれて、取りあえず具体化を先行させる、という方針に転じたのではないか、という見方もされています。

     こうした中で、この構想に注目している弁護士会内外の人間からは、二つのことが言われています。一つは、当初、この制度に関して言われていた「保険」という文字が完全に消えた点です。これは、以前指摘したように、全弁協の「保証機関」業務が、保険業法2条1項に規定する「保険業」または3条6項に規定する「保険証券業務」に該当しないのか、という問題をあくまで回避する、あるいははっきり切り離すために(区別を明確にするために)、とられた方策とみることができます。

     ただ、日弁連構想のスキームに基づけば、保証委託者は保釈保証金の1割を自弁し、残り9割を保証機関(全弁協)の保証書によってカバーする形で、委託者はその2%を保証料として保証機関に支払うことが概ね想定されていますが、保証機関はバックに損保会社がついて保険をかけます。つまり、保証金が没取される事態になった場合、例えば全体の8割を保険がカバーするという話です。

     日弁連のもともとのスキーム案では、保証機関または損保会社が保証委託者に求償権を行使するとしています。ただ、業界に詳しい人間の話では、この場合に損保会社が求償するということがあるのか疑問としており、かつ保険でカバーできない残り1割について、全弁協が、それこそ米国の保釈保証会社のように「バウンティ・ハンター」(賞金稼ぎ)を使うなんてことはできない以上、実質取り立ては不可能だろうという見通しが言われています。

     だとすると、問題は、この事業は結局、表看板から文字は消しても、「保険」を利用して、保証金用立てというハードルを下げることによって、保釈制度という側から見れば、その担保力・逃亡の抑止力を大幅に減殺させるものということになります。まず、ここをどう見るかということです。

     そして、もう一つは、求償を含めた運営上の判断、事業としての経営責任は、一体、誰が負うのかということが、不明確であるということです。実は、仮に日弁連がこの事業を立ち上げた暁には、既に民間の数社が、同様の事業を立ち上げることを予定しています。当然、そこには競争も起こり、経営判断も問われます。仮に、事業として損失を出した場合、誰が責任を負うのでしょうか。全弁協という組織が負うとすれば、当然、組合員の負担ということになります。その了解は、得られているということでしょうか。

     ある保釈事業に詳しい人間は、「日弁連はスキームは作り上げても、実際、それを事業として運営するということがどういうことで、現実に何が必要なのかを分かっていないのではないか」と指摘しています。

     こう見てくると、全弁協の組合員でもある多くの弁護士が、この構想の現実を知らず、およそ了解しているとは思えない状況での、前記方針の「潜行」は、まず、最初にやるべきことをやっていないものとして、どうしても違和感を覚えてしまうのです。 


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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