弁護士が驚く弁護士の存在

     最近、とみに聞こえてくるようになったと感じる「こんな弁護士に遭遇した」という、同業者が驚く話。これが新法曹養成制度の産物とする推測には、どうも法科大学院修了者の資質・能力批判という面だけを取り上げて、旧司法試験組のレベルを引き合いに出した反発の声もネット上などでは耳にします(「憂うべき『質』をめぐる相互対立ムード」)

     ただ、以前にも触れたように、前記驚きの声の多くは、必ずしも彼らを批判したり、馬鹿にしているのではなく、真剣にこの状態を懸念しているととれるもののように思えます。そして、批判しているとすれば、こうした状態につながる結果となっていると考えられる「改革」に対してのもののようにとれるのです。

     そして、それはいうまでもなく、法曹人口の激増政策、それを支えることを念頭にして導入された法科大学院制度が、弁護士の修養期間を破壊し、かつ「質」の確保ということを放棄したともとれる、法曹の社会放出を続けようとしていることにほかなりません。

     最近も、弁護士のブログ(「白浜の思いつき」)で、弁護士の間で噂になっている驚く弁護士の対応が紹介されています。

     ・委任状が委任状の形式を満たしておらず、白紙の用紙に委任状として、名前と住所が記載されているだけで、委任事項が全く欠落している書類を委任状として裁判所に提出している弁護士がいる(これでは、訴訟委任を受けたことにならない)。
     ・後遺症12級の交通事故事案で6000万円もの請求をしてくる弁護士がいる(12級だと慰謝料は224万円で労働能力の喪失割合は14%なので、6000万円の請求は明らかに過大。印紙代は請求額に応じて高くなり、弁護士費用も増え、過大請求は弁護士倫理上、大いに問題があり)。
     ・訴状で、請求の趣旨を申立の趣旨と記載し、請求の原因を申立の理由と書き、明渡請求事件の付帯請求につき明渡の原因とは別個の請求原因を書いている弁護士がいる。

     そのブログ氏自身の経験では、区役所で離婚のことで法律相談を受けた市民が、養育費の相場を尋ねたところ、相談に応じた弁護士から「相場はわからないから、弁護士に聞いてくれ」と言われ、自分のところに来た、という話を紹介しています。ただ、そうしたケースはともかく、こうした弁護士の間で交わされている驚くべき弁護士の話で見過ごせないのは、前記対応のように、この問題性が弁護士でないと分からない、つまり、素人の市民では気付かない可能性がある、ということです。弁護士の質の問題というのは、そういう領域の問題であって、それに伴う、不利益を気が付かないうちに被る可能性があるものなのです。

     この一事をもってしても、いかに弁護士という仕事が、その「質」の選択を、市民の自己責任にゆだねるのが酷な存在であるか、逆に「資格」が一定の「質」を担保してくれていることが、市民にとってどれだけ有り難い存在なのかが分かります。

     ブログ氏は、基本的に弁護士事務所に就職してかのOJTが重要であり、実務上の指導を受ける機会がなく、自力で仕事を覚えなければならない、いわゆる即独を好ましいとはみていない立場です。ただ、前記したような驚くべき対応の弁護士たちは、もはやOJT以前に、弁護士としての基本的資質に疑いがあり、弁護士として認めることが果たしていいことなのかということは大いに疑問で、「法科大学院という制度を経た法曹養成制度には根本的な欠陥があるのではないか」という見方も示しています。

     いうまでもなく、依頼者・市民にとっては、旧司法試験だろうが新司法試験だろうが、即独だろうが、そのこと自体は、どうでもいいことです。とにかく、たまたま弁護士を必要としたときに、そんな同業者も驚くような弁護士に、依頼者・市民がより遭遇しないで済むこと。そのために、即独でもやれるかやれないかではなく、かつてのような弁護士の修養期間が確保される方とどちらがいいのか、作ってしまったからではなく、法科大学院制度本道主義をこのまま続ける方がいいのか悪いのか――。まず、「資格」というものの責任において、そうした判断基準に立ってもらわなければ、およそ「市民のための改革」とは思えません。


    ただいま、「日弁連の『法科大学院制度の改善に関する具体的提言』」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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