危険性を露呈した裁判員裁判

     裁判員制度というものを考えるうえで、見逃せない判決が出されました。7月30日に大阪地裁で出された姉を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職男性に対する裁判員裁判の判決。被告人には広汎性発達障害の一種、アスペルガー症候群の影響があったとしながらも、「家族が同居を望んでいないため障害に対応できる受け皿が社会になく、再犯の恐れが強く心配される。許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持に資する」として、検察側の懲役16年の求刑を上回る同20年の刑を言い渡した、というものです。

     なぜ、この判決が見逃せないのかについては、既に猪野亨弁護士が自身のブログで論評されていますし(「危険だから刑務所へ!? 裁判員裁判、偏見の極致」)、また、「裁判員制度はいらない!大運動」がまとめている高島章弁護士のツイッター上の発言があります。いずれも、的確なご指摘だと思いますので、是非、ご覧頂ければと思います。

     問題を端的に言えば、裁判員制度を抱えているわれわれは、この判決から何を読み取るべきか、ということです。求刑を上回る量刑。前記「刑務所に収容することが社会秩序の維持」という理由のなかに、この制度が掲げる国民の「健全な社会常識の反映」の危うさを、どこまで直視するのか、できるのかということです。

     それは猪野弁護士の言葉を借りれば、治安維持の視点を色濃く出した「裁判員ならではの感覚」、つまりは、本来、精神疾患がある被告人に対して、社会がどのように対処していくのかが問われている局面での厳罰化、それが「恐ろしいという感覚で社会から排除せよ、という発想」で行われていることを、われわれは「健全な社会常識の反映」として、本当に司法の場でまかりとおることを認めるのか、という話です。

     別の言い方をすれば、高島弁護士もいうように、「科学的知見」による「高度の危険」によるのではなく、「健全な社会常識」と位置づけられる、市民の「心配」が、求刑を超えたこの量刑の根拠となっている現実をどう受けとめるか、ということです。

     ただ問題は、大前提として、われわれの社会は、この認識にまず、立てるのかということです。この判決を報じた大新聞には、この判決の結論の不当性をいう識者のコメントを掲載しているものがありますが、今回の判決が示しているものこそ、「健全な社会常識の反映」とくくられる、この制度が、決定的に防ぐことができない懸念材料であり、欠陥であるということを、喚起するものではありません。

     いや、むしろこうした大マスコミの不作為は、裁判が大衆の「心配」の反映でいいではないか、という世論の評価を醸成する、もしくは定着化させるものになる恐れがあります。本当に、それでいいのか、という問いかけも、われわれはしなくてはなりません。「民主的」とされるこの制度の大義ばかりが、推進派によって刷り込まれるなかで、彼らが意図的に伝えない、決定的にこの国の司法を変える、制度の負の現実を、われわれは注目し、何度でも問い掛ける必要があります。

     この判決は、裁判員制度を抱えるわれわれに突きつけられている課題であり、われわれにとって制度の危うさを読み取る重要な機会ととらえるべきです。


    ただいま、「裁判員制度」「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
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    テーマ : 刑事司法
    ジャンル : 政治・経済





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    裁判員制度のせいにするなかれ

    この問題、裁判員制度が問題かのように捉えられることが多いと思うが、おかしな話である。裁判員制度の仕組み上、最低でも1名の職業裁判官の意見が一致しなければ判決には至らない。ゆえに、素人のの裁判員が偏見によって裁判を行った、というような決めつけはできず、賛成した職業裁判官をまず批判するべきではないか。

    今回の判決には問題がある点は同意ですが、それを裁判員制度に責任を帰結させる結論には異論があります。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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