不用意な依頼者を背負う意識

     こういうことも当然あるだろうなとは思いながらも、実際に起きているという話からは、やはりいろいろなことが見えてくると感じさせるエピソードが、ある裁判所書記官のブログで書かれています(「某職員の業界放談」)

     裁判所の和解室で、裁判官が退席するなり、さっきまでいろいろと聞かれて張りつめていたものが解けたのか、書記官がまだそこにいるのに弁護士と話し出す当事者の話。

      「裁判官にはああ言いましたがね、実はこっちもやっちゃってるんですよ。まあ、分りませんよね、先生」
      「まったく、アホな社員なんぞに退職金を払っていたら、会社なんてもちませんよ」

     この当事者は、「退職金をケチったせこい経営者」なのだそうです。でも、この書記官いわく、自分はチクらない派なのだと。

      「迂闊なこのおっさんの発言を、裁判所の職員なら、当然裁判官に報告すべきだと考える向きもあるだろう。だが、同じ裁判所の職員でありながら、裁判官と書記官では、立ち位置が違うし、個々人のキャラクターにもよるだろうが、一体のようで、一体でなかったりもするのである」
      「これはもちろん、官職の違い、職責の違いとパラレルである。裁判官=判断機関、書記官=公証機関、という本質的な違いは、個々の事件に対するとき、微妙な温度差を生まずにはいられない。上の例で言えば、裁判官なら『事実上』心証形成に大きな意味を持つ発言であったろうが、書記官としては、期日外の不規則発言を公証するいわれはないといったところであろうか」

     よほど義憤に駆られない限り、裁判官には伝えない、というこの書記官の考え方です。これは、これで興味深いものがあります。彼も指摘する通り、裁判官のいないところで、わざと書記官の耳に入れるというテクニックもあるかもしれないこととを考えれば、彼の流儀が無難ともいえるかもしれませんが、もちろんこんな風な書記官ばかりではありません。むしろ、多くの書記官は、そのまま裁判官に伝えている、との見方を、この書記官も指摘しています。

     さて、このエピソードでさらに興味深いのは、この時の弁護士の対応です。「裁判官の手下が部屋に残っているのに、一体何を言い出すんだと言わんばかりの形相」で、明らかにこの書記官にアピールするように、すかさず依頼者をたしなめたそうです。

      「あのね、こっちにはこっちの言い分があるんだから、余計なことは言いなさんな!」

     この弁護士のとっさの対応も、この書記官でなければ、全く無意味なものになっていたかもしれません。この書記官ブログ氏は、多くの書記官が裁判官に伝えていることを前提に、書記官の前では内輪の話しはしないことと、弁護士は依頼者に釘を刺しておくことを勧めています。

     しかし、改めて弁護士とは面倒くさい仕事だと感じます。以前、ある大物弁護士が、依頼者の素人である部分も全面的に背負うのが弁護士の本来の仕事だ、という趣旨のことを後輩弁護士に述べていました。それは、法的な価値に当事者が分かっていないために積極的に話していないといった事実まで含めて、それを引き出すといった努力から、今回のような素人であるがゆえの不用意も含めて、常に依頼者の利益・不利益に意を用いるのがプロだということであります。

     この不用意のなかには、やはり素人には気が付かないことが多く含まれることを考えれば、やはり、前記したような素人である部分を全面的に背負う、という意識を弁護士が持っていてくれること、逆に言えば、そうした意識を失わないでいてくれることこそ、市民にとっては利益であり、有り難いのだということを改めて感じます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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