憂うべき「質」をめぐる相互対立ムード

     弁護士界の現状を取り上げた一部経済誌の特集記事や、ネットでのやりとりを見ている一般の人のなかには、最近、どうもベテラン弁護士と新人弁護士がぎくしゃくしているらしいと取る方がいるようです。新法曹養成や弁護士の増員問題と絡んで、ベテランが新人の能力が低下しているとし、一方、新人は実は問題を起こしているのは、ベテラン勢だと、相互に批判し合っているような話が伝わっているからです。

     大まかにいえば、前者が旧司法試験体制に比べた、法科大学院制度の問題、つまりは修了者のレベルの低さに比重を置いた主張とされているのに対し、後者は逆に旧司法試験組批判、もしくは問題を起こしているのは増員の影響で食いあぶれた既存の弁護士といった意味合いが込められように伝えられています。質をめぐる相互批判ということもできます。

     こうしたやり取りが一部にあるのは事実ですが、これをもってして、前記したような弁護士界内の先輩・後輩の、なにやらきな臭いムードだけが伝わっているとすれば、それはやはり問題だと思います。現実は少し違うからです。

     確かに、同業者もびっくりするような、問題のあるベテラン弁護士が存在します。一方でやはり刑事弁護を中心に、問題があるととられてしまう若手弁護士もいます。そして、後者については、本当に心配している先輩弁護士がいます。その三番目の弁護士の言葉を直接聞けば分かりますが、彼らは若手を批判しているわけでは決してありません。むしろ、「改革」が変えた環境の中にいる彼らに同情し、彼らのためにも、そしてその「実害」が依頼者に及ばないようにするためにも、なんとかしなければいけない、と真剣に考えているのです。

     むしろ、そこには先輩として、責任ということを感じさせる言葉も耳にします。つまり、かつてあった制度を改変し、かつそれによって自分たちは恩恵をこうむることができた弁護士の修養時代を破壊した「改革」をもたらしたのは、自分たちだという意識があるからです。彼らは、前者のベテランの問題についても、もちろん懸念します。影響もさることながら、例えばそれが、現実問題として、増員がもたらした経済環境の変化にあるのかどうか、と。しかし、前者が自己責任や自覚の問題としてとらえる余地が多いのに対し、後者は明らかにそれとは違う。むしろ若手は、より「改革」の犠牲者とみることができるからです。

     そんな先輩ばかりではない、という声が返ってきそうです。実際には、多くの無関心層、さらに前記したように、自分を棚に上げて若手を批判する人もいるとは思います。ただ、今、一番問題なのは、「改革」に積極的に旗を振り、あるいは消極的にでも賛成に手を挙げた人間に、ちゃんとその責任と向き合うのかということです。その意味では、むしろ旧司法試験組のなかで、若手の「質」や能力の問題に向き合う弁護士、少なくとも私の知る、そうした多くの弁護士は、批判者ではなく、責任を自らに引きつけている、むしろ望ましい人々です。

     つい先日も、あるベテラン弁護士から、マニュアル化されたものに依存した新人の刑事弁護では、かつてのイソ弁という形での修養時代に先輩から後輩に伝えられた細やかな対応が身につけられず、どうしても粗が出てしまっている現実があり、それを真剣に懸念している声を聞きました。

     現実の弁護士界の状況、そうした先輩弁護士たちの意識も伝えられるべきだと思いますし、なによりも、相互対立的なムードが広がることは、弁護士界にとっても、われわれ市民にとっても、何一ついいことはない、ということは、銘記しておかなければなりません。


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    質の断絶による対立はこれから

    ネットの書き込みとは違い、実際の弁護士の世界で深刻な対立を感じることは少ない。
    ただ、法科大学院の不人気が続けば、
    旧試=最難関資格試験の合格者たちと、
    少ない志望者、高い合格率で来た人たちとの、
    余りにも大きな質の断絶が生じるように思います。

    No title

    増員前の国選弁護は、最低限のマニュアル記載のことさえやらない弁護士が溢れていたことを知らないのですか? それでいて、多くの弁護士が、「国選はボランティアで、やってやっているんだ」と開き直っていたんです。

    現在若手が、マニュアル記載の弁護だけでもするようになったのは、退歩ではなくて、大進歩なんです。

    「マニュアル以上のことが出来ない弁護士が増えた」と、したり顔に憂いていらっしゃる先生様は、以前は何も感じてなかったんでしょうかね?

    No title

    主に老齢の達した弁護士に非常に能力が低い人が一部にいるのは法曹なら誰でも知っていることです。他方,司法修習の短縮化や即独弁護士の増加により,能力不足の若手弁護士が増えていることもまた事実でしょう。司法修習を出ただけではまともに実務はできないことも,やはりどの弁護士でも知っていることです。

    前者については,更新試験制を導入することが考えられますが,医師や教師等のあらゆる資格型職業で実現していないことからして,法曹も無理なのでしょう。後者については,司法修習期間を延ばし,OJTが可能な合格者数にする必要があるでしょう。司法修習の予算を減らして法科大学院に補助金を出すという現状は,OJTを積むことができない弁護士を生んでいることを意味し,利用者である国民(納税者)を裏切る最低の政策です。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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