「弁護士被害」から導かれる方向

     弁護士の増員によって実害、とりわけ市民の被害は増えたのか、ということをあちらこちらで聞かれます。先日も、あるところでやった講演で、主催者側から話してほしいとされたテーマのなかに、「弁護士被害は増えたか」というものが含まれていました。

     弁護士に聞けば、いろいろな反応が返ってきますが、大方は被害が増えたという実感はない、というものです。ただ、以前も書きましたが、相手方弁護士にこれまで遭遇しなかったとんでもない弁護士に遭遇することが増えたという声も結構ありますし(「『ポーズ』弁護士増加の嫌な兆候」 「歓迎できない『従順』弁護士の登場」)、「被害がはっきりしてくるのは、これからだ」という意見も耳にします。

     そうしたなかで、深刻な事態が発生していることを7月23日付け産経新聞(関西)朝刊が報じました。

      「弁護士と依頼者のトラブル急増 『ノキ弁』『即独』…新人の経験不足が背景?」

     大阪府消費生活センターによると、平成18年(2006年)年度には39件だった弁護士と依頼者の間のトラブルをめぐる相談件数が、新司法試験の合格者が弁護士登録した19年(2007年)度63件に急増した。その後も60~80件前後で推移、23年(2011年)度は98件に。依頼者の相談は、着手金を支払った後に話の内容が変わった▽法律用語が分からなかったので質問したら怒られた▽株式投資のトラブルで依頼したが、半年間連絡がない、といった内容で、全国的にも都市部を中心に同じ傾向がある――。

     産経は、その要因が弁護士急増による新人の就職難による「ノキ弁」「即独」増にあると推測しています。つまり、イソ弁型の先輩からの実務指導を受けられなくなったことの影響だ、と。前記したように、どうしてもこの問題では弁護士目線では被害が見えにくかったり、また、要因ということでいえば、推測の領域にもまたがるのですが、やはり「異変」は相手方弁護士に伝わっているようで、記事もある大阪の弁護士の「訴訟相手の代理人が新人弁護士だったが、出してきた書面は法律を理解していないような内容だった」という声を拾っています。

     二つのことが気になります。一つは弁護士会は、今後どうするのか、ということです。この記事は、大阪弁護士会の「即独」支援策に注目。同会が3月に登録2年以内の394人を対象に実施したアンケートでは、有効回答152人の約2割に当たる27人がノキ弁と即独(登録1年以内の独立を含む)だったという結果に危機感を募らせた同会が、現在30人の「指導役」を100人に増やし、指導期間も従来の半年から1年に延長、指導役への一定の報酬も検討することを紹介しています。

     ただ、これが以前のようなイソ弁型の修養期間の本当に代わりになるのか、また、どちらが望ましい形なのか、さらに、大阪に限らず、全国都市部で前記したような同じ傾向がある、というのであれば、全国的に他の弁護士会でも対応し切れるのか、という疑問は残ります。目の前の新人対策はもちろん必要となりますが、根本的な問題としては、弁護士会はいかにして早急に以前の弁護士の環境、イソ弁として修養できるような経済的規模的環境を取り戻せるか、まず、そのことから逆算するような対策を推し進めなくていいのか、ということです。

     そして、もう一つ。前記消費生活センターへの相談内容を見ていて、奇妙な気持ちにさせられるのは、こうしたことについて法科大学院という制度は知らぬ存ぜぬ、すべては弁護士になって社会に放出されたあとの話なのか、ということです。いまやどこまでが法科大学院で責任を持って確保される「質」であり「素養」であり「センス」なのか、それすらもよく分かりませんが、こうなると一体、なんのためのプロセスかという気もしてきます。

     弁護士の増員にしても、法科大学院の是非にしても、やはり「実害」という現実から逆算すれば、今、一番に何をやるべきか、どちらに向かうべきかの答えに近付けるように思えます。


    ただいま、「日弁連の『法科大学院制度の改善に関する具体的提言』」についてもご意見募集中!
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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    >産経は、その要因が弁護士急増による新人の就職難による「ノキ弁」「即独」増にあると推測しています。


    こんなこと、調べれば分かることじゃないんですか。勝手に決め付けてどうしたいんでしょう。

    まさに、「自分で黒く塗っておいて、その黒さを批判する」というやつですね。

    仮に問題弁護士の多くがベテランだと判明したら、弁護士増員批判キャンペーンは止めるんでしょうか。とてもそうは思えませんね。

    いつもながら、ただただ増員阻止という、業界の既得権益保護のためにのみ論陣を張っている河野さんならではの馬鹿げた内容ですね。

    産経の記事は正確なんでしょうかね?
    これはベテラン弁護士がよく行っていたことだと思いますが。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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