本当のことをいうべき日弁連

     かつて弁護士増員政策の必要性が、被せられた弁護士の過疎・偏在問題ですが、現実的にこれを解消に向かわせたのは、むしろ弁護士の有志の精神である、ということは以前、書きました(「弁護士過疎と増員の本当の関係」)。ただ、それだけではなく、それを支えたものがあります。会員からの会費の強制徴収です。

     日弁連は、1996年(平成8年)定期総会で、この弁護士過疎・偏在の解消に全力で取り組むことを宣言。当時、弁護士がいないか、いても1人だけの、いわゆる「ゼロワン地域」は、前記全国裁判所支部管内の約4割に当たる78地域もありましたが、日弁連は、弁護士会員から特別会費を徴収して「ひまわり基金」を作り、全国各地の延べ109ヵ所への「ひまわり基金法律事務所」の設立や独立開業支援といった取り組みを続け、実に16億円の費用と、15年の歳月を費やし、昨年、解消実現にこぎつけたのでした。

     あるいは日弁連執行部は、会員の民主的な政策決定に基づいているとして、この事実にも、日弁連会員の「有志の精神」という表現を当てはめたいところかもしれません。ただ、その場合、本来、公的資金が投入されるべきものに何でここまで会員にしわ寄せがくるのか、ということについて、納得していないが致し方ないとして会費を上納した会員意識も、「有志の精神」と呼ぶことに問題がない、という前提に立たなければなりません。

     司法過疎対策用に徴収されていた弁護士会費の期限が切れ、再度、徴収するという日弁連からの意見に対して、大阪弁護士会として賛成しようとする、常議員会提出の議案に対して、反対したという話を、坂野真一弁護士がブログで公開しています。彼の言い分は次のようなものでした。

     所得70万円以下の弁護士が平成22年度には、6000人弱になろうとしている。「弁護士は、ごく一部の方は大もうけしているかもしれないが、多くはつつましい生活をしているのだ」。だから、日弁連は司法過疎解消のために会員に対して、もっと金を出せと言うのではなく、「これまで司法過疎解消のために、会員に自腹を切らせて、何十億円も司法過疎対策にお金を出してきました。そもそも国家の仕事なのですし、ここまで弁護士会は頑張ったのですから、あとは、国家で代わりにやって下さい。国民の皆様もご理解下さい」と、国家や国民に対して本当のことをいうべきだ――。

      「所得70万円以下」というのは、最近、弁護士会のなかで話題になっている話で、国税庁の統計年報で、その該当弁護士が、平成20年(2008年)には2661人だったのが、22年(2010年)には5818人に急増しているというショッキングなものです。彼は、ここで国家や国民に向かっていうべきとした「本当のこと」について、それを妨げようとする意見が、実は弁護士会の中にあることを指摘しています。

      「私の意見に対して、『そもそも必要だけれど国家がやってくれないのだから、弁護士会が頑張るべきだ。そのうち国家が支援してくれるようになる。被疑者国選だってそうだった』との御意見もあるようだが、それは弁護士数が少なくてまだ弁護士に余裕があった時代の話だ。国の援助を受けている法テラスだって、採算の取れない地域に事務所を出すことに反対しているという話を聞いた」

     正直、こうした論調を度々耳にしてきたような気がします。弁護士は、自己犠牲をともなった、こうした「正論」を非常に前向きな意見として、好んで主張する人々ではないか、と思うこともありました。逆にこうした議論に持ち込まれると、まるで「嫌」といえないように、これを受けとめてしまう、ある意味、弱点ともいえる体質があるかもしれません。

     また、彼はこうも言っています。

      「弁護士を激増させ、弁護士にも自由競争をさせようとマスコミは盛んに主張する。仮に、弁護士も完全な自由競争というのなら、『赤字の仕事は全てやらない。後進の指導も商売敵を増やすことになるから、もうやらない。司法過疎解消なんて俺たちの責任じゃない。だって競争して、儲けたものが生き残る世の中なんだから』これが自由競争の自然な帰結だ」

     おそらく多くの弁護士が大マスコミの論調に感じていることだと思います。要するに、弁護士を取り巻く環境においても、弁護士意識においても、これまで弁護士会のなかでいわれ、それに従ってきた(従ってこれた)前記自己犠牲を伴う「正論」を現実問題として成り立たせなくさせつつあるのは、この「改革」そのものだということなのです。

     弁護士・会には、二つのことが必要なように思います。一つはもうこれ以上、無理はしない、できないことはできないとして、会員の負担を増やさない、できる範囲でやる姿勢に転換し、現実を直視して、等身大の活動を目指すということ。そして、もう一つは、前記「自由競争の帰結」が、やはりこの国の弁護士・会にはふさわしくない、そうは割り切れない、ということであるならば、この「改革」を今からでも根本から見直すこと、です。


    ただいま、「弁護士会の会費」「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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