「改革」の理屈への国民理解度

      「弁護士を依頼しない国民は淘汰されて当然」というタイトルで、小林正啓弁護士が自身のブロクで、大変重要な指摘をしています。

     それによると、彼が所属するADRでは、事件数が急増し弁護士が一方当事者の代理人として申し立てる事件が増え、仲裁を申し立ててから、第1回目の期日が入るまでの日数が、50日から100日かかってしまう。仲裁担当弁護士を増やして対応すべきだが、予算上そうもいかず、その結果、ADR首脳は、「弁護士申立事件を受けつけない。または、弁護士申立回数を制限する」ことを、全国会議に諮るとした、と。弁護士が申立をすることで弁護士を依頼しない一般市民が(第1回期日の遅延という)不利益を被っている、という理屈です。

     これに小林弁護士は、怒ったと。彼は、こう発言しました。

      「国民は司法改革で弁護士を増やしたのだから、弁護士申立事件が増えて当たり前だ。それを受けつけないとか、回数制限するとか言うのは、司法制度改革の否定に等しい」

     小林弁護士の理屈は、こうです。法の支配を社会のすみずみに行き渡らせるため、わが国は弁護士を大幅に増やしたのだから、弁護士こそが、法の支配の担い手。国民は、弁護士に依頼することによって、法の支配の恩恵を受けるのだから、弁護士に依頼しない国民は、弁護士に依頼した国民に比べ、法の支配の恩恵を受けられないという不利益を被るのは当たり前。だからADRでも、弁護士に依頼しない者は、不利益な扱いを受けて当然。弁護士を探せなかった国民や、悪い弁護士に当たった国民も、司法改革の理念に照らし、淘汰されて当たり前――。

     さて、ここで小林弁護士の指摘の何が重要かといえば、「改革」の理屈、それがもたらすものを多くの国民は分かっているのか、ということです。分かっていなくて当たり前です。こうなることをどこかの政党がマニフェストで具体的に提示したわけでも、大マスコミが懇切丁寧に解説し、「それでもよいか」と問い掛けたわけでもないからです。やったことはといえば、この国の専門家や有識者の方々が、「社会の隅々」に弁護士が登場する社会がいいことだと叫び、この国を「変えるのだ」といい、弁護士の激増政策を打ち出し、大マスコミも、そのきれいな絵をなぞって、国民に伝えただけのことです。つまり、別に国民は、頼んだ記憶がない。それが「弁護士を依頼しない国民は淘汰されて当然」な社会になるなんて、とんでもない、という感想になっても当然です。

     小林弁護士は、あくまで「改革」は国民が選択したこと、としています。ただ、国民の側からすれば、「選択した」ことにされてしまうという風にとらえるべきです。なぜなら、前記したような状況は、そうとられること自体、国民は自覚的であるか疑わしいと思えるからです。

     前記同弁護士の怒りの発言に、議場に出席した他の弁護士から笑いが起きた、と書かれていますが、多くの弁護士は、そういうこと、つまり「改革」の建て前と現実の違いを実は分かっている、ということのようにもとれます。

      「これは善し悪しの問題ではない。大事なことは、このような社会を、日本国民自身が選択したということだ。『それでいいのか?』と問うことも大事だが、いっぺん選択し、撤回されていない国家政策である以上、上記ADRの如き公的機関としては、国民の選択に従うのが、あるべき姿である」

     こう小林弁護士は締めくくっています。「問うことも大事」と付け加えている同弁護士は、あえて「こういう理屈になるぞ」と言っている感じがしますが、いずれにしても、この「理屈」について、国民は逆説的にとらえる必要があります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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