法科大学院の「必要性」というテーマ

      「法科大学院は必要ですか」という問いに対して、「NO」との回答が76%に上ったとする産経が行ったネットアンケート結果が流れています(eアンケート)。この結果そのものは、もはや驚くほどでもないという方も少なくないでしょう。ただ、この設問は、あるいは設問者の意図とは違うところで、重要な問いかけをしているように思えるのです。

     つまりは、それは「誰にとって?」「どのようなものが?」という点です。これは、この質問が設定された時に、まず、素朴な疑問として浮かんだことでした。もちろん、ネット上に発信されている、それは「あなたにとって」という解釈でいいわけですが、本当に問われているのは、そこから先ということもいえます。

     それこそ、「改革」のなかで法科大学院という制度に求められたのは、事後救済社会に必要となる質・量ともに豊かな法曹の輩出であり、また、これまでの「予備校依存」とされた旧司法試験体制を改めることでした(「予備校依存」批判の結末」)。もし、「改革」がこの国のために行われたという前提に立てば、その目的意識から「必要」とする回答はあり得ますし、逆にそのこと自体の無意味性から「不必要」とする立場もあり得ます。

     いうまでもなく、個人的事情に即した意見が求められているのであれば、当然、志望者の立場からは、「受からない」法科大学院の「強制」化は、負担が結果に見合わない制度として「不必要」ということになりますし、あるいは、もともとのこの制度構想に、おカネさえあれば、まず、法曹になれるとか、なりやすいという環境構築の期待を被せた方々からすれば、今の状態はともかく、依然、「必要」とするかもしれません。

     そして、この制度を支えている非常に大きな存在である大学の意向として、学生獲得への焦りも伴って、大学おこし的な妙味を夢見た方々のなかには、依然、「理念」的な建て前を掲げつつ、なんとしてでも「必要」とする立場の方々もいる、ということになります。

     こうしたさまざまな立場からみた「必要」「不必要」は、そもそも何について向けられているのか、ということが、またポイントになります。あくまで現状のような結果をもたらしている法科大学院の要不要をいうのか、それとも今はまだ実現していない、前記期待をかなえてくれるはずの法科大学院をいうのか。実現を前提にするからこそ、必要とするのか、はたまた必要だからなんとしても実現の前提にしがみつくのか、いずれにしても、後者は今の形を要不要の審査対象にしない立場になります。

     実は、前記アンケートでは、この設問のほかに、「法科大学院の統廃合を進めるべきか」に「YES」83%、「新司法試験の合格者の質は向上したと思うか」に「NO」89%という結果も示されています。必要はないが、統廃合は進めるべきという人、質は向上していないが必要という人の存在を読み取れる当たり、前記した各人のさまざまな思惑の反映が読み取れる結果になっていることも、この設問の多義性が示されているといえなくありません。

     もし、このテーマを「改革」ということに引きつけるのであれば、こうした現実を読み解くために、やはりまず、なされるべきなのは、そもそも法科大学院は一体、誰のために必要だったのか、という問いかけであるように思います。司法研修所を中心とした法曹養成を念頭に、制度改革を議論してきた法曹界は、法曹の量産計画を前に、法科大学院を受け入れ、議論の仕切り直しを余儀なくされました。

     この時に法曹界側が、この制度に前記したような妙味を見出していた大学側の思惑を認識していなかったとは、とても思えません。「改革」路線は、それでもこれを黙認し、新たな法曹養成の形として、この制度をよしとしました。ただ、ここにこそ、慎重な判断を要するものがあったというべきです。つまり、法曹養成を大学運営という、いわばこの国のあるべき法曹を輩出するということとは、別の目的を引きずらざるを得ない機関に、相当な比重でゆだねるという選択です。それは法曹養成と大学が、運命共同体となるようなものともいえます。果たして、それは法曹養成の本来の目的からして、本当によかったのか、あるいはふさわしかったのか、という問いかけにもなるはずです。

     明治学院大学、神戸学院大学、駿河台大学と続いている法科大学院の学生募集停止決定。駿河台大学の川村正幸学長は、朝日新聞へのコメントで、「『選択されない大学院』になってしまった」と語っています(7月7日付け朝刊)。しかし、法科大学院が選択されなくなってきたことが、法曹界が選択されなくなってきたことを意味するのは、まさしく法曹養成というテーマを大学にゆだね、運命共同体への道を選択した「改革」の当然の結果ともいえます。

      「改革」の描き方として、法科大学院本道主義というものが、この国のあるべき法曹を養成するという目的において、本当に必要だったのか、という問いかけは、やはり何度でもなされていいように思います。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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