「自己責任」論の危うさ

     規制緩和がいわれる社会の大きなテーマの一つが、「自己責任」です。明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後監視・救済型社会への転換。その先に必要とされた質と量を備えた司法への今回「改革」の基本的な描き方の中にも、それは当然の形として描き込まれています。

     事前規制が外れることによって生じることで想定された多数のトラブルは、自己責任と自己責任の衝突という見方もでき、そこに司法が割って入り、解決に導くという描き方にもなります。

     ただ、一方で当初、この規制緩和の考え方は司法にはなじまない、とする意見が弁護士会の中でも聞かれました。いうまでもなく、人権擁護や弱者救済という観点からみた場合、そうした社会で果たして彼ら少数者・弱者が現実的に救済されるのかという疑問があったからです。それは、自己責任という形で彼らにのしかかることの現実問題だったということもできます。

     ある意味、この視点が弁護士の中に、存在したことは、当然ということもできますが、逆に結果として、最後まで彼らの多くがそこにこだわりきれず、前記社会転換の先にある態勢整備の方にシフトしていったことは、やはり正しかったのかどうかという問いかけもできます。

     また、自己責任論の問題、危うさは、それが単に責任転嫁のロジックとして用いられていくことでもあります。それは、これまでも弱者救済というテーマでは、それこそともすれば「騙される方が悪い」といわんばかりの、本来問われるべき者への矛先を移す役目を果たしかねないものでもありました。

     規制が緩和された社会では、個々人の「選択」機会の保障が強調され、自己責任もそのための当然の負担のようにいわれます。逆に少々酷な自己責任であっても、「選択」機会の保障の意義が、むしろ前者を「成熟した市民社会」の住人として自覚すべき課題として突きつける形になりがちです。しかし、「酷な自己責任」というところには、やはり法律家の出番があったという気がしてならないのです。

     これまでも書いてきたように、「改革」の議論そのもののなかでも、自己責任への転嫁ととれるものを度々目にしたように思えます。例えば、弁護士の競争・淘汰。一定の質が事前に保障されずに社会に放出されても、淘汰によって、質が担保される形になるという考え方のなかには、弁護士を「選択」する市民側の自己責任ということが、べたっとくっついています。彼らに情報確保や専門性の判断能力において、市民側にそれを被せる酷をいえば、常にいわれるのは「選択」できることの意義の方です。「何も市民を甘やかすことはない」という人もいました。ただ、こここそ、市民としては、本来、簡単にスル-できないところのはずです(「依頼者『自己責任』の酷」)。

     さらにいえば、法曹養成にしても、弁護士需要にしても、本来「改革」の見込み違いとして問われていいものが、志望者や若手弁護士の自己責任として転嫁され、むしろ構想した側の責任が消されていくような形も、この「改革」論議では目にします(「志望者の『自己責任』論」)。 

     本来、市民側に「酷」な自己責任を招くことになる現実は、「改革」の負の部分として、当然に市民側に伝わりやすいものがあります。それだけに、推進派の大マスコミは、それをフェアに伝えていないととれる現実があります。

     冒頭の「改革」が当然の形として描き込んだものに、もう一度立ち返って、我々の社会と我々自身に、何がのしかかろうとしているのか、考えてみる必要があるはずです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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