愛知県弁護士会の正論と英断

     日弁連「法科大学院制度の改善に関する具体的提言(案)」に対する愛知県弁護士会の意見書は、既にネット上でも話題となっていましたが、同弁護士会がホームページ上で公開に踏み切りました。

     話題となっていたのは、それが「法科大学院課程の修了を司法試験の受験資格から除外すること」を提言するものだったからです。同弁護士会の常議員会で賛成22、反対11で可決された事実が、6月12日の段階で、いち早く弁護士のブロクで伝えられていました(「弁護士のため息」)。この公開を受けて、その内容についても、複数の弁護士がブログで取り上げています( 「黒猫のつぶやき」「仙台 坂野智憲の弁護士日誌」「Schulze BLOG」)。

     この意見書の肝というべきものは、話題のポイント通り、なんといっても法科大学院を中核とした法曹養成制度の惨状に対して、既に多くの人間が考えている、修了の受験条件化をやめるという方策を直言したことにあります。これはいうまでもなく、志望者にとっての法科大学院強制制度がなくなることを意味します。これまでも書いてきたように、志望者にとって、負担が結果に見合わない制度の維持は、要するに法曹界そのものが、志望先として淘汰されることが見えてきた現実があるのです。

     しかし、これは法科大学院側にとって、決定的な決断を意味します。「強制」によって維持できた部分がなくなるからです。これは、明らかに妙味の喪失です。もちろん、彼らは、そうではなく、法科大学院を「中核」として立てた「改革」の理念を強調するでしょう。しかし、「理念」が正しく、その成果に自信があるのならば、本来、「強制」は必要なく、堂々と胸を張ればいい話です(「受験資格化を必要とする理由」「虚しい法科大学院論議」)。

     つまりは、この「強制」の強調は、もっぱら選択されなくなることへの自信のなさを伴った、妙味の方にこだわっている話として、とられても仕方がないことなのです。もし、そもそもこの構想が、受験条件化という「強制」を伴なった本道主義を掲げるものではなかったら、これほど多くの大学が、乗り遅れるなとばかり、その「妙味」に期待して名乗りを上げるという事態があったかどうかも疑わしいというべきです。

     愛知県弁護士会の意見書は、そこにメスを入れました。そのなかで同会も、こう言います。

      「この当会の意見に対して、法科大学院が成り立たなくなってしまうのではないかとの疑問もある。しかし、法科大学院は質の高い法曹を養成し、法の支配を通じて国民の幸福と利益を実現するために存在している。法科大学院のために法曹養成があるのではない。全ての制度を法科大学院存立のために設計するというのは本末転倒であると言わなければならない」
      「しかも、この当会の意見が実現されることになったとしても、法科大学院が直ちに消滅することにはならない。法科大学院が真の意味で『点から線へ』の教育がなされ、理想的な法曹養成教育を行えば、法科大学院の知名度を上げ、自ずと学生は集まってくるはずである。司法試験を単なる受験テクニックだけでは合格しにくいものにし、法科大学院で理想的な法曹養成教育を行って、予備校ではなく法科大学院を卒業した人の方がよく司法試験に合格するようにすることこそが本来の法科大学院のとるべき途ではないか」

     そしてもう一つ、この意見書が浮き彫りにしていることに触れておかなければなりません。これもまた、いうまでもないことですが、日弁連のこの問題に対する姿勢です。端的にいえば、日弁連提言に全面的に反対したこの意見書が明らかにしたのは、前記したような実力で法科大学院が勝負する道ではなく、その「生き残り」策に腐心する日弁連「提言」(案)の立場といえます。「現状の法曹志願者の激減という極めて深刻な問題点に目をそむけたものであって、改善策としての体をなしていない」と、意見書は厳しく指摘していますが、本道主義に固執することが何を守ることなのかは、前記したように多くの人の目には、もはや明らかです。

      「(受験資格化を外すことで)いつでも誰でも自由に受験することが可能となり、有為で多様な人材が法曹を志願することができ、かつ開放的で実力本位の司法試験が実施されることになる」

     優先順位からも、そして法科大学院がもたらしている現実からも、愛知県弁護士会意見書がいう、この改善目的以上の意義を見出すべき視点が、本来、あるのでしょうか。

     肝心の日弁連の「提言」(案)は、会内意見照会中ながら、愛知県弁護士会の対応と違い、ネット上では公開されていません(「黒猫のつぶやき」は意見書から読みとれる「提言」内容を抜粋し対比的に論評しています)。纐纈和義・愛知県弁護士会会長は、今回の公開理由について、「この法曹養成制度は法の支配を通じて国民の幸福と利益を実現する上での重要なものであり、その根幹をなす法科大学院制度も国民の重大な関心事」という重い認識を示しています。

     この意見書がまとめられること自体への驚きと、この公開を「英断」とする会内の声を目にするとき、日弁連内にいかにこの意見書の立場に対する抵抗が存在しているのかも浮き彫りにしていることに気付かされます。


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    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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    河野真樹
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