「経済難」か「儲けている」か

     弁護士界の内部から聞こえてくる、増員による弁護士の「経済難」に対して、依然として、それを取り巻く世界の人々からは、「まだまだ弁護士は儲けている」という、正反対の評価の声が聞かれます。

     「これまで高級車に乗っていたのを軽自動車に乗り換えざるを得なくなったことを、『貧困』とはいわない」と言う人がいました。当たり前のことですが、社会の平均水準を上回る生活のレベルだった人が、それを平均水準か、仮にそれを少し下回ることになっても、それは「経済難」でも「貧困」でもないということです。

     当たり前のことのようでも、生活レベルが下がるご本人は、どうしても自分のなかの基準でお話しになる方が確かにいらっしゃいます。官僚や社会的地位が高いとされる方のお話の中には、「自分はもっと高給をもらっていい」「このくらいもらって当然だ」という、誰か決めたか分からない、業種業界の下げるべきではない確固たる報酬レベルを語るものがよく登場します。

     ただ、そういう方に、そのレベルについての社会的評価の裏付けに関して聞くと、なかなか明快な回答はできません。社会が、これだけの仕事をしているのだから、このくらいは報われて当然、と考える、基本的なコンセンサスがあるわけではないのです。

     ある意味、弁護士についても、これは例外ではありません。「まだまだ儲けている」という大衆の声の大部分は、こういう見方からくるものかもしれせん。「もともと高すぎる給料が、たとえ一般並みになってもなんなんだ」「そこまで高給をもらわなくていいんじゃないか」などなど。

     また、ある人は、資格業の行き過ぎた特権視を批判します。資格は、別に生涯の高給保証でも、地位保証でもない、あくまで本人の努力次第であるのは、他の世界と同じだと。つまり、弁護士の待遇問題をいう主張は、そうした保証を前提にして、資格にあぐらをかいているのだというのです。

     実は、この手の主張は、社会のなかでかなり強く言われ、おそらく弁護士が考えている以上に、大衆への浸透力を持っています。

     これらは、基本的には正論だと思います。あるいは弁護士の主張から、この部分は、ちゃんと差し引かれなければなりません。

     ただ、逆にいえば、差し引くのは、この点だけでなければなりません。つまり、このイメージだけをいま起こっていること、すべてに当てはめてしまうのは、それはそれで間違いです。

     厚生労働省の統計に基づいて、業種ごとの年収を紹介している「年収ラボ」によると、2008年の弁護士の平均年収は801万円。1位のパイロット1238万円、2位の医師1159万円、さらに下の5位警察官813万円の次の第6位。上場企業でいうと、課長職の850万円を下回り、係長職の685万円を上回って、全平均437万円よりは、まだかなり上に位置しています。

     実は弁護士の平均年収は、その3年前の2005年には2097万円となっています。抽出調査での調査母体数が少ないことによって、実態にそぐわない数値が出でいる可能性もあります。しかし、この3年間に何があったかといえば、年間700人増程度の推移していた弁護士人口が、2005年の前年から約1000人増え、その後、2年間毎年約1000人、残り1,年は約2000人と、計約4000人増えているのです。

     その2008年の弁護士数の合計は25041人、それが今年2月1日には、既に30479人に達しています。また、毎年2000人ずつ増えるということは、最大の東京弁護士会の会員数の3分の1、つまり3年で東弁1個分、最小の旭川弁で換算すれば、実に毎年40個分の弁護士が誕生していることになります。

     これは、弁護士会内の世代別の勢力図に、明らかに異変をもたらしますが、同時に全体平均では把握しきれない年収の大きな偏りができているはずです。

     つまり、前記したような正論に立って、弁護士の主張を差し引くとしても、この急激な増員の変化は、少なくとも弁護活動に影響する「経済難」を一部にもたらしている危険はないのか、とりわけ、弁護士会でかなりの比重を占め出している増員された部分の実態はどうなのか、という問題があるのではないでしょうか。

     要するに「まだまだ儲けている」というのは、どの部分の話をいっているのかということです。大きな比重を占め出している新たな弁護士層にスポットをあてても、それが贅沢が普通になるのを嫌がる、特権資格者のエゴの話なのか、そこが問題です。そして、その層が5年、10年後、どういう形になって存在しているのかいないのか、その間社会にどういう影響が出るのか、ということです。それを念頭に置かず、「淘汰」しかいわない、年間3000人増、将来5万人論が、果たして本当に国民のためになる話かどうかです。

     先に書いた司法修習生「給費制」存続に関して、朝日新聞は昨年11月に社説を掲載しています。この内容については猪野亨弁護士が既にブログで批判的な分析をされていますが、この社説は、日弁連の「金持ちしか法曹になれなくなる」「借金があると利益第一に走り人権活動ができなくなる」という主張を「脅しともいえる言葉」と表現しています。

     大マスコミは、どうしても「弁護士がいうほど大変ではない、なんとかなるんだ」ということを大衆に刷り込もうとしているようです。ここでも、フェアな判断が阻害されているようにも思われます。

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    ありがとうございました

    狸か狢さん、コメントありがとうございます。

    全くご指摘の通りです。すみません。詳しく調べてみようと思いますが、「弁護士白書」に中央値出ているみたいですね。2008年で平均値1598万円、中央値1100万円のようです。もとになる調査の仕方で数値に開きがありますが。

    今後も、学生のナマの声を聞かして下さい。今、学生が何を悩み、どんなことに問題性を感じているか、少しでも司法関係者に伝えられればいいと思います。また、そうした取材活動もしていきたいと考えています。

    今、司法関係者から市民まで、誰でも意見を書き込める言論サイトの立ち上げを準備しています。そちらの方にも、是非、ご意見、ご協力を賜われればと思っています。

    今後ともよろしくお願いします。

    No title

    はじめまして。
    東京で法学部生をしている者です。
    人気ブログランキングで「法律新聞の元編集長」と書かれているのを見て迷わず来てしまいました。
    一介の法学部生でも貴方のような御方のお話を聞ける時代になったんだなと感慨深い思いです。
    これからも楽しみに拝見していきます。

    本件の記事について思ったのですが、この手の「弁護士の収入」の話題では年収の「平均値」はあちこちで出てくるものの、「中央値」は一向にして聞かないのですが、中央値を調べた方はいらっしゃらないのでしょうか?
    特に弁護士の業界は収入の格差が大きいのでは無いかと考えているのですが、それならばなおさら中央値を出す意義が大きいはずです。
    最近では市民の「統計」への理解・関心も高まり、年収や平均寿命などで平均値とともに中央値を使う例も増えてきたので、早く弁護士の年収の中央値が示される日がくればいいなと思っています。
    末尾ながら、朝日新聞についてのご意見にはいつも共感しております。
    それでは、失礼しました。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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