法科大学院という「負担」の真実

     法曹になれないというリスクをはじめ、法曹志望者の経済的な負担に対して、メリットが見合わない法科大学院の現実が、はっきりといわれるようになっています。それでも、まだ、この制度そのものを弁護しようとする方々からは、「それでもかつての制度よりはいい」「戻すということにはならない」と強弁する声も聞きます。

     そうした旧司法試験体制と比べて、現在の制度がベターであるとされる方が、ことこの志望者の経済的な負担について反論する場合、次の2点を言うのもしばしば耳にしました。一つは、かつての司法試験チャレンジでも、予備校等に結構なおカネが投入されていた、ということ。もう一つは、かつてはそうやっておカネが投入されても、合格しければ何も残らなかったが、新制度では法科大学院で「高度な専門的教育」を受けているので、残るものがある、ということ。「法務博士」という学位も得られる、ということも付け加えられたりしました。

     つまり、新制度におカネがかかることは認めざるを得ないが、そこにはあらたな価値がある、ということになります。一番目の事実を持ち出しながら、おカネの使い道としての有効性を対比させ、価値を高めることで、新たな負担の重さの議論をできるだけ「より価値ある負担」論で乗り切ろうとするもののように見えます。

     しかし、「法務博士」のお値段を引き合いに出すまでもなく、法曹になることを目指し、司法試験に合格できることを期待して法科大学院の門をくぐろうとする志望者からすれば、「ダメでも得るものがある」という話が、そもそも現状、旧制度よりも「価値ある負担」として納得できる材料であるわけもありません。

     ただ、それ以前に、法科大学院の「負担」は、そうした次元でとらえられることではないのではないか、また、それを多くの国民は知らないのではないか――。改めて、そのことを感じさせる試算が、6月8日に開かれた衆院法務委員会のやりとりで飛び出しました。自民党の河井克行委員は、この日の質問で、適性試験受験者の減少傾向からみて学生が法科大学院に魅力を感じなくなってきていること、新司法試験の採点実感などから修了者の質の向上もみられないことについて追及したあと、この「負担」の問題に切り込みます。

      「このように、法科大学院から学生たちの数は減る、質は上がらない。その一方で、ここからが一番大事なんです、私たち国会議員にとっては。膨大な国費、税金、そして、ここに通っている子供たちは、家族も含めた膨大な私費を投入し続けなくては司法試験を受けることができないという、国家が法律で強制をしている」

     この時、河井委員は制度創設の2004年度から2011年度までに投入された法科大学院への国の財政支援総額を明らかにするように求めますが、財務副大臣は文科省任せと言い、文科副大臣が直ちに示せないと分かると、河井委員自らが試算結果を明らかにします。

     国立大学法人への運営費交付金と私立大学等経常費補助金と専門職大学院への教育改革の取り組み支援と日本学生支援機構の奨学金の合計が8年間で1598億円。従って、年間に法科大学院に使われたのは約200億円。学生たちの個人負担は、8年間の法科大学院入学者40791人、全員がそのままずっと勉強を続けたと仮定すると、私立・未修者という最大限の計算で8158億2000万円。国と学生、家族の負担額の合計は、最大で9688億円――。

      「先日この法務委員会にやってきたある業界団体の参考人は、名前は言いませんけれども、こう言ってのけた。法科大学院制度が発足してやっと8年がたっただけなので、制度の撤廃につき判断を下すのは時期尚早だとおっしゃったんです。8年間たってまだ早かったら、これから先、一体何年間このお金を国民の税金と子供たちのお金でずっと費やさなきゃいけないのか」
      「今、消費税の増税をめぐってこれだけ国会が紛糾をしている。正直言って与党も野党の中も紛糾をしているときに、こういうことを平然と言うということは私は認めるわけにはいかないし、増税する前に、私はこの制度を廃止するべきだというふうに心から思っております」

     さらに、このあと河井議員は、その法科大学院が「客の奪い合いをやっている」として、入学試験成績優秀者に対する異常とも言える経済支援制度の実態、さらに依然として試験合格のための受験予備校依存が存在している現実を追及しています。

     法科大学院の「負担」は、志望者のみならず、国民を巻き込んだ「負担」なのです。それでもこの現実に国民の厳しい目が向けられないで済み、前記河井委員の話に出てくる業界関係者のような「時期尚早」論が言えてしまえるのは、たまたまそれが志望しない者には無縁ととらえられている法曹養成というテーマだから、ともいえます。この国の司法の未来に照らし、これが「価値ある負担」かどうか、もっと国民に問われていいように思えてきます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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