「生き残り策」がテーマになるおかしさ

     テレビ東京が6月11日に放映した「ワールド・ビジネス・サテライト」という番組のなかで、弁護士に関する特集が組まれました。タイトルは「急増『弁護士』生き残り策は」。同局のホームページ上でも、現在、見ることができます。

     このタイトルを見れば、大体、内容は想像がつくという方も、このブログの読者の方には、結構、いらっしゃるかと思いますが、ずばりそのまんまの内容です。率直に言って、パターンが決まってしまっている、という印象を強く持ちました。テレビが今、ドキュメンタリータッチでこのテーマを取り上げた場合、どうしてもこうした作り・扱いなってしまうのかな、という感じです。

     急増の現実として就職難など苦悩する若手⇒そんななか「生き残り」をかけて頑張る弁護士たち⇒組織として雇用するなどした「受け皿」側の弁護士に期待する声⇒結論として、需要開拓の余地があるはず。大方、厳しい現実の描写から頑張る人々、そして可能性へというタッチは、扱いとして視聴者に分かりやすく、飲み込ませやすいということだろうと思いますが、一方で、こうした扱いで伝わる現実のイメージは画一化することが容易に想像できます。もちろん、そこまで含めて、メディア側の意図するところといえば、それまでです。

      「弁護士急増の背景は、およそ10年前、身近で頼れる司法を目指して始まった司法改革だ。新しい司法試験の導入、法科大学院の創設などで弁護士の数は10年で7割近く増えた。今年はさらに大変だ」

     番組では冒頭に近いところで、こんなナレーションが挿入されます。「今年はさらに大変」といっているのは、弁護士の就職です。だが、この特集は、折角前ふりとして10年前に始まった「身近な司法」への改革、新司法試験、法科大学院、10年で7割近く増えた弁護士増員政策というキーワードを羅列しながら、遂に最後までこれらの政策が正しかったのかどうかについては言及しません。「大変」な事態を生んでいるのが、何によっているのかを考えれば、言及しないことの方が不自然です。

      「厳しい競争の壁にぶつかっているのは、弁護士の卵だけではない」として、「生き残り」をかけて頑張る弁護士たちとして、スポットを当てているのが、「すし事業」絡みでの「アディーレ」石丸幸人弁護士と、「弁護士ドットコム」絡みでの運営会社「オーセンス」元榮太一郎弁護士というのも、やはりベタな感じは否めません。とりわけ、石丸弁護士については、こんな言葉を抜いています。

      「人数が増えて競争が激しくなっている。バッジを持っているからといって、選択肢をこの業界の中でしか持たないという考え方自体が逆に危ない」
      「昔は弁護士バッジはプラチナチケットでしたが、今はただの入場券になっていますから、弁護士だけが合格すれば一生ご飯が食べれるという前提がそもそもおかしかったんじゃないか、と」

     弁護士を甘やかすな、あぐらをかかせるな、と迫っている方々からすれば、「模範解答」のような覚悟、他の弁護士も見習いなさい、という話になりそうですし、この番組自体もかなりそれに近いものを狙って、彼のセリフをあえて抜いている感じがします。

     その評価は、弁護士でもさまざまだとは思います。しかし、彼らのような収益の多様化を目指す弁護士がなぜ、登場しなければならないのか、そして「改革」は彼らのような実業家弁護士の登場を本当に予定していたのか、というところは、問うことができます。もちろん、「食べれる」ための実業家弁護士・兼業弁護士の登場を市民社会が待ち望んでいたという話はどこにもありません。「改革」が想定外の結果としてもたらした「生き残り策」というテーマの先に、彼らの登場があっただけのことです。

     このあと番組は、弁護士を採用した中国銀行関係者に、組織内弁護士の有用性を語らせています。しかし、「生き残り策」「受け皿」として、過剰期待はしてくれるな、あくまで採用は組織の論理という、企業サイドの本音もまた知っているものからすれば、もはや今回のテーマとストレートに結びつけてもいいものなのか、という気さえします。それは、案の定ともいうべき、次のような、この番組の結びの言葉を耳にしてしまうからでもあります。

      「制度改革で増えた弁護士を生かしきれていない日本社会。しかし、視野を広げて需要を開拓する余地はまだありそうだ」

     日本社会がなぜ生かしきれていないのか、は、もちろんここでも問われませんが、それもさることながら、やはりと言いたくなるのは、「しかし」以下、弁護士側の努力で開拓せよ、という結論に結び付けていることです。開拓すれば掘り出せるだけのものが、本当にあるのかを問わず、相変わらず、「眠れる大鉱脈」を掘り当てるのは「鉱夫」次第という論法です。

     何で「改革」論議のテーマが、いつのまにか弁護士の「生き残り策」になっているのか――。このことのおかしさを、前記論法が延々と隠そうとしているように見えるのもまた、いまやベタというべきです。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「今回の日弁連会長選挙」についてもご意見募集中!
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    まとめtyaiました【「生き残り策」がテーマになるおかしさ】

     テレビ東京が6月11日に放映した「ワールド・ビジネス・サテライト」という番組のなかで、弁護士に関する特集が組まれました。タイトルは「急増『弁護士』生き残り策は」。同局のホ...

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    No title

    競争は今以前に確かにあってのではと思いますし、少なくとも数年前くらいからすでに競争原理は働きつつあり、今のような過剰競争は不要だと思います。大卒でもこれくらい就職難になれば、むしろ単なる社会問題にすぎません。数が増えても表向きのサービスの質は上げるでしょうが、リーガルサービスの質は単なる競争で向上できるような簡単なのものではありません。むしろ、サービス精神の旺盛なだけの素人が増えるだけです。そして、今まさに良質な法曹を駆逐しようとするのがそういった人々です。(非常に良質な法曹は比較的営業は不向きですが、半端内仕事量を確実に淡々とこなす人々です。一度話をしたり一緒に仕事をすれば分かるでしょう。あれくらいであれば、高給やってもいいかなと思います。人の数倍の仕事を人の半分以下でやってくれるような人に限りますが。)

    弁護士という肩書きだけが一人歩きして、表向き耳障りのいいサービスにだまされないように、いい弁護士を探すのは大変ですよ。
    そういえば行政書士の先生が弁護士には営業能力が足りないとかコンサルティング能力がたりないとかいってらっしゃったけど、それが弁護士を計る物差しだったら困るでしょう。。と思いました。さすが行政書士の先生の発言らしいと思いましたが。

    名無しさんへ

    そもそも、競争を根幹から否定し、政策的に大学利権を何重にも強化したのが司法改革ですよ。ご存じなかったのでしょうか。

    「就職で苦労」どころか、就職できない人達が何年も前から普通にいます。
    また、「弁護士が足りなさすぎ・需要がいっぱいある」という理由であえて大増員したのですよ。
    だから就職すらできない人がいる事実・既存の弁護士も貧困にあえいでいるという事実は、当該政策がデタラメであったことを裏付けるものです。
    「今はどの業種でも~」との対比は、この点において無意味ですね。

    官僚・学者「市民のみなさんのために、威張り散らすような弁護士を減らしましたよ~。
    ただし、市民のみなさんの税金を何千億円も使ってますが。ええこれかも使いまくりますよ。」
    あなたはこれを肯定できますか?

    なんでもかんでも競走がいいとは思わないがほとんど競走がないというのも問題。生き残りが問題になるからどの業種も必死になってサービスを提供する。
    客に対して威張り散らして商売が成り立つなんて普通あり得ない
    そんな当たり前程度の競走がやっと弁護士業の人達に訪れただけ
    就職で苦労するのもどの業種でも今は当然。就職で苦労した人間は苦労しなかった人間よりも長い目でみてその経験は必ず財産になる。

    No title

    私自身、一市民として、「弁護士が少なすぎ。もっと増やせ」と感じたことなんか1度もありません。「裁判官が少なすぎ。もっと増やせ。そうすりゃ長期裁判なんかなくなるだろ」と思ったことはありますが。あと、「弁護士が業務を独占し過ぎ。こんな些細な件まで弁護士以外に頼んだらいかんのか? 誰に頼もうが客の勝手だろうが。なんて不便なんだ」と感じたことはあります。

    ただ、息子を、あるいは目をかけた大学の後輩をどうにかして司法試験に受からしたいのに受かりそうにない連中には「司法試験の合格者が少なすぎ。もっと増やせ!」と切望してたでしょうね。「丙案」なんて究極のインチキを公然と導入して恥じなかった連中ですから。

    あと、私は、法律以外にも経済や経営も少しは学んでいるので「グレシャムの法則」と「レモン市場」を知っています。ですから、単純に数さえ増やして自由競争させればなんでも良くなるなんて思ってません。仮にそうなら、歯医者はどうなるんだ? 歯科大の減員や統廃合なんてもっての他、国家試験でふるい落とすなど許されないというのか?

    No title

    「事件性不要説」なんてものを振り回し、どんな些細で幼稚な事務でもガチガチに独占して断じて手放すまいという態度が、大量増員論者には絶好の足がかりになったのは確かでしょうね。

    司法修習は大半が法廷業務で、それ以外の事務弁護士業務は乏しい(弁護士修習で少しは習う?)んだから、「弁護士の仕事は法廷に限らない」から「法律事務をする人間を増やせ」というのなら、「法科大学院などと称する、恣意的で不透明な入試をしてベラボーな学費をふんだくり、何の役にも立たない授業で年月を空費した上、大半の卒業生に法務博士と称するマイナス評価にしかならぬ学位もどきだけを寄越して、弁護士にも何にもなれない人生の落伍者に仕立て上げるだけのインチキ機関」の維持に固執するんじゃなくて、「弁護士法を改正して、法定代理権以外の法律事務の独占をやめさせる」ほうがよっぽど合理的で予算も何も要らないのに、どうして認めようとしないんでしょうか? そうすりゃ「プロセス重視の素晴らしい教育」を受けた筈の法務博士たちにも素晴らしい職域を提供できるだろうに。
    きっと、ベラボーに儲かる渉外弁護士の最大の収益源がそれだからでしょう。

    中国の、「盲目の弁護士」と呼ばれた人権活動家の話を聞いた時、「ああ、日本だったら、日弁連は『非弁だあ! 非弁だあ!』とひたすら言いがかりをつけて、スイカ1個でもお礼を受け取っていたら『報酬を受け取っているぞー!!』と大宣伝の上刑事告発でも何でもして、とにかく何が何でも潰そうと躍起になるんだろうな」と確信しました。特に、検事総長やら最高裁判事やら東大教授やらを何人も迎えて、公益活動と称して中央省庁や大企業団体のナントカ委員に大量に送り込んでる渉外弁護士事務所がでかい顔でのさばって、法科大学院生の就職人気ナンバーワンになってるこのご時世では。

    弁護士を競走させて値段を下げさせ、サービスを良くすることが弁護士増員の目的です。
    過去に法曹人口を抑制しようとかしないから今日の結果を招いたんです。その時に適度に増員させてきてれば今日のような事態にならなかったでしょう。
    全ての国民(特にお金がない国民)に充分なリーガルサービスを提供できていたら増員の圧力なんて生まれません。
    法律事務を独占するけど安くて使いやすいリーガルサービスの提供はしたくないなんて話が通りません。法曹人口抑制を願うならこの問題を解決しない限り、国民の理解は得られないでしょうね。

    No title

    回転寿司屋を経営する弁護士を生み出すことが弁護士激増政策の目的だったんですか?

    いつの間にか、というか故意にか、当初の目的から目を背けた「報道」がなされているのではないですか?

    そういうシンプルな問題提起じゃないんですか、「memo26」さん。

    No title

    > 何で「改革」論議のテーマが、いつのまにか弁護士の「生き残り策」になっているのか――。

     「改革」は世間一般の基準で考えれば、「当然」だからではないでしょうか?

     河野さんが「『生き残り策』がテーマになるおかしさ」を感じるのは、河野さんが増員政策は間違っているという「前提」で物事を考えているからでしょう。

     そろそろ、増員政策は間違っているという「前提」で意見を述べるのをやめて、「増員政策の是非を考察する」姿勢に転換されてはいかがでしょうか?
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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