ある法学生の「選択」

     法曹を志す人の気持ちは、もちろんさまざまです。動機も、経済的なことも含めて、置かれた環境も違う個々人が、それぞれの事情をにらんで、人生の決断をすること自体は、たとえ制度が変わろうが同じこと。だから、ある1人の「選択」を取り上げて、ことさらそこから、今、起きていることを云々するのは、ナンセンスという方もいるかとは思います。

     ただ、そういう方にも、ここはひとつ虚心坦懐に見て頂きたいブログのエントリーがあります。「大学生の徒然日記」という、公法に興味があるという都内の大学法学部4年生が書いているブログです。記事のタイトルは「法科大学院進学を諦める」

      「弁護士になるのが夢でしたが、よくよく考えた結果、司法試験を諦めることにした。今後は公務員を目指す。公務員試験でも法律の勉強は必要なので今までの勉強は無駄ではなく、法律の勉強を通して法的思考を養えたのは大きな財産だ。公務員は身分が安定してるし、公共のために働くという自分の夢も叶うのでベストの選択だと思っている」

     お読み頂ければ分かることですが、この彼の「選択」は、実は非常に冷静で的確な現状認識のうえになされています。彼は、司法試験を諦めた最大の理由は、「法律業界の不安要素の多さ」だとしています。

     相次ぐ募集停止発表、定員割れ、入学に必要な適性試験の志願者数も激減、全校の4分の3が赤字経営という話も伝えられる法科大学院。もはや崩壊しかかり、今後存続するかどうかも不透明な法科大学院に進学する勇気はない。留年は多く、高い学費は1年でも卒業が伸びるのは経済的な負担が重い。おまけに無事に法科大学院を留年なしで修了したとしても司法試験の合格率は前年度で23.5%。10人受験して7人は落ちる。司法修習所の間はバイトが出来ないので親の経済的支援がなければ借金するしかなく、司法修習所卒業試験という関門をクリアしても、待ち構えているのは就職難。弁護士になったあとも年収は低下の一途で新米弁護士の年収は今最も多いのが年収500万円代。今後も弁護士増加が続けば年収の低下に歯止めがかからない。昇給もなければ、福利厚生や退職金・年金もないに等しいのに、弁護士登録料などの経費もかかる。一部のエリート弁護士はかなり稼いでいるようだが、稼いでいない弁護士のほうが圧倒的に多く、司法書士などの業務拡大で業務争いもある――。

     ざっと、これが彼の目に映った、法律業界の「不安要素」ということになります。

      「もはや弁護士はスーパーハイリスク、ローリターンな職業といえるだろう。一部の儲かっている弁護士をみて弁護士は儲かると思い込むのは危険だ。ナシーム・タレブのいう『生存バイアス』からくる錯覚である」

      「生存バイアス」というとらえ方をしていることは注目できます。多くの敗者を視界に入れない、一部成功者に着目したとらえ方。要するに、彼らの目に映っている前記「不安要素」の現実をそのままに、この「改革」が破綻せず、成立している、成立させられると強弁している推進派の方々の主張に乗ることは、ともすればその「罠」に陥ることであるとみているようにとれます。以前、ご紹介した 「司法試験不合格のリスクは伴うが、確実なキャリアチェンジを可能にする法科大学院」とする大新聞の法科大学院ガイドなども、まさに「『生存バイアス』からくる錯覚」を起こさせるものです(「苦しい法科大学院ガイド」)。

     彼は、この「改革」の失敗を認めない法曹界に、もはや不信感を持っているようにすら見えます。弁護士増員自体も、法科大学院の存在自体も悪いとは思はないが、問題は弁護士を増やし過ぎたことと、司法試験の受験に法科大学院修了という要件があること、としています。

      「旧司法試験のままで問題などを改良し、合格者を500人から1000人程度に増やせばよかったのではないか。法科大学院の修了を受験資格とするのではなく、法実務を勉強できる場所として数を絞って設置すれば良かったのではないか」

     現実化していれば、夢を断ち切らずに済んだかもしれなかった、彼の願いです。この大学生の「認識」と「選択」を、冒頭書いたようにあくまで一個人のとらえ方とつけ離し、違う発想と意欲のある人材に来てもらえばよし、と片付けることも、ここに多くの法曹志望断念者の声なき声を読み取ることも、できなくはありません。ただ、前者でいく方は、「選ぶ」側の「選ぶ」理屈ばかりで現状を正当化してみたところで、実は「選ばれる」側であるということを認識しないことには、結局、法曹界に来る人材が先細ることだけは、分かっておくべきだと思います。


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     法曹を志す人の気持ちは、もちろんさまざまです。動機も、経済的なことも含めて、置かれた環境も違う個々人が、それぞれの事情をにらんで、人生の決断をすること自体は、たとえ制...

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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