法科大学院という「誤算」

      「法科大学院 撤退ドミノ」「合格率低迷 負の連鎖」「就職難、政府見通し甘く」。6月9日付け日本経済新聞朝刊には、こんな見出しが踊っています。明治学院大学などの相次ぐ統合・撤退から、法科大学院で今、何が起きているかにスポットを当てた記事です(「真相深層」渋谷高弘編集委員)。

     合格率低迷、志願者激減、経営悪化の負の連鎖に陥った法科大学院について、記事はその背景として、入学者、大学、政府それぞれの誤算があったことを挙げています。

     入学者の誤算は「だれでも法科大学院にいけば弁護士になれる」という夢を抱いたことで、法律家に向かない人も含め多数の人が集まり合格率が下がった。大学の誤算は、大学や法学部のブランド維持のため法科大学院を必要と考えたこと。結果、教員を含め不十分な体制で多数が参入した。そして、政府の誤算は、司法制度改革審議会は「規制緩和で社会の需要に応え、多様な法律家を育てる」とうたい、文部科学省が希望するすべての参入を許したこと。修了生を企業や役所が採用するだろうという甘い見通しが外れ、就職難を招いた――と。

     ちなみに小林正啓弁護士は、この記事を取り上げた自身のブログで、日弁連が、法科大学院を作って多数の弁護士を養成すれば、法曹一元になって官僚司法を打破できると信じた、という誤算を加えています。著書「こんな日弁連に誰がした?」のなかで、その熱狂と無謀な戦いを「八紘一宇」に重ね合わせ強調した同弁護士らしい着眼です。確かにあの時代、法曹一元を日弁連は、この「改革」に被せました。ただ、本当に多くの弁護士が、実現を信じ、革命前夜的な熱狂の中にあったのかどうか、これもまた「長年の悲願」として臨司以来の歴戦の弁護士たちを含め、弁護士をこの「改革」へ動員するためのキャッチフレーズとして使われただけではないか、という辺りで、見解は分かれるようには思います。

     さて、前記日経の3つの誤算は、何か違和感を持ちます。どうもそれは、「誤算」という言い方が、本当の原因を作った責任の所在をぼやかしている感じがするからかもしれません。入学者の誤算は、司法審が掲げた「修了者7、8割合格」という話を入学者が真に受けたことからくるものです。もともと制度設計上、これが実現困難であることは十分予想できたにもかかわらず、参入規制しなかったのは政府です。

     その結果、「予想外」に法科大学院が林立してしまったわけですが、それが誤算であったというのは、政府側が繰り返し言っている公式見解です。そして、この背景に、大学側があるべき法曹養成よりも、大学おこし的な発想で、続々とこの制度に名乗りを上げている現実があることを政府が了解していないわけがない。というより、法科大学院はもともとそういうものとして、その欲望を引きずって産声を上げたものとして進められたと見ることができます。これは「誤算」といえるのかも疑問です。

     つまり、すべては三番目の政府の「誤算」と、その責任に帰すべき話ではないか、と思えるのです。この記事は結局、その根っこを見直す話をせず、米国や韓国の話を持ち出し、「日本でも統廃合を含む法科大学院の見直しは避けられない」と、何やらぼやけた結論にたどりついてしまっています。小林弁護士は、「どいつもこいつも誤算を重ねたという事実の意味するところは、誤算そのものは失敗の本質ではない、ということ」「日本という国のもっとずっと深いところに、誰をも誤算させる大きな宿痾が存在する」として、「何より改めるべきは、すぐきょろきょろと外国を見回す、この態度」であると喝破しています。

     しかし、あえてここで、これを推進した弁護士たちの誤算と責任を、前記現実に即していえば、法曹養成制度を長く真剣に議論してきたにもかかわらず、前記法科大学院の実像に目をつぶり、旗を振ることが、弁護士としての役割を果たしていると信じたことであり、また、今も信じていることのように思います。


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    まとめtyaiました【法科大学院という「誤算」】

      「法科大学院 撤退ドミノ」「合格率低迷 負の連鎖」「就職難、政府見通し甘く」。6月9日付け日本経済新聞朝刊には、こんな見出しが踊っています。明治学院大学などの相次ぐ統

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    予想されていた誤算ですね。

     『司法改革の失敗』の資料27は,2000年に名古屋弁の司法問題対策特別委員会が出した意見書ですが,これには「法科大学院を持たない大学は二流と評価される恐れがあるため,各大学は先を争って法科大学院を設置しようとすることが予想される。この結果,日本において必要な法曹人口がどの程度か,という議論が全くないまま,法曹人口の大量増員につながる危険性がある」と指摘されています。
     日経のいう「誤算」の大半は,このように制度設計当初から予測されていたものですが,記事を書いた編集委員がこれらの資料を読んだら何と言うか,是非とも感想をお伺いしたいところですね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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