弁護士資格職員採用自治体への期待と懸念

     明石市が弁護士資格を持った任期付き職員について、所属する弁護士会の会費を公費で負担していることが報道されています(毎日新聞6月8日神戸新聞News6月7日配信)。5人分の会費は月額19万5000円。弁護士会費について、自治体では自己負担が一般的で異例な扱いですが、同市の見解としては、弁護士の調査権も使った職務があることが理由とされています。

     ただ、毎日の報道でも、弁護士資格職員を採用している自治体でも、「弁護士登録は公務に関係ない」という見解を示すところ(千葉県流山市)や、「公務専念」からそもそも弁護士登録抹消をもとめているところ(東京都)もあるとしており、明石市の対応が広がりを見せるかどうかは、いまのところ未知数です。

     明石市は、もう一つ話題を提供しています。弁護士資格者の職員採用に対する積極姿勢です。現在の5人に加え、今夏にはさらに弁護士2人の追加公募をする予定だというのです。弁護士資格者の採用では、東京の9人に次ぐ全国2位。人口比の問題でとらえるのが必ずしも正しいとはいえないようにも思いますが、同市の人口29万人で7人の弁護士資格者が採用されたとみれば、これまた増員推進論者の皮算用につながりそうな話です。同市の泉房穂市長が弁護士であることの影響もいわれています。

     しかし、この流れ、弁護士にとっては、懸念材料でもあるようです。法律相談への影響です。弁護士のブロクでこんなことが書かれています。

      「弁護士会にとっては法律相談の受託収入を失う結果になる。一般の弁護士も相談が減るし、顧問先も自治体からの事件の依頼もなくなる。法曹有資格者の職域が拡大するのも痛し痒しというところか」(「仙台 坂野智憲の弁護士日誌」)

     自治体が実施している弁護士による無料法律相談は、各地の弁護士会が委託契約を結んで実施されているパターンと、自治体が弁護士を「一本釣り」して契約して実施されているパターンがあります。前者の場合、委託料が弁護士会に支払われ、担当弁護士に日当が払われています。もともと後者が主流で、1人で県内の沢山の自治体をかけ持ちで担当している弁護士もいて、中には1人で15の自治体に顔を出しているという話もありました。今は、弁護士会によっては、自治体に極力弁護士会経由の運用をしてもらうよう要請しています。

     その背景には、自治体の法律相談が、弁護士にとって、顧客獲得の重要な機会であるというとらえ方が強まったことがあります。そのため、会員への公平な機会保障の観点から、弁護士会が乗り出してきた格好です。

     前記懸念は、要するに自治体が弁護士を職員として抱え込むことが広がった場合、法律相談を自前の弁護士が担当し、委託契約そのものがなくなるのではないか、というものです。弁護士・会への委託料がなくなると同時に、個々の弁護士の受任機会も奪われるという話につながっています。

     弁護士の多様な活躍の場、増員弁護士の「受け皿」として、推進論者が注目したい自治体の対応に、まさに「痛し痒し」の副作用があるということでしょうか。

      「弁護士会費の公費負担については、地方公務員法で地方公務員は任命権者の許可がないと副業はできないとされている。自治体業務以外の個人事件が許可されるとは思えないし、弁護士資格が無くとも指定代理人として訴訟行為はできるので弁護士登録する必要性はない。従って弁護士会費を公費で負担する合理性はないだろう。もっとも裁判所は自治体の財政支出に広範な裁量権を認めるので違法とはされないだろうが」

     前記ブログ氏は、前記会費負担についてはこう書いています。実際に自治体業務以外の個人事件が許可されないのであれば、法律相談やその先の事件受任がどういう形になっていくかも、会費負担自治体の拡大同様、未知数ではあります。

     いずれしても、弁護士・会が経済的な妙味の観点から、その将来像と照らし合せて、よく考えて慎重に見定めなければならなくなる方策が、これからもどんどん現れてくることは予感させます。


    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「今回の日弁連会長選挙」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    トラックバック


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    まとめtyaiました【弁護士資格職員採用自治体への期待と懸念】

     明石市が弁護士資格を持った任期付き職員について、所属する弁護士会の会費を公費で負担していることが報道されています(毎日新聞6月8日、神戸新聞News6月7日配信)。5人分の会費は月

    コメントの投稿

    非公開コメント

    ありがとうございました

    とおりすがりのうり坊さん、大変貴重な、かつ詳細なコメントありがとうごさいます。

    拝読して、弁護士会費の公費負担という「配慮」が、本来、弁護士ならばこだわるべき論点を回避していることが分かりました。弁護士市長会という存在とその動きが気になります。

    今後とも、よろしくお願いします。

    私見ですが

    こんにちは、初めてお邪魔します。
    このトピックに興味があり、コメントさせていただきます。

    管理人さんもおっしゃっていますが、明石市の事例はあまり一般化できない(一般化すべきでもない)ように思えます。
    失礼ながら、正直なところ、少々胡散臭さを感じてしまいます。
    市長による某団体のためのパフォーマンスのような印象を受けるのです。
    もしかすると、弁護士市長会に加入する各自治体に対して弁護士資格者を大量に採用するように働きかけ、最終的にはそうした動きを全国に広げたいのかもしれません。
    (参考:毎日新聞 http://mainichi.jp/area/shiga/news/20120512ddlk25010584000c.html )
    そうなれば、弁護士の就職難問題も一挙に解決に向かい、万々歳でしょうが。

    弁護士会費の公費負担については、一般論としては適法と考えることはなかなか難しいように思えます。
    所得税法では、資格は本人に帰属するものであることから、社員が加入する士業団体の会費などを会社が負担することは経済的利益の供与と判断されるのが原則であり、ただ、会社の業務を行うために当該士業団体に登録しておくことが必要と認められる場合には、例外的に社員に対する給与として扱わなくてよいとされていたと思います。
    これとパラレルに考えれば、弁護士登録が任期付職員の公務遂行に必要でない限り、自治体による弁護士会費の負担は、任期付職員に対する経済的利益の供与(=給与の支給)と判断されると思います。
    そして、実際に弁護士登録がなくとも公務を遂行できるとのことですから、自治体が弁護士会費を公費負担することは給与の支給とみなされ、条例上の根拠がない限り、地方自治法204条の2に違反すると判断されるおそれがあるのではないかと思います。
    もし公費負担について定めた規定が条例にあれば、弁護士会登録が公務遂行に必要とまでいえなくても、公費負担に合理性が認められる限りで、公金の支出は適法といえるでしょう。
    しかし、こうした条例の規定もない場合は、公費負担の合理性を論ずるまでもなく、手続面の瑕疵で違法となってしまうと考えます。
    また、弁護士会費の支出は、一般的な負担金の使途として想定されているものではありません。議会における予算審議の際に、弁護士会費を公費負担する旨の説明がなければ、適正な予算審議を経ていないという点でも問題になるかと思います(具体には、予算執行の裁量権の濫用と判断されるおそれがあります)。

    思いつくまま、拙い考えを述べさせていただきました。
    長文、失礼しました。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR