弁護士資格が「職業」に直結しない未来

     6月4日に日本経済新聞朝刊に報じられた「弁護士就職 開拓の余地」というタイトルの記事が弁護士のブログなどで話題となりました(「Schulze Blog」 「理系弁護士の日常」)。供給過多がいわれ、就職難が発生している弁護士だが、法律事務所の入所は難しくても、企業や役所のニーズは拡大している、問題は企業側と新人弁護士のニーズの「ミスマッチ」にあるという論調です。

     この記事を企業法務担当者が取り上げたブログ(「企業法務戦士の雑感」)があります。そこで、ブログ氏は、この記事が「弁護士の企業等への就職が進まない」理由の本質である、「法曹界の人間の潜在的(半ば顕在的)な“意識”の問題」に、全くと言って良いほど触れていない、と指摘しています。

      「それはすなわち、『「弁護士」という資格が、あたかも「職業」に直結する』という、ある種の勘違い、とも言うべき意識である」

      「資格」=「職業」ではないことは、他の様々な資格の状況を見るまでもなく明らかなのに、なぜかこの業界では、司法試験に受かり、二回試験に受かれば、「弁護士」として法律事務所で働くことができる、というのを当然視するような風潮が強く、多くの人々は、「法律事務所で弁護士として働く」ことをイメージして司法試験を受けるし、修習生になればそのイメージを実現させるために血道を上げる。「専門性を高められる」という点をアピールポイントにするとしても、企業、官公庁という「組織」に対するイメージ不足・理解不足のため、多くの法曹の卵にとって、そこで働くことの魅力が、「法律事務所で弁護士として働く」というライフモデルへの期待(幻想)を上回る可能性は限りなく低い――。

     彼は、こうした弁護士側の「資格」に対する意識の問題が、企業に弁護士が円滑に流れないことの根本に存在しているということを言っています。つまり、問題は弁護士会側がいうような、企業側の弁護士を受け入れることへの「理解」でもなければ、この記事がいうような、単なる「ミスマッチ」と括れる問題ではない、ということになります。

     彼は、本来、法科大学院生や修習生を導くべき立場にある実務家教員や研修所の教官も、自分が歩いてきた「古典的な意味での『弁護士』」「法曹」以外のプロセスの魅力を「なかなか伝えようとしないし、仮に伝えようと思っても、どう伝えれば良いのか分からない、というのが実態ではないか」としており、法曹養成そのものにこうした意識を変えることが出来ない構造的問題があることも示唆しています。

     しかし、彼の指摘は要するに、前提として弁護士がもはや独立開業を本道とする資格ではなくなった、ということを確認するかどうかの問題でもあります。他の資格から見て、「資格」=「職業」ではないとしても、「弁護士」という仕事が、およそそうでないものとして社会的に認知されているとは思えません。

     そもそも「受け皿」が見込めなければ、「古典的」といわれても、これまでの形を目指すのもまた当然です。弁護士の増員政策によって、弁護士が法律事務所に勤務し、やがて独立するというモデルは確かに崩れてきていますが、依然、それを目指すこと自体は何も不思議ではありませんし、その彼らが、そこに一定の収入を見込んでいたとしてもそのこと自体はおかしくありません。いまや、そこには法科大学院強制制度への先行投資の現実も横たわっています。

     つまり、「弁護士」という仕事のその描き方は、そもそも志望者たちがこの世界を目指すことの大前提に決定的にかかわってくる話なのです。前記記事の「ミスマッチ」のなかに描かれた企業が求める「年収300万円~400万円」について、前記弁護士ブログ氏はこう言います。

      「このミスマッチは永遠に埋まらないでしょうね。能力があって語学力もあって、経済や社会に関心があって、業界の知識もあって・・・・そんな人を年収300万円で採用したいだなんて、そんな『企業のニーズ』など、ずいぶんとムシの良い願望ではないですか。そんな人材は、弁護士に限らず存在しないと思われます」
      「年収300万円からスタートで良いのなら、最初から大学院など行って弁護士資格を取らなくとも、新卒で会社に就職すればいいだけの話ですし、もし『能力があって語学力もあって、経済や社会に関心があって、業界の知識もある』ようなスーパーマン(笑)なら、自分で起業したり弁護士以外のビジネスをやった方が良さそうですね」(前記「Schulze Blog」」)

     企業法務担当者のブログ氏も、現在、弁護士の企業採用の絶対数が少ないことは認めながら、「法務担当者」枠では驚くほど高い割合とする一方、今後、官公庁や企業、各種団体に就職する人はおのずから増え、固定観念が変われば、法務専門職としてではなく、通常の新卒総合職として組織に入るケースも増加する、としています。前記古典的な弁護士の仕事観が崩れるのと同時に、資格としての特別待遇を求める意識も消えることを、企業側が当然想定・期待していることがうかがえます。経済界がこの増員政策に期待していた弁護士「改革」の利につながっているように見えます。

      「あと5、6年もすれば、『弁護士』=『職業』という旧態依然とした固定観念は、若い世代を中心に徐々に消滅し、会社なり、役所なり、あるいはNPOなり・・・といった、本来の自分の『仕事』の中で、一資格としての弁護士資格をどう生かすか、という発想に頭を切り替える人が必然的に多数を占めることになるだろう。そうなった時、『弁護士の就職難』などというフレーズが世の中で使われることは、完全になくなるはずだ」

     彼は、企業法務分野が既に「飽和状態」に近いという認識を示しながら、こんな見通しを示しています。しかし、もし、この未来が本当に来るとすれば、それは、これまでならば法曹界を目指していたはずの多くの人材が、この世界を目指さなくなった後の、全く別の「弁護士」という仕事を目指してきた人たちであふれている世界です。そして、それが数が増え、生存環境の変化によって生み出された、「弁護士」という仕事の生き残りという目的が必然的にもたらした世界だとすれば、それが本当にこの国にとって望ましいのかは、まだ即断できないように思えます。


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    まとめtyaiました【弁護士資格が「職業」に直結しない未来】

     6月4日に日本経済新聞朝刊に報じられた「弁護士就職 開拓の余地」というタイトルの記事が弁護士のブログなどで話題となりました(「Schulze Blog」 「理系弁護士の日常」)。供給過多

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    ありがとうございます

    みなさま、コメントありがとうございます。

    SBさん
    その通りかと思います。
    的確なご指摘と読ませて頂きました。

    黒猫さん
    すみません。楽観視しているわけでも、望ましいとも思っておりません。
    もし、そう伝わってるのでしたら、私の表現力不足です。
    ただ、望ましいという意見は、少なくとも弁護士を包囲している世論のなかに、いくらも見出すことができるので、あえてこうした書き方をしました。また、「就職難」が問題にされない状況をはじめ、彼が描いた世界には、まだ至っていないのは事実かと思います。さも望ましい未来のようにいう彼の未来図になるかどうか、それがいいことなのかに疑問を呈したつもりでした。

    今後ともよろしくお願いします。

    ちょっと分かりにくいです。

     現在でも,司法研修所を卒業しても法律事務所に就職できず,弁護士登録もせずにDVDレンタルショップでアルバイトをしているような「弁護士有資格者」はいるそうですが,企業法務のブログ氏が言われるのは,要するに数年先にはそんな人がむしろ当たり前になり,「弁護士の就職難」なんて誰も問題にしなくなるということですよね。
     そういう事態の当否はともかく,現状を放置していれば遠からずそういう事態になると思いますが,今回の記事を読んでいると,そういう未来がまだ現実のものにはなっていないと楽観視しているようにも読めますし,それがこの国にとって望ましいと判断する余地があると言っているようにも読めますし,いまいち論旨不明ですっきりしないものを感じました。
     コメントする度に生意気なことばかり言って申し訳ありませんが。

    No title

    法科大学院進学を諦める。
    http://ameblo.jp/zivilisation/entry-11273506105.html
    「問題は弁護士を増やしすぎたことと、司法試験の受験に法科大学院修了という要件があることだ。旧司法試験のままで問題などを改良し、合格者を500人から1000人程度に増やせばよかったのではないか。法科大学院の修了を受験資格とするのではなく、法実務を勉強できる場所として数を絞って設置すれば良かったのではないか。」

    これが,老人(大学教授)たちが若者を食い物にし,司法制度を破壊している現実です。

    No title

    意識改革が必要なのは企業法務戦士氏のような人々ですね。職業に直結する資格など,医師,看護士その他医療関係資格,公認会計士,税理士,司法書士等,いくらでもあります。アメリカには法学部がありませんので企業法務をやりたければロースクールに行く必要がありますが,日本で企業法務をやりたい場合,法学部がありますから,ロースクールに行く必要がありません。これでロースクールに行って弁護士になる必要があるとしたら,何のための法学部ですか。ロースクールと違って4年間もあるのに。もし法学部が社会の需要に応えられていないならば,法学部改革が先です。弁護士になっても新卒と同程度かそれ以下の待遇でしか働けないならば,新卒資格を捨てて1000万くらい借金して法曹に挑戦しようというなどという奇特な人はいなくなるでしょう。今ですら危機的な状況なのに,日本の司法は今以上に崩壊します。企業法務戦士氏の言っていることは机上の空論であり(しかもその前提事実は誤っている。),司法制度改革審議会の誤りを上塗りしているだけのものです。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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