「弁護士大安売」の反逆

     山崎今朝弥(1877-1954)といえば、自由法曹団結成、日本社会主義同盟、日本フェビアン協会の設立に参加した弁護士・社会主義者であることとともに、諧謔と反語に満ちた奇文・奇行で知られる、実に魅力的で、興味深いエピソードを持つ人物です。

     その彼の代表的な著作のひとつに「弁護士大安売」(「辯護士大安賣」1921年)という題名のものがありますが、実は彼が実際に、この言葉を宣伝文として使い、新聞に広告を出したエピソードがそこに登場します。1908年に山梨県の甲府に移転したとき、彼は次のような文面の広告を打ちました。

      「売出しに付き 弁護士大安売
       甲府法務局長 平民法律所長 山崎今朝弥
       甲府遊郭大門前旧化物屋敷」

     この広告は、すぐさま問題となります。弁護士会の会長は「弁護士は呉服屋、太物屋と違う、果たしてしからば、弁護士大安売等と呉服屋、太物屋の株を奪う如きは、弁護士の体面を汚すこと甚だしきもの」、またある弁護士は、「多数弁護士を代表する個人の資格」で、「弁護士は百世の師表、現代の権威でなくてはならぬ、ソレを弁護士大安売とは何事ぞや」と、彼を問い詰めました。

     しかし、彼は弁護士たちの言い分を全く意に介しません。ただ、もう一つ彼が想定していなかった抗議がありました。

      「思い掛けなかった家主の法律論に依れば、この家が仮令旧(たといもと)は化物屋敷であったにせよ、ソレを新聞にまで吹聴する法はない、借りる者に迷惑はなくとも貸す身になれば、後に借り人も少なくなり従って家賃も安くなり大いに迷惑である、非常の損害であるとの説であった。なるほど民法七百九条には、過失にても他人を害し他人に損害を与えたるときは損害を賠償する責に任ずと書いてある。僕が悪かった。弁護士諸君の説には至極賛成は出来ないが、これも人の厭がる事を強いてやる必要を認めぬ故、その後は新聞広告を左の如く改めた」

      「化物屋敷」呼ばわりへの大家の抗議を想定していないというのも、面白い話ですが、彼は問題の部分をこのように改めて広告を出しました。

      「追て旧化物屋敷の儀は今後家賃に障るとて大屋大目玉に付全部取消」

     この広告を見た大家は、またすぐ彼のもとに飛んできて、この広告はやめてくれ、と言ったそうです。これまた体裁悪い、というところでしょう。ところが、彼によれば、これをきっかけに大家とはいい関係になり、「損害賠償問題は暗黙の合意で消滅」。弁護士会からの抗議の方も立ち消えになりました。後日、彼を詰責した前記弁護士は、彼にこう言ったそうです。

      「マー君は少し気違いだという事だから許して置く事にした」(原文ママ)

     要するに、あきれ返られてしまったということのようです。ただ、もちろん、彼は、確信犯としてこれをやっています。彼はこれ以前にも公事訴訟(民事訴訟)は弁護士の喰物になるばかりのものだからするな、弁護士に頼むな、と大衆に呼びかける内容の広告を打ち、物議を醸しています。彼の広告には、カネ取り主義の当時の弁護士たちの姿勢や、そのくせ「品位」を持ち出す彼らの体質に対する、皮肉を込めた「反逆」の精神を読み取ることができます。彼は、こんな風にも言っています。

      「私の弁護士大安売りはただ単に奇を好むばかりではない。実際真面目な理由がある。世のため人のためはもちろん口実に過ぎぬが、私には安売りせねばならぬ理由がある。それは原価が余り多く掛っておらぬ事だ。私は弁護士になるのは、時間で十八ヵ月、金で三百円を費やしたのみで学歴もない。夏は働き冬は通いでようやく小学校を卒業したのみである。しからば図抜けて天才かといえば、村の尋常科時代を除けば開闢以来いまだかつて首席を占めた事がない。私の考えでは弁護士というものは巡査に相当する尊敬と栄光を有するものである」

     さて、時は変わって現代。弁護士大増員政策の先に、あるはずの弁護士需要はなく、生きるためなら「大安売」も迫られそうな弁護士たち。見方を換えれば、「使い勝手」や「安く買いたたける」環境を求めていた方々の「改革」だったかという声も、ようやく広く聞かれ出しています。最近も、実務経験ある弁護士を任期付きで市の係長職員として募集するニュースをめぐって、弁護士のなかからは、その「お見積り」に複雑な反応の声も聞かれます。

     ニーズがないならば、掘り起こせという時代には、山崎今朝弥の時代にもいた、依頼者を訴訟によって食い物にするカネ取り主義の弁護士が登場する危険がある一方、彼の言とは違い、法科大学院によって「原価がかかった」若手弁護士や志望者が路頭に迷う状況まであります。

     彼が、もし、この時代にいたならば、どんな奇文と奇行で、この状況に対して、諧謔と皮肉に満ちた「反逆」の姿勢を示しているのでしょうか。


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    まとめtyaiました【「弁護士大安売」の反逆】

     山崎今朝弥(1877-1954)といえば、自由法曹団結成、日本社会主義同盟、日本フェビアン協会の設立に参加した弁護士・社会主義者であることとともに、諧謔と反語に満ちた奇文・奇行で知

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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