顧慮しない「改革」路線の責任

     2000年2月、司法改革をめぐる会内の激しい路線対立を背景とした選挙戦に勝利して、日弁連会長に就任した久保井一匡弁護士は、その結果について、当時、私の取材に答えて、こう語りました。

      「批判票もありましたが、その評価については、私は現在の日弁連の路線を批判するものばかりでなく、日弁連の現在の方針は正しいが慎重に進めてほしいという期待を込めて、批判票を投じたものが多いと受けとめています」

     この年の選挙では、反「改革」路線の立場から、その後、5期連続出馬となる高山俊吉弁護士が、初めて立候補。一騎打ちの選挙戦の結果、久保井弁護士が7977票、高山弁護士は3450票を獲得していました。敵対した人の数を味方に換算しようとしているようにとれる久保井弁護士のコメントは、「改革」が本格的な争点になる前の日弁連会長選挙が、どこか終われば一致団結的なムードがあったことを、この時点では引きずった善意解釈ともとれなくはありません。

     ただ、おそらくこの発言の根底にあったのは、当時の日弁連内の「改革」推進派にあった楽観論とみることができます。当時、彼らは、事あるごとに、会内から聞こえてくる「改革」路線批判の声に対し、それらは「改革」への不安感だとして、久保井弁護士の発言にみられるような「改革そのものには反対ではない」「いつか合流する」という主張を繰り返していたのでした。

     しかし、この主張には、当初から強引さが感じられました。要するに彼らは、同業者たちの不安感を一顧だにせず、はじめからすべてを我慢してでも乗り越えるべき、「改革」の「産みの苦しみ」「陣痛」と決めつけているように見えたのです。

     だから、久保井会長の発言を聞いた時も、その批判票は「慎重に進めてほしいという期待」ではなく、既にその時点の日弁連内「改革」推進派の会内の批判・慎重論を顧みない姿勢への批判そのものではないか、と感じました。そして、彼は案の定、会内の声を顧みることなく、その年の8月、司法制度改革審議会の席上、経済界側委員からの不安の声を押しのけて、司法試験年3000人方針について、「公的なニーズが非常にたくさんある」といち早く太鼓判を押し、日弁連はその2ヵ月後の11月、約9時間に及ぶ臨時総会での激論の末、賛成多数で事実上、この方針を受け入れる決議を採択します(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)。

     そして、その後も、日弁連・弁護士会は、「改革」派主導のもと、反対論を顧慮しない路線を突っ走ってきました。「改革」の「牽引車」になるという、この路線の提唱者といってもいい中坊公平弁護士の発想に、まさしく弁護士会全体が牽引された、といってもいい様相でした。

     では、「改革」の失敗が言われ出している今、この日弁連「改革」主導層がとった政策が正しかったのかどうか、あるいはその責任といった問題を問う声が、弁護士会内から大きく聞こえてくるかといえば、不思議なくらい、それはありません。むしろ、顧慮されることない「改革」路線は、いまでも健在のように見えます。

     最近も、日弁連が各弁護士会に照会中の「法科大学院制度の改善に関する具体的提言案」(「根本的な議論への内なる抵抗」)について、大阪弁護士会の常議員会が法科大学院を維持改善する意見に賛成する決議を可決したことを坂野真一弁護士が自身のブログで報告しています。執行部側の主張とそれに対する意見も述べられていますが、結局、法科大学院導入による弊害を上回るメリットを彼らの主張に見出せないまま、賛成29、反対13、保留9で可決されたということでした。坂野弁護士は、こう締めくくります。

      「法科大学院維持派の先生方、本当に法科大学院制度は良くなるのですね?もし、失敗したときは、逃げずに責任取って下さいね」

     顧慮されることない「改革」路線を、いまだ突き進んでいるように見える、彼らの頭のなかには、今度こそ「責任」という文字が存在しているのでしょうか。


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    まとめtyaiました【顧慮しない「改革」路線の責任】

     2000年2月、司法改革をめぐる会内の激しい路線対立を背景とした選挙戦に勝利して、日弁連会長に就任した久保井一匡弁護士は、その結果について、当時、私の取材に答えて、こう語り

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    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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