虚しい法科大学院論議

     物事の悪いところばかりを見ずに、良いところも見て、それを正当に評価することは、もちろん必要なことです。ただ、悪い点をなんとかしなければ、被害を防げない、という場合において、良い所を評価することに終始する議論は、時になんとも虚しい感じを与えるものです。いうまでもなく、そのこと自体が、被害を止めるための、何の解決にもつながらないことがほとんどだからです。

     むしろ、そのことがはっきりしていても、まだ、良いところにこだわる主張がなされるのは、対象物がある局面に立たされている場合がほとんどといっていいと思います。それは、その悪い部分をもってして、その評価の対象物が消されてしまうかもしれないとき。つまりは、その存続、生き残りをかけての長所の強調です。

     ただ、あたかもそれがバランスをとって、公平な目線で主張されているようであっても、肝心な被害を防げない現実の前に繰り出されるそれは、単に論者たちの目をそらさせるだけの、根本的な解決に向けた議論の足を引っ張るだけに終わるおそれがあるものです。それは、やはり虚しいというべきです。

      「法曹の養成に関するフォーラム」の議論を見ると、正直、回を重ねるごとに、その虚しい感じの主張を多く見るような印象があります。もちろん、もともと司法制度改革審議会が引いた路線を正面から批判する委員は誰も参加していない会合です。この「理念」は絶対的に正しく、これを死守するためにどうするかが話し合われているような会合ですから、その「理念」が生んだツケよりも、勢い正しさを弁護できる点が、強調されることも当然というべきかもしれませんが。

     つまりは、法科大学院制度そのものは正しく、間違っていなかったという話です。問題が起きているのは「改革」が不十分であるという認識や、もはや統廃合という「しっぽ切り」で、自分たちは残ると踏んだ方々からすれば、消えていくべきとする所との差別化、「一緒にしてくれるな」とも聞こえる発言まで目にすることになっています。

     ただ、そうしたムードの中の議論では、やはり所々で議論されるべき点が通過していくような感覚に襲われるものに出会います。「フォーラム」第13回会議で、例えば、こんなシーンがあります。岡田ヒロミ委員・消費生活専門相談員は、予備試験について、資力の問題など目的で対象を絞るのが難しいということに関連して、こう言います。

      「私はそういう目的は明確にできないのであれば、法科大学院とどっちを選択してもいいよというような形、今、実態はそのようではないかというような気がします。では法科大学院の生き残りはどうすればいいのかとなると、やはり法科大学院の魅力にかかっていると思うのですね。授業の内容であったり、成果であったり、そういうものだろうと思いますので、やはり法科大学院自体がもっと受験者ないしは勉強する者にとって、環境が許せるのであればやはりこちらに行った方がいいよと思えるような法科大学院になることだと思います」

     根本的な指摘だと思います。当然、そう考えるべきことですが、法科大学院本道主義の立場からすると、実は初めからこの魅力や妙味をかけた実力勝負には出ない。実は自信がないように見えるのです(「受験資格化を必要とする理由」)。井上正仁委員・東京大学大学院法学政治学研究科教授から、案の定というべき反応が速攻で返されてきます。

      「法科大学院が予備試験に負けないような付加価値といいますか、魅力ある教育をすればよいではないかという御意見もありましたが、予備試験のバイパス化を含め司法試験の合格ということが至上の目標のようになってしまうと、法科大学院自体も、学生たちも、さらには学校側も、どうしても合格率、合格率ということになってしまい、そういう本来目指していた多様で豊かな力をつける教育がおろそかになっていくおそれが大きいのです」
      「一生懸命やっているロースクールでは、そういう力をつけさせるメニューは十分用意していると思っていますので、そこに打ち込めるような環境をつくりたい。そのためには、司法試験の桎梏から解放される必要があるのです」

     これは、なるほど、ということになる話でしょうか。司法試験合格ということで勝負に負けてしまう、ということをまず、おっしゃっていて、いわばそこに脅威があるのは分かります。しかし、これでは「魅力のある教育」はどうなってしまうのでしょうか。初めからそこで勝負しない、自信のない法科大学院でいいのでしょうか。もちろん、法科大学院が「魅力のある教育」で勝負して、修了者の実力において違いを見せることができるのであれば、それは社会的な評価にもつながり、今後の「受け皿」に大きくかかわってくる話のはずです。

     つまり、これはどう見ても、自信のない本道主義をとにかく守るための、今、起きていることに対する根本的な議論の回避です。その一方で、合格に偏重しない教育とか「多様で豊かな力」といった「理念」につながる点を言い、さらに、「一生懸命やっている」所では、「力をつけさせるメニューは十分用意している」。それを言うならば勝負すればいいではないか、と言いたくなりますが、ここはむしろ前記「一緒にしてくれるな」の主張の方であると読むことができます。

     受験条件化の問題ともつながる、この切り口の話は、あっさりとこれで終わります。これをさらに混ぜ返し、追及し、掘り下げる議論を仕掛けるメンバーがいない会合といってしまえば、それでまでですが、やはりこれは虚しい会議というべきです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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