「弁護士費用保険」利用の現実から見えるもの

     自動車保険の特約として販売されている「弁護士費用保険」について、加入者が年々増え続けている一方で、利用件数が低調であることが報じられています(Sankei Biz6月1日) 。それによれば、弁護士費用保険は、日弁連と損害保険会社が連携し、2000年にスタートし、同年度約7400件だった契約件数は、2010年度は約1430万件に上り、現在は11の保険会社が取り扱っているが、利用件数の方は、同年度に約8200件で、0.05%足らずである、と。

     もっとも、弁護士費用保険は、日弁連が損保会社に商品化を促し、数社の損保会社が2000年から販売を開始することとなった保険ではあるものの、日弁連と協定している損保会社だけが独占的に販売している保険でなく、通販型自動車保険会社の多くを含め、取り扱い会社は11社にとどまらず、多数存在しているようです(「弁護士田中智之ブログ」)。そうだとすれば、保険全体の実際の利用率は、前記数値と異なってくる可能性があります。

     それはともかく、この記事は、弁護士費用保険の利用低調の理由を次のように指摘します。

      「『いざというときのために安心はしたいが、実際に裁判沙汰にするのは避けたい』。背景にはそんな複雑な消費者心理もあるようだが、勧められて加入したものの、契約内容をよく理解せずに使わない人も多いとみられる」
      「(大手損保会社) 担当者は『弁護士に頼むと角が立つ場合もあり、トラブルが手に負えなくなって初めて弁護士に、という人が多いのでは』と分析する」

     そしてこれに対しては、実際には保険に加入しているのに、気付かずに使っていない人も多いはずとする、大阪弁護士会総合法律相談センター運営委員会で弁護士費用保険のPRなどを担当する木村圭二郎弁護士の、次のようなコメントで、記事を締めくくっています。

      「弁護士費用は高いのでは、と依頼するのをためらっている人もぜひ保険を活用してほしい。そのためにも保険会社と連携してPRしていきたい」

     この保険を利用して助かっている市民もいるとは思いますし、また、木村弁護士が推測するように、気付かずに使っていない人も、確かにいるかもしれません。ただ、ここでの市民の反応と弁護士の言い分は、奇しくもあることを彷彿させます。それは、弁護士増員をめぐって被せられる「社会の隅々」論や、「社会生活上の医師」を掲げての、弁護士による弁護士活用を求める論調です。

     弁護士が増えて、身近になるからといって、市民側は、「いざというときのために安心はしたい」という気持ちはあったとしても、決定的に「裁判沙汰は避けたい」し、弁護士のお世話になるような法的手段は「トラブルが手に負えなくなって初めて」使う最終手段。一方、そうした確固たる市民の意識が存在するにもかかわらず、推進派の弁護士側は、そのことには触れず、費用をはじめ市民の「抵抗感」を指摘して、「活用してほしい」「PRしたい」――と。

     もっとも、この推進派弁護士の姿勢は、前記市民側の意識を黙殺しているというよりは、そもそも「改革」路線が、そうした司法を利用しない市民意識そのものも是とせず、むしろ、そこを含めて変革することを目指しているととれますから、市民に対して「心得違い」とはいわないまでも、「最終手段ではない段階で弁護士へ」を促している、という話になるのかもしれません。

     いずにしても、この保険にしても弁護士にしても、「ご厄介になりたくない」ために活用されていない現実に対して、利便性から活用を強調する弁護士の主張は、どのくらいかみ合い、また、有効とみるべきなのでしょうか。

     実は、少々気になる分析をしている損保業界関係者のブログを見つけました(「辻田幹夫のお気楽損害保険(損保)ブログ」 )。辻田氏は2回にわたり(「弁護士費用保険の状況」 「弁護士費用保険の状況に対する策」)、前記記事をもとに、弁護士費用保険の利用の現実を明らかにしています。

     詳細は、是非、お読み頂ければと思いますが、弁護士費用保険の低い利用率とともに、彼の試算で明らかになっているのは、25%という異常に低い損害率であり、それが保険会社にとって、ドル箱といってもいい実態です。そして、記事中の木村弁護士の推測が正しく、弁護士の呼びかけで利用率が上がれば、総支払保険金と総収入保険料のバランスが変わり、損害率は上がるとしながらも、次のように述べています。

      「ただし、弁護士費用保険が使えるケースにおいて、すべての場合で賠償額が増加して被保険者にメリットが生じるわけでもないことを考慮する必要があります。おそらく、人身事故の場合には弁護士費用保険を使うことに意義があることが多いけど、物損事故の場合にはメリットが少ないのではないかと思っています。人身事故の場合には、加害者側の保険会社は最初は自賠基準での賠償を提示するのが一般的ですが、この基準が低くて弁護士を入れて交渉することに意味があるからです。そもそも、加害者側の提示する賠償額に異議がなければ、弁護士費用保険が使えるケースであっても使う必要性が全くないことに留意する必要があります」

     そのうえで、辻田氏は契約者、被保険者(被害者)、保険会社、弁護士、加害者、加害者の保険会社という関係6者について、「利用の推進」と「保険料下げ」の2点でのメリット、デメリットを表にし、現実は他の関係者に比して、弁護士にメリットがあり、デメリットがないものであることを指摘します。被保険者(被害者)には、損失額軽減のメリットと手間や時間を費やすデメリット、保険会社には支払い保険金の増加と収入保険料の低下によるデメリットがあるなどとしています。辻田氏は次のように結論付けます。

      「これを見ると、当事者であり、そのことによって利益を得る立場である弁護士が『利用の推進』を言うのは、自身の利益を増大させるためではないかという疑念を抱かざるを得ないです。勿論、弁護士費用保険を利用することによって被保険者の損失が減る場合に、その利用を推奨することに異議を唱えるものではありません。ただ、PRを弁護士がしようと言うことに疑義を感じるということです」

     損保業界関係者がすべてこの保険と弁護士について、こうした冷やかな目線を送っているのかどうかは分かりません。ただ、メリットや活用が、一番に誰のためのものとして強調されているのかは、少なくとも大衆の側からすれば、重要なポイントになることを、弁護士はもっと分かっておく必要があるように思います。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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