当たり前の「指針」が伝える姿

     「指針」といわれるもののなかには、人として、あるいは職業人として、およそ当たり前ととれるようなことが盛り込まれることがあります。もちろん、盛り込む側には、それなりの事情があり、そうせざるを得ないのでしょうが、そうした事情をよく知らない人たちへは、おそらく当事者の予想以上の「効果」が生まれています。

     それは、端的に言って、こういう受け止め方をされるということです。

     「そうか。知らなかったが、こんなことまで指針に盛り込まなければ、守れない人びとだったんだ」

     債務整理事件をめぐる弁護士と依頼者間のトラブル多発を受け、日弁連が2009年7月に「事件処理指針」を公表したときも、そんな風な受け止め方をする声を聞きました。

     「直接面談の原則って、依頼者に会わないで処理する弁護士がいるんだ」

     日弁連は、2月9日に開いた臨時総会で、この原則を含め、弁護士か債務整理を引き受ける際のルールを盛り込んだ「会規」を賛成多数で採択しました。このほかに、報酬について、和解などでの解決金は1社につき5万円以下、過払い金の返還では返還金の25%以下といった上限や、広告についても報酬基準の表示の努力義務を課す内容です。

     今回、会規が、先の指針と違うのは、強制力を伴っている点、つまり、違反すれば懲戒の対象になるのです。

     なぜ、こうなったかといえば、いうまでもなく、指針ができた後も、トラブルが絶えなかったという事情にほかなりません。その中身は、依頼者との面談を弁護士でなく事務職員がやってしまったり、過払い金返還で高額な報酬を請求したり。なかには過払い金分が全部弁護士の報酬に消えるなんて例まで報道されています。

     要するに、こういう事態を受けて、懲戒の脅威でなんとかしようという規制強化策に打って出たというわけです。宇都宮健児日弁連会長も、記者会見で、「指針とは重みが全く違う」として、この会規によってトラブルが減少するという見通しを示されたようです。

     まあ、それはそういう話になるでしょう。ただ、問題は、前記「指針」同様の、この会規の別の「効果」です。

     先の「指針」では、おさまらなかった弁護士の姿とは、国民にどう映るのでしょうか。

     それは、金儲けというテーマの前に、その欲望を、もはや懲戒という脅威なしには、自らの力ではとめることができない、社会正義を掲げる法律家の姿ではないでしょうか。つまり、もはやそういうレベルであることを、社会に広く宣言しているとも、とれないでしょうか。

     もっとも弁護士の中には、依頼者の中には、面談ではなく、メールで片付けてもらいたい人もいる、などとして、サービスのあり方として、今回の会規を問題とする異論もあるようですが、多くの大衆は、およそ面談しないことをサービスの一環とはとらないでしょう。

     もちろん、どんなに弁護士のイメージダウンになろうとも、もはや放置するわけにはいかない、とする苦渋の選択だったのかもしれません。ただ、弁護士は、こうした選択が、徐々に弁護士の社会的立場を変えてきたことに、本当に気付いているのか、疑いたくなるときがあるのです。

     俺は違う、とか、まじめにやっている弁護士も沢山いると、百万遍言ったところで、弁護士全体に対する社会の目線は、どんどん変わる。不信と警戒の目は、例外なく、すへての弁護士に注がれてもおかしくありません。

     「直接面談の原則」は、かつて「当然過ぎる」ということで、弁護士の職務基本規程に盛り込まれなかった、という話もあります。既にそういう時代でなくなったということの意味、その変化を弁護士は当事者として、よく認識しなければなりません。

     当たり前の「指針」に、もはや強制力が必要になったと、社会からとられる、この状況は、仮に宇都宮会長の予想通り、トラブルが減少しても、この国の弁護士の未来に影響すると考えるべきです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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