受験資格化を必要とする理由

     弁護士会のなかで会員の意見が大きく割れている法科大学院の問題(「根本的な議論への内なる抵抗」)ですが、このなかの一つの論点が、受験資格化への対応です。司法試験の受験資格を原則法科大学院修了者とする形をやめることに踏み込むか否かの問題です。

     5月1日付けの日弁連委員会ニュースのなかにある「法科大学院センターニュース」で、現在作成中という「法科大学院Q&A」の一部が紹介され、その設問のなかに、この受験資格化についての理由を尋ねるものが出てきます。回答には次のように書いてあります。

      「法科大学院は、従来の『点』による選抜ではなく『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備すべきという観点から、その中核をなす法曹専門教育機関として設置されました。現在の法科大学院には解決すべき課題が様々に存在しているのも確かですが、かといって、法科大学院の修了を司法試験の受験資格と切り離すとすれば、法科大学院を中核とするという理念が骨抜きになってしまいます」
      「仮に受験資格を撤廃すれば、法科大学院は法曹になるために必要なものではなくなり、法科大学院における専門教育を法曹養成の中核とした理念に反することになります」

     この問題をご覧になってきた方からすれば、ざっと見る限り、聞き飽きた新味のない論調と思われるかもしれません。それはその通りですが、改めて見ると、不思議な感じがします。受験資格を切り離したならば、理念が骨抜きになる、法科大学院は法曹になるために必要なくなる――。要件から外した瞬間に、骨抜きになり、必要でなくなる法科大学院制度とは一体何なんだ、ということです。

     端的にいえば、志望者に利用されなくなる恐れですが、そうだとすれば、法科大学院の理念や必要性は、志望者に強制しないことには、了解も評価もされないことを前提にしているととれます。つまり、ここでは他のルートと対等に比べても、確かに法科大学院ルートは必要だ、という評価にならないという自信のなさが現れているとみることができるのです。

     その評価とは、例えば、志望者にとっては、やはり法科大学院に行かないと司法試験に受かりにくい(司法試験が本当に修了の効果測定的な意味を持つものとして存在できるとして)とか、合格後、実務家として活動していくうえで、他のルートの人より、差がつくとか、一方、社会的な評価として、法科大学院経由・非経由の法曹の質に違いがあって、「さすが法科大学院修了法曹だ」と言わせしめるものがあるとか、ですが、いわばそうした勝負は初めから難しいと、法科大学院本道主義を掲げる方々が考えているととれることになります。

     そう見てしまうと、このニュースも言っていますが、法科大学院が「先端科目や法曹倫理等を履修し」、「具体的事実を分析して法を適用する能力や、判例・法律文献のリサーチ技術など、従来の試験制度では測れない能力の獲得を目指し」ている、と振りかざしたところで、強制しなければ見向きもされなくなると聞こえる主張と読みあわせてしまうと、そのことにも現実的にはどれほど胸を張っている話なのか、と思えてしまうのです。

     そもそも法科大学院は法曹養成の「中核」ではない、ということを武本夕香子弁護士が最近のブロクで書いています。

      「法科大学院が法曹養成の補完的制度ではあっても、中核であるはずがありません。なぜなら、法科大学院を出た方が皆法曹になるわけではなく、従って、法曹を養成することのみが法科大学院の教育目的とはなり得ないからです。これに対し、司法修習は、近年弁護士としての就職先がないことから致し方なく法曹以外の職業に就かざるを得ないことは多いですが、それまではほとんど全員が法曹になる人達の集まりで、まさに法曹を養成するためのシステムです」

     武本弁護士は、日弁連の法科大学院関連委の委員に「『中核』とするのはおかしいではないか」と質したところ、「中核」であることの理由は、一つは、過去、司法制度改革審議会や日弁連の意見書に度々「法科大学院が法曹養成の中核」という言葉が出てくるからと、もう一つは、「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」いわゆる「連携法」に書いてあるから、という、答えが返ってきたそうです。

     ところで、前記委員会ニュースは、毎月、各種の日弁連内委員会がそれぞれの編者責任でまとめたニュースをまとめて、機関紙「日弁連新聞」とともに、全会員に配布しているものです。受験資格化を法科大学院が「中核」であり続けるために必要とする「法科大学院Q&A」は、完成後は一般配布するかもしれませんが、この記事自体は、会員に向けられていることは確かです。

     前書きには「(法科大学院の)創設の理念に今一度立ち返り、その制度の意義と実情を振り返る一助となれば幸い」と書かれています。しかし、この制度を見切り出している志望者や意見が割れている会員に対して、今、前記したような実情を振り返らして、一体、この制度の何を理解させることを期待しているのでしょうか。


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     弁護士会のなかで会員の意見が大きく割れている法科大学院の問題(「根本的な議論への内なる抵抗」)ですが、このなかの一つの論点が、受験資格化への対応です。司法試験の受験資格を原則法科大学院修了者とする形をやめることに踏み込むか否かの問題です。 5月1日付けの...

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    要するに

     日弁連のお偉方は法科大学院関係の利権にどっぷりと浸かっているから,そうでない会員が何を主張しても無駄だ,ということを理解させたいのでしょう。
     そもそも,法科大学院創設の理念は,実務家教員をはじめとする日弁連の新たな利権を作ることにあり,法科大学院の修了を司法試験の受験資格と切り離すとすれば,法曹養成過程に新たな利権を構築し,法曹志望者や国から多額のお金をむしり取るという法科大学院制度の理念が骨抜きになってしまいます。実にわかりやすい説明じゃないですか。
     少なくとも,私にはそのようにしか読めません。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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