検証なき「増員」路線の失敗を認めない人々

     10年前に掲げられた年間3000人の法曹を、この国に生み出そうとする計画が、少なくとも社会が必要とするという見通しにおいて、何らかの確たる裏付けがあったわけではないことは、いまや多くの人が認識しています。当時、現実問題として、弁護士を経済的支えるニーズがどの分野に、どの程度の規模で存在しているのかの検証を踏まえたうえで、この計画が決定されたものではなかった、という事実は、今にしてみれば、不思議なことのように受けとめられてもいます(「遅すぎた『受け皿』へのヒアリング」)。

     だから、少なくとも、これからということを考えた場合、いくらなんでも同じ轍は踏まない、と考えるのは当たり前のようにも思います。「ニーズが増えるはずだ」といった、根拠のない見通しを、さも高い確度で到来すると強調して、青写真を作ることは、こと法曹人口に関しては通用しない、繰り返すべきではない、と考えるのは、およそ理解できる話です。

     4月13日に開かれた「法曹の養成に関するフォーラム」第12回会議の席上で、委員から、そうしたことに関する意見が出さています。

      「10年前の司法制度改革審議会の際の議論として、様々な分野でこれから司法、法曹への需要が高まることが見込まれるという前提で、様々な議論がされました」「ここは単純に需要の高まりが見込まれるということでは、10年前の議論をそのまま書いているということでありまして、需要の高まりが見込まれるということであったけれども、その後の、今申し上げた推移や状況や取組、課題、問題、こういうものをきちっと検証して、その上で、これらの方策を検討するという,こういう認識で論点立てをするべきではないか」(丸島俊介委員・弁護士)
      「この需要の高まりが見込まれる企業への活動領域の拡大という視点で見ますと、10年前に現在のこの制度をつくったときも、これからますます知財の問題とか競争法、独禁法の問題とか、あるいは行政との対峙の問題とか、あるいは国際的な関係での領域の拡大が相当企業の中でも見込まれてくるだろうと、こんなことが随分議論されていたのであります。しかしながら、この分野について、現実にそれではどの程度の法曹資格者がその領域で必要とされているのかという量を管理するのが非常に難しいわけですけれども、例えて言えば、20年後のこの姿を想定したときに、それはそういう領域で活躍する企業内の弁護士も含めて、弁護士さんというのは何百人の単位なのか、1000人を超える単位なのか、およそ大体どのくらいのことが想定されているかということについて、もう少し検証していく必要があるのではないのか」(萩原敏孝委員・小松製作所特別顧問)

     萩原委員は、現実問題として、程度として毎年そういう領域に何百人もの弁護士を注入するほど仕事があるのかは疑問であり、さらにこれから人口が減る日本社会でどのくらいの法曹が必要か、という視点も重要と指摘しています。

     これに対して、司法制度改革審議会の委員でもあった井上正仁委員・東京大学大学院法学政治学研究科教授が、こう述べています。

      「これまでの実績あるいは現状がどうだということのみで測るのは適切でなく、日進月歩で発展している分野ですので、将来を見据えた予測を入れる必要がある。しかし、それはなかなか難しいのですね。そのように、育てていくという視点が非常に大事であり、育っていけば、また扱う業務の範囲が広がっていく。実は眠っている、あるいは放置されている分野がたくさんあるかもしれないのですが、そこに陽を当てていき、そこで本当は法的な対応が必要だということがあれば、やはりそこに法的サービスを提供するようにしていくべきで、そのように広がりの可能性が多分にありますので、検証といってもそう容易なことではない。ただ、検証をきちっとするということは大事で、見通しを持った上で議論しないといけないことは確かです」

     驚いたことに、井上委員は、依然として「眠れる大鉱脈」の存在を挙げて、「鉱夫」を増やしさえすれば、「鉱脈」に突き当たる、ということを強弁しています。しかも、「放置されている分野はたくさんあるかもしれない」と、やはり確度は疑わしいにもかかわらず、「検証」については何とも歯切れの悪い言い方です。さらに、同委員は、こうも言っています。

      「司法制度改革審議会が数値目標を立てたのは、司法試験合格者を増やすべきだというだけでは恐らく変わらないだろうという認識があったことによります。というのは、御存じのように,それまでも法曹人口の問題、あるいは司法試験合格者数については議論されてきていたのですけれども、残念ながら、ほとんど法曹三者の間だけの話であったということもあって、結局何も変わらなかったのですね」
      「3000人という数字に合理性があったかどうかは別として、ともかく数値目標が立てられたことが、状況を大きく変える動力になったことは間違いない」

      「3000人」方針が改革を牽引するとした、当時、審議会で出された意見と見通しの正しさ(「『合格3000人』に突き進ませたもの」)、さらに、それが出された背景として、それまで人口増に踏み切れなかった法曹界側の責任を挙げています。しかし、「合理性があったか」は別にはできない話のはずです。

     先日も、大新聞の元論説委員の方が、「需要に合せて舵をきってしまっていいのか」、つまりは「鉱脈」の確かさを度外視して、まず「鉱夫」の必要性をいう論を掲げていましたが(「日弁連『法曹人口政策提言』への反応」)、この考え方に立てば、この期に及んでも、当然、激増政策の旗を振り続けるべきということになります。井上委員の主張は、法科大学院と「改革」路線を守ろうとする執念に近いものすら感じます。

     井上委員の発言は、やはり、先日の国会での佐藤幸治・元司法制度改革審議会会長の発言と全く同じ印象を持ってしまいます(「『改革』設計者の止まった発想」)。そして、はっきりしてくるのは、そうした論者たちによる、「改革」の「失敗」という認識に立たない見直し論議では、同じ轍を踏む危険性は十分にある、ということです。


    ただいま、「法曹の養成に関するフォーラム」「検察審の強制起訴制度」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

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    No title

    はあ?

    逃げているのはあなたのほうですが? あなた、大丈夫ですか? それに、あなたの批判は、私が書き込みに対する批判とはいえない (内容が合致していない) と思いますよ?

    そもそも、あなたには、私と話をする意思がないでしょう? 話をする意思があれば、(自称) 「皮肉」を書いたりはなさらないはずですよね。もっとも、あなたの「皮肉」は、トンチンカンな内容でしたが。。。

    あなたが私と話をする意思がないのなら、私に返事を書くのをやめるべきだと思いますよ。

    けれども、もしあなたが私と話したいのなら、その旨おっしゃっていただければ、私のブログにエントリを用意しますので、そちらにコメントを書き込んでいただけますか? 河野さんのブログで延々と書き続けるべき内容だとは思いません。

    No title

    また答えから逃げちゃった。

    ・自分の考えと全く違う政策を、政府が現実に実行し続けているのに
    それには全く批判しないと。
    しかしなぜか業界関係者の単なる意見表明だけには、しつこく噛みつくと。

    この理由の説明から、またまた逃げてる。三回目。
    逃げてるくせに、「民間人じゃなくて関係者~」と、話そらしだけはすると。

    No title

    (1) 私の考え方を前提とすれば、批判すべきは、政府と、こちらのブログ(のような主張をされている方々)でしょう。つまり増員論(の一部)と増員反対論(の一部)が批判対象になると思います。


    (2) 私は別にかみついてはいません。私は、たんに疑問を提起しただけですよ。

     そもそも、「民間人の単なる意見表明」であれば、「かみつく」ほどの価値はないはずですよね?

     もっとも、私は、こちらのブログを、「民間人の単なる意見表明」だとは思っておりません。「元『法律新聞』編集長」だと名乗って書いておられますから、「民間人の単なる意見表明」というよりは、「業界関係者の意見表明」だと捉えるのが、より適切だと思います。


    (3) あなたの目的はブログ主を「かばう」ことでしょうか? どうもあなたは、「論点をずらそうとしている」ように思われてなりません。

     あなたの言い方を借りれば、こちらのブログ主は、理由をこじつけて増員に「反対したがる」と言えると思います。

    No title

    memo26さん
    あなたの考え方(「合格者数策定に需要を考慮すべきでない」)であれば、批判すべきは政府ですよ。
    これまでずーーーっと、需要を建前として合格者数を決めてきたのですから。
    もちろんこの数年間の合格者大増員も含めて。

    さらに、レベルに関係なく、「ローにお金を上納していない」という理由だけで
    合格者枠を1500人から50人にまで減らしているのですよ。

    政府がこれまでずーーーっと、レベル以外の要素を重視し、現実に大増員と大減員を実行し続けてきたのに、
    あなたはそれに関しては、全く批判しない。

    それでいてなぜか、民間人による「需要がないから大増員を続けるべきではない」という、単なる意見表明に関してだけは
    「レベルに達しているかで判断すべきだ!」と主張したがる。
    私が指摘した、「ローにお金払えない奴大減員」という事実も、なぜか完全に無視を続ける。

    このあまりの不自然さは、あなたの本音は違うところにあるとしか、解釈できません。

    民間人の単なる意見表明 「需要がないのだから大増員を続けるべきではない」
    に対してかみつくあなたが、
    政府が現実に実行した政策 「ローに金払えない奴はどれだけ高いレベルに達していようが50人しか合格させない」 には
    一言も批判しない理由は?

    No title

     mome48さんこんにちは。

     私への皮肉を書かれた、とおっしゃっておられますが、あなたの書き込みは、私に対する皮肉にはなっていませんよ? 私としては、痛くも痒くもないですね。

     なぜなら、私は、「需要の有無にかかわらず、一定のレベルに達していれば、全員合格させるのが本来のありかた」だと言っているにすぎないからです。

     私は、「一定のレベルに達していない場合でも合格させるべきだ」などと主張していませんよ?

     私が言っているのは、需要の有無は、増員の是非を考えるうえで重要な問題ではない、ということです。

    No title

    申し訳有りません。確かに私の誤読です。
    memo26氏とmome48氏は別人で、後者は前者を批判しているんですね。
    紛らわしいペンネーム使わないで下さいよ。

    893-510さん

    誤読されていると思います。
    memo26氏への皮肉で書いたからわかりにくいかもしれませんが。

    私(mome48)は、「ロー強制主義を、批判」・「旧司法試験の縮小廃止を、批判」 の立場です。

    No title

    ロー強制主義を批判する人に、旧司法試験の縮小・廃止を批判している人なんて、いくらでも見つかりますよ。あなたがちゃんと探してないだけだ。
    「ロー強制主義」と「非ロー法曹否定」が、完全すぎるほど同一の意味であることぐらい、少し考えたらわかるでしょ。

    あと、「需要がないから増員するな」論は、養成にかかる費用、特に税金からの持ち出しを問題視しているのがわからないのでしょうか? 火災も地震もほとんど起こらない、石造りの低層建築ばかりの国で、消防士や「民間消防員」を際限なく税金つぎ込んで養成しろという馬鹿がいますか? 体力検査や基礎的な知識検査さえ一定水準を超えていたら、みんな「消防員」と認めて際限なく養成しなきゃいけないんですか?

    No title

    司法試験が資格試験である以上、需要の有無にかかわらず、一定のレベルに達していないのであれば、全員不合格にさせるのが本来のありかたであるはずです。
    需要があるはずだから大増員すべきだ、といった主張は、おかしいのではないかと思います。

    ましてや、「需要があるはず」というのが真っ赤な嘘であれば、大増員させるのはますますおかしいのではないかと思います。

    さらに、ローにお金払えない人の合格者枠は大減員すべきだという主張は、とってもおかしいのではないかと思います。

    そして「需要がないからといって減らすのはおかしい」論者のみなさんが、ローにお金払えない合格者枠を30分の1減らしたことに対しては、なぜか絶対に批判をしないのは、無茶苦茶おかしいと思います。

    No title

     そもそも、需要の有無は、そんなに重要な問題でしょうか?

     司法試験が資格試験である以上、需要の有無にかかわらず、一定のレベルに達していれば、全員合格させるのが本来のありかたであるはずです。とすれば、需要の有無は、増員数 (または合格者数) を決定するうえでの、参考資料にはなりうるとは思いますが、決定的に重要な要素にはならないのではないでしょうか?

     需要がなければ増員すべきではない、といった主張は、おかしいのではないかと思います。

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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