「日本型法曹一元」という歴史

      「都電にテクシーで 研修所通い 記録に重たい古鞄 出さなきゃよかった判決起案 これが苦労の初めでしょうか」
      「お酒をあきらめ起案の夜は 開いて涙の判例集 隣も泣いてる分厚い記録 実務の苦労が 身に染みるのよ…」

     神楽坂はん子の1952年のヒット曲「ゲイシャ・ワルツ」の節回しで、司法修習生が前記歌詞でうたう「修習生ワルツ」というのがあった、と、修習10期で元裁判官の大石忠生弁護士が、東京弁護士会の機関誌に寄稿した一文の中で回想しています(「LIBRA 」2012年 5月号「わたしの修習時代」)。 

     大石弁護士は、この中で、当時の司法修習について、そのムードの一端を伝えています。彼が修習生だった1956年(昭和31年)当時、司法研修所は、東京都文京区紀尾井町3にあり、1971年4月に同区湯島に移転するまでの、23年間、その地が法曹の卵たちの研鑽の場でした。文京区指ヶ谷町に司法研修所小石川分室(指ヶ谷寮)があり、東京一極化も途上だった当時は、10期生約240人の半数くらいが、この寮に入っていたのではないか、と大石弁護士は書いています。白山二丁目から都電等を使って四谷に出て、紀尾井町へ。これが、前記「修習生ワルツ」歌い出しの舞台です。

     第二次大戦の軍役や、シベリア抑留の経験者もいたという当時の修習生たち。「誰もが敗戦後の日本社会の変動を、少年期、青年期において何らかの形で体験していた」彼らと、戦後10 年を経てようやく教育体制として軌道に乗り出したころの司法修習。「司法研修所の教官により欧米の法曹養成制度が精力的に紹介された時期」「各科の教官方の講義内容は、教官個々の実務体験に基づくかなり個性的なものであった」と、大石弁護士は回想しますが、そこからはまだ、戦後新司法の息吹といったものも伝わってきます。

     この中で、彼はある一つのキーワードを提示しています。

      「日本型法曹一元の揺籃時代」。

     彼が、この一文に付したサブタイトルです。このころが「日本型法曹一元」の幼年期・発展初期だったというのです。この「日本型法曹一元」というのは、要するに司法研修所による統一修習を指しています。弁護士の経験者から裁判官を採用するという、弁護士会悲願の「法曹一元」からすれば、統一修習はあくまで一里塚で、その引き換えではなく、「日本型」とつくことで「事足れり」とするのは、そもそもが異論もあるところだと思います。そこには、大石弁護士が、元裁判官である事実とつながるものもあるかもしれません。

     しかし、この一文をこう締めくくっています。

      「判、検、弁が同根で、法の支配と社会正義という共通理念を持つ日本型法曹一元は、われわれの修習時代を含め、戦後間もなくから70 年に渉る年月をかけて培われたと思う」

     つまり、そこには法曹の「共通理念」構築に向けて、既に積み上げられてきた実績とともに、培われてきた法曹養成の歴史がある、ということです。ただ一方で、彼は直接的に言及していませんが、その形が今、「改革」を引き金に成り立たせる環境からも、法曹の意識からも崩れ出す方向に向かっているととれる現実があります。

     それは例えば、法曹人口増員政策や法科大学院制度が壊し始めている一定の規模のなかで教官と修習生の関係で作られてきた司法修習、あるいはそうしたものへの意識。渉外弁護士志望者から出始めている修習無用論や、「給費制」論議で見られた懇親などを通した人的関係構築機会の軽視もしくは成り立たせなくさせる方向――。それらは統一修習を支えてきた前提や環境が失われていく兆候のように読みとれます(「法曹養成の『暗黙の前提』」 「失われつつある修養の機会と時間」)。

     法曹としての共通基盤を作っていきた、統一修習70年の歴史は、弁護士会が目指した「法曹一元」の一里塚ではなかったかもしれないが、やはりこの国の司法にとって意味があったのではないか――。大石弁護士の一文のサブタイトルには、やはり「修習生ワルツ」を共に口ずさんだという、「同期の桜」的ノスタルジーだけではない、そんな投げかけの意味が込められているように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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