「強制起訴」に対する「朝日」の立場

      「小沢氏事件 証拠こそ裁判のすべて」。5月16日付け朝日新聞は「オピニオン面」の「記者有論」に、西松建設事件、「陸山会」土地取引事件と裁判を取材してきた朝日新聞特別報道部の久木良太記者による一文を、こんなタイトルで掲載しています。

     久木記者は、このなかで、土地取引事件での元秘書逮捕は、今も疑問であるとして、小沢一郎・民主党元代表本人との共謀を示す証拠は少なく、元秘書の在宅起訴で決着させる判断をしていれば、検察への信頼失墜は避けられたのではないか。また、強制起訴の先に小沢・元代表無罪も、検察の不起訴段階である程度、予想できた――としています。ただ、ここで注目したのは、前記タイトルにつながる次の下りです。

      「『民意』による起訴であっても、刑事裁判は証拠がすべてであり、無罪という結果は尊重すべきだ。道義的・政治的な責任は国会の場やメディアを追及すれば足り、刑事責任と混同してはならない」

     まさに正論であり、当然の指摘だと思います。それをなぜ、ここで注目したのかをあえていえば、それはこの主張を、「朝日」紙面上で見ることへの違和感による、というべきかもしれません。それは、「刑事裁判は証拠がすべて」であっても、「『民意』による起訴」は尊重されるべきとして、「疑わしきは裁判へ」の姿勢に立って、刑事責任と道義的責任の追及を混同しているともとれる強制起訴を温かい目で見守ったのは、ほかならない「朝日」のように思えるからです。

     強制起訴翌日、2011年2月1日の「朝日」社説――。「有罪が確実に見込まれるものだけを起訴する運用により有罪率99%という刑事司法を作り上げた」が、それは一定の評価を得る一方、裁判の形骸化をもたらし、検察の独善体質を生む素地になった。強制起訴はこれに風穴を開け、起訴・不起訴が一般の感覚と正義感に沿うか「問い直す機会を市民が初めて得た」。指定弁護士の言い分が否定される可能性はあるし、訴追される側の負担にも配慮される必要はあるが、「国民が抱いた疑問をうやむやにせず、法廷という公の場で議論し、裁判所の判断を求める。その意義は、日本の政治や司法制度を考えるうえで決して小さくない」。

      「朝日」は、今回の強制起訴の危うさを十分に理解しながら、一生懸命に制度を傷つけまい、としているようにとれます。小沢氏無罪判決翌日の4月27日の社説では、法と証拠に基づいて判断する刑事責任と、政治家として負うべき責任は違うとして、無罪になっても政治責任が残っていることを強調し、供述調書が不当な取り調べで証拠採用されなかった検察側に批判の矛先を向けています。そして、このなかでも「検察審査会が求めたのは、検察官の不起訴処分で終わらせずに、法廷で白黒つけることだった」とし、小沢氏の政治責任を「逃れる口実に裁判が使われるようなら、検察官役の指定弁護士は控訴にこだわる必要はない」「気になるのは小沢氏周辺から強制起訴制度の見直しを求める声が上がっていること」として、今回の強制起訴とこの制度への批判的論点から読者の目を遠ざけようとしているようにとれます。

     もちろん、「朝日」が「こだわるな」といった指定弁護士の控訴がなされた翌日、5月10日の報道でも、逆転が困難であることは指摘しながら、今回の件で強制起訴の結論が持ち越されることへの論評はなく、控訴に対する見解を示す社説も掲げられませんでした。

     一記者の見解と、「朝日」本紙の見解に微妙なづれがあっても不思議なことではありません。実は、前記小沢氏起訴後の2月1日の「朝日」紙面の1面には、久木記者の解説記事が掲載され、それはこんな一文で締めくくられていました。

      「検察が『暴走』した郵政不正事件と違い、今回は検察が『自制』した事件だ。無罪が出れば、検察の判断をチェックする審査会制度のあり方も問われる」

     無罪後に、久木記者の指摘したような視点を「朝日」紙面に見つけることができないのは、やはり前記「づれ」ということで説明してしまえばいいのかもしれません。ただ、ここにきてあえて、「朝日」が久木記者の見解を「オピニオン面」で取り上げたとみれば、そこに微妙な論調調整の意図を込めたとみることもできなくありません。

     弁護士の増員について、「私たちも無理な増員を進める必要はないと唱えてきた」と、しれっと書いてみせる「朝日」だけに(2月26日付け社説「日弁連会長選 利益団体でいいのか」。「『朝日』が見ようとしない『改革』の現実」) 、そこはよく観察する必要があります。


    ただいま、「検察審の強制起訴制度」「今回の日弁連会長選挙」についてもご意見募集中!
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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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