弁護士会「公的活動」に対する意識の裂け目

     高い弁護士会会費への会員の不満の矛先が、日弁連・弁護士会が担ってきた公益活動に向かおうとしています(「弁護士会『会費』の無理」)。組織と目的で重層的に会員にのしかる負担額は、弁護士会によって異なり、最高で年間117万円、最低で49万円という、もはや会費のレベルではない、といわれる額に及んでいます(「『会費』イメージを超越した弁護士会費」)。

     弁護士会費が通常の業者団体の会費に比べて、ずばぬけて高額である理由は、一般的には公的な領域をカバーしているからとされてきました。つまり、本来公的な費用が投入されてしかるべきである公的活動を個々の弁護士の持ち出しで支えている、ということであり、会員弁護士の認識としても会費の多くが、そういう性格であることを自覚し、形式的には「合意」しているとされてきました。

     ところが、弁護士の経済的な環境の変化に伴い、この会費と公益活動に対する会員弁護士の目線が大きく変わってきました。批判的な立場は、大きく分ければ、2種類です。一つは形式的な「合意」そのものに疑問を持つ立場。強制加入団体であればこそ、個人として納得がいない日弁連の「公的」な活動支出に対し、会費が徴収される形の不当性を指摘するものです。現状を前提とする以上、強制加入・自治の不要論につながることが考えられ、これまでの「人権擁護」という使命の領域で日弁連・弁護士会活動への会員理解を束ねてきたことが、通じなくなってきている人々ということもできます。

     そして、もう一つは、基本的な活動への理解は示しながらも、現実に即した縮小を求めるものです。これは、実は以前から会内に根強くあります。「弁護士会のヒット商品」といわれた当番弁護士の登場以来、弁護士会は会員の負担を回す形で、身の丈にあった活動をしていないのではないか、という疑問の声が徐々に強まってきた観があります。なぜか、弁護士会は「やれる範囲でやる」という発想に立っていない、というものです。そこに、社会的な要請を強く受け止めている使命感を読み取る人もいますが、ある種の理念・意義先行体質をみる人もいます。

     結果として、会活動の事業仕分けをすべき、という意見が出されていますが(「『会費』と弁護士会の事業仕分け」)、現実的な会員負担を考えて「やれる範囲でやる」発想への転換を求めるものとみることもできます。

     さて、前日弁連会長の宇都宮健児氏が、昨年、東京弁護士会の機関誌に、この問題に関連した一文を寄稿していました(「LIBRA 」2011年 8月号「弁護士会が行う社会貢献活動について」)。宇都宮氏は、そのなかで、日弁連の法律援助金額の大きさは、アジア各国の弁護士会会長に驚かれるなど、日本の弁護士会の社会貢献活動は、世界でも誇れるとする見方を示したうえで、日弁連・弁護士会がそうした活動を行う根拠について言及しています。

      「弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護士法人の指導、連絡及び監督に関する事務を行う」

     弁護士法31 条1 項の弁護士会の目的規定です。同45 条2 項の日弁連の目的規定にもほぼ同文の内容(同条では「全国の弁護士会に対する指導」「連絡及び監督に関する事項」)が規定されています。宇都宮氏は、この規定について大きく二つの考え方が対立するとされていることを紹介しています(日本弁護士連合会調査室編著「条解弁護士法(第4 版)」)。

     一つは、規定を限定的に解釈し、弁護士法1条に定める基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命は、あくまで個々の弁護士・弁護士法人の使命であって、日弁連や弁護士会は、それをサポートするものであるとする見方。もう一つは、前記使命は個々の弁護士・弁護士法人の職務活動のみでは達成困難であり、日弁連・弁護士会は個々の弁護士・弁護士法人の職務に必要な助言を与えるとともに、より困難・重要な問題については、日弁連や弁護士会が独自に積極的な活動をなし得るものとする見方、があると。彼は言います。

      「思うに前者の考え方は、表現に素直ではあるものの、弁護士法1 条の目的の実現、日弁連や弁護士会の現実の諸活動の必要性を顧みないものというべきである。従って、後者の考え方に立って、日弁連の目的を解釈するのが相当であるといえる。また、日弁連や全国の弁護士会のこれまでの活動の実績を考えれば、当然に後者の考え方となるものと考える」
      「弁護士自治は、ひいては国民から付託されたものであるといえる。したがって、弁護士・弁護士会は、監督官庁は持たないが、市民・国民の目線が弁護士・弁護士会を監督する役割を果たしているといえる。そして市民・国民の信頼を獲得してこそ、弁護士自治は維持され強固になっていくものと考える」
      「市民・国民の信頼を獲得し弁護士自治を守るためにも、さまざまな社会貢献活動は、弁護士会が積極的に取り組むべき活動といえる。今後、日弁連や弁護士会の社会貢献活動は益々拡大し、活発になっていくものと思われるし、またそうしなければならないと思う」

     ここで宇都宮氏が後者の積極活動論に立つ根拠として示しているのは、一つは日弁連・弁護士会のこれまでの活動実績、もう一つは弁護士自治護持、つまりは社会貢献活動によって市民・国民の信頼を得ることが弁護士自治護持につながるということのようです。

     しかし、冒頭に挙げた会内の二つの批判的立場は、まさに前記目的規定の後者の解釈から前者の解釈を求めるものと、後者の立場に立ちながら「より困難・重要な問題」という点において取捨・縮小を求めるものですが、いずれについても宇都宮氏の根拠が、どれほどの説得力があるのかは、残念ながら疑問です。過去の活動実績が将来への無理への理解につながるとは必ずしもいえず、弁護士自治護持そのものを絶対的に必要とみない立場に立てば、前提も成り立たないからです。

     つまり、これは宇都宮氏が掲げるような、伝統的な理念が、冒頭書いたような経済的な環境変化がもたらした会員意識の変化に効果をなさないことをうかがわせます。会費という問題は、その意識の裂け目の入口にあるといってもいいと思います。逆に言えば、伝統的な理念を弁護士の事情ではなく、本当に社会的な要請として見直すならば、裂け目の入口をまずはなんとしてでも修復する必要があります。


     ただいま、「弁護士会の会費」「今回の日弁連会長選挙」「検察審の強制起訴制度」についてもご意見募集中!
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    ありがとうごさいました

    黒猫さま、コメントありがとうございます。

    基本的にご指摘の通りかと思います。
    そうした声が長く弁護士会内にあることも承知しております。
    会費の問題以前の、人数ということであれば宿命的ともいえる構造的な問題でありながら、現実的には小単位会の負担という問題はずっと存在してきたと思います。ここにきて会費負担への不満が、公的活動への疑問となってきているという視点で、今回は書き進めてしまいましたが、言及すべきだったかもしれません。軽視しているつもりはありませんので、ご理解賜われればと思います。
    貴重なご指摘、ありがとうございました。今後ともよろしくお願い申し上げます。

    会務活動も負担

     弁護士は会費負担も重いですが,特に地方の弁護士会だと,会務活動の負担も馬鹿になりません。
     東京三会などでは会員数も多いためあまり問題になりませんが,地方の単位会だと少人数で会務活動を維持する必要があるため,国選弁護人や当番弁護士といったお金にならない公益的な仕事が義務的に回ってくる,もっとお金にならない委員会活動なども1人で5~6箇所くらい掛け持ちさせられるのは当たり前という世界です。弁護士業界には「多重債務者」になぞらえて「多重会務者」という言葉も使われることがあります。
     弁護士会の活動に関する会員の負担を論じるのであれば,このような会費以外の人的負担も軽視すべきではないと思います。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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