変化した「人権派」という称号

     あなたとって、「人権派」という言葉は、良いイメージですか、悪いイメージですか。個人の受け止め方は、もちろんさまざまですが、おそらくネットなどで調査すれば、現在の日本では、おそらく悪い方に大きく傾いた結果が出ると思います。

     「人権派弁護士」という言い方をよく耳にされると思いますが、弁護士に限らず、政治家、学者、市民活動家などにも使われる、人権擁護を標榜する(標榜しているとされる)人びとをさす言葉です。かっちりした定義がある言葉ではありません。人権尊重の立場での発言・活動している人に他者がつける「称号」の場合が大半です。

     そして、この「称号」は、いまやこの社会では、尊称であると同時に蔑称なのです。
     
     「人権派」という言葉の扱いは、大きく変化しました。私が記者を始めた30年前は、少なくとも「人権派弁護士」という言い方は、尊称でした。弁護士の中でも、自らを「人権派」と名乗る人がいましたが、ある意味、尊称であるがゆえに、自称しないような感じもあったと思います。

     弁護士法の一条には、弁護士の使命が、基本的人権の擁護と社会正義の実現であることが規定されています。だから、考え方によっては、弁護士である以上、全員が「人権派」であるともいえなくありません。それだけに、弁護士会のなかで、特に人権に重きを置いた活動をする「人権派」が本道のようなポジションであったのは、当然といえば当然の話です。

     かつて弁護士会の中では、「人権派」に対して、「ブル弁」(ブルジョア弁護士)といった言い方もされました。この定義もはっきりしませんが、ビジネスローヤーとされる方々を含めた、おカネ儲けをされて羽ぶりの良い弁護士の、こちらは蔑称といっていいでしょう。

     そのブル弁は、かつて「人権派」に比べて、圧倒的に弁護士会内でマイナーな存在でした。以前、どちらかというと、その「ブル弁」の代表格のように見られている企業弁護士と話をしましたが、彼は「当時は、およそ弁護士会館の中を歩くときも、まるで石をぶつけられるんじゃないかというムードでした」と語っていました。そのくらい、肩身が狭かったというのです。

     そのムードが変わりました。「人権派」が弁護士会内で本道というイメージでなくなり、肩身の狭かった「ブル弁」とされた方々が台頭し、企業・渉外弁護士が弁護士の花形のように扱われるようにもなりました。

     その背景には、55年体制の崩壊とともに、弁護士会内の人権派を占めていた、いわゆる革新系の弁護士の発言力が低下したことや、司法改革の路線をめぐり「人権派」が分裂したことなどを指摘する人がいます。

     また、この点に関して、安田好弘弁護士は鼎談のなかで、人権派弁護士の瓦解が、中坊公平・元日弁連会長の住宅金融債権管理機構(住管)社長就任を契機にした、人権派の同機構への流出、さらに警察・行政と一体となって取り締まり側に回った反オウム側の弁護士の存在などと繋がっていた事実を指摘しています(「検察国家日本を斬る」)。

     司法改革でもいわれた「オールジャパン」という体制の中で、「人権派弁護士」の立ち位置が、ぼやけてしまった感じもあります。権力との位置取りは、ある意味、「人権派」という称号の生命線だったのかもしれません。

     そうした流れと、まさに軌を一にして、「人権派」一般に対する社会的な評価にも異変が生じた感があります。凶悪事件の被告人や在日外国人への弁護無用論ともいえるような批判的論調とともに、「人権派」のスタンスが偏重しているというような見方が、インターネットなどを通じて、広く流布されることになりました。

     もちろんこの中には、度々書いているように、刑事弁護士、人権派弁護士という仕事の宿命ともいうべきものもあります。人権を擁護しようとするものは、時にその被害者と同様の人権侵害を覚悟しなければならない、という人もいます。人権派弁護士は、およそ社会的な孤立は覚悟のうえです。

     だだ、今起きていることは、不気味な社会的風潮です。「人権派」がたたかれる状況は、そもそもこの社会の少数者への目線が変わってきたことを意味しかねないからです。それは、かつては、それこそ社会の中で少数派であった排除の論理が、本格的に台頭する前兆のようにもとれます。

     「人権派」が蔑称として語られる先に、どんな社会が待っているのか。やはり、ここは冷静に考えてみる必要があります。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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