法科大学院導入を支えた「欠陥」批判

     10年くらい前に書いた記事を読み返しながら、当時、こんなことをよく尋ねられたことを思い出しました。

      「司法研修所というのは、そんなにダメなのか」

     法曹界外の人間の口から、こんな言葉が出されていたという事実は、あることを物語っています。それは、当時、国民の目には突如として現れた観もあった法科大学院制度の導入理由が、いかに司法修習を含めたそれまでの法曹養成制度への批判的見方を伴って、大衆に伝わっていたか、ということです。

     例えば、司法制度改革審議会の最終意見書がいうような大学の法学教育と法理実務の乖離、予備校依存、司法試験という「点」ではなく、法科大学院を中核とする「プロセス」としてとらえるべきとの説明。さらに、法学と他の学問に関する十分な教育をするには、前後期6ヵ月の修習期間は短すぎ、教授陣の中核は裁判官で知的多様性がなく、法廷実務以外の教育は手薄であるという司法研修所の知的限界をいう説明。当時、マスコミの報道を通じて、大衆が目にしていた新法曹養成肯定論=現行制度否定論でした。

     当然、こんな反応もありました。

      「何でそんな制度ならば続けてきたのか。今の法曹も欠陥品か」

     事実、欠陥養成課程で育てられた日本の法曹の質には、問題がある、ということを堂々と言う大学関係者の声を聞きました。彼らの言い分のなかには、前記疑問に関していえば、実は、本来受けられる多様なサービスを受けられていないことを市民が知らない(気がつかない)ため、結果として制度がえんえんと存続してきたのだ、というものもありました。あたかも欠陥品に市民はならされているだけであり、新法曹養成で輩出される法曹によって、市民は本来得られるはずの多様なサービスを享受できるようになる、というように聞こえます。

     現に、その後も、法科大学院の研究家教員のなかには、旧司法試験下に誕生した法曹の質を「欠陥品」のごとく批判する人がいた、という話はよく耳にしました。

     もちろん、新法曹養成に協力する姿勢をとった最高裁・司法研修所が、そんなことは、微塵も認めるわけがありません。彼らが、あくまで法科大学院を受け入れたのは、法曹の大量増員決定に伴う、司法研修所の限界であり、法曹教育の役割分担化でした。当時の彼らへの取材で、必ず聞かれたのは、無用論台頭への脅威の裏返しのような、現行司法修習の意義・実績の強調でした。

     点からプロセスといっても、点と司法修習が残ったことを考えれば、プロセスとしての司法修習の改革であってはいけないとの説明はしにくようにも思いますが、今、思えば、不思議なくらい、その方向転換は、あっさりと行われた感がありました。長年の法曹養成をめぐる議論、大前提として打ち上げられてきた統一試験・統一修習の理念、司法試験「丙案」導入是非論議等は、急きょ具体化してきた法科大学院構想の前に、ほとんど意味性を失い、論議そのものが仕切り直すことを余儀なくされた割にはという意味で。

      「法曹大量増員と大学改革の要請が結び付いた結果」

     これが、多くの法曹関係者が受けとめた仕方がない方向転換の割り切り方でした。当時、それでも各大学に設置される法科大学院と、そこから生まれる法曹の質のハラツキという問題は、法曹界サイドから提示され、その一つの対応策として、司法審も一形態として言及していた、複数の大学が連合して設置する「連合大学院」構想が取りざたされたこともあるにはありました。

     各高裁管内8ブロックごとに1~3の大学院を複数の大学で設置し、各ブロック弁護士会(弁護士会連合会)がこれに協力。これによって、学校間レベル格差は縮まり、既に課題となっていた教員確保にも道が開ける。補助金と引き換えの政府の大学自治介入への不安も減退する――。しかし、この構想は、既に当時から、メインの議論にはならないだろうという見方ができました。法科大学院構想を大学運営のメリットとして注目している関係者の方々にとって、これでは妙味のない形になってしまうからです。

     結果、10年後、いまや法科大学院構想の破綻が言われ出しています。いまでも法科大学院を死守したい関係者の方々は、旧司法試験下の法曹を「欠陥品」と言いたげにもみえますが、少なくとも今の法科大学院が前記したような「多様なサービス」を市民に実感させるような法曹を、未来に向けて多数輩出させる状況にはない、むしろ、この制度そのものが、かつてより志望者を遠ざけることが懸念されているのが現実です。いまや大学関係者からは、とりあえず合格させろ、法曹の質は競争と淘汰で担保しろ、という声まで聞こえます。「欠陥品」を輩出しない責任感も目的意識もそこには感じられません。

     そうだとすれば、法科大学院制度導入への有利な地平を切り開いてみせた、当時の現行法曹養成への過剰ともいえるネガティブキャンペーンも、結局は彼らの思惑を隠すための目くらましだったのではないか、と思えてしまいます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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