「内輪もめ」批判報道の「効果」

     投票、再投票、そして再選挙を経て、ようやく決着した今回の日弁連会長選ですが、もちろん多くの弁護士も、こうなることが望ましいと思っているわけではありません。2度も選挙をやって決まらず、再選挙に至った時から、これが延々と続く「無限ループ」化を懸念する声が聞かれました。その懸念のなかには、決め切れない制度や日弁連の社会的なイメージを気にするものもありましたが、むしろ決め切れないまでの分裂的な会内世論状況の深刻さが改めて浮き彫りになったことで、日弁連や弁護士の将来そのものを不安視するものが見られました。

     今回、もし再選挙でも決まらなかった場合、次の再投票までの間か、もしくは再投票を経た次の再選挙までの間に、なんらかの打開策の提案が、模索されることになったのではないか、とも思います。ただ、臨時総会を招集して、急きょ制度をいじくるような方向や、あるいは可能かどうかは別に、仮に両候補間での政策協定的なものでの「無限ループ」回避が行われたとしても、それがこの対立を生み出している原因の根本的な解決につながったのかどうかは、疑わしいとはいえ、結果は今となっては分かりません。

     ただ、それでも、あるいはそれだけにというべきかもしれませんが、5月6日付け読売新聞・社説「日弁連会長選 実のある司法改革に取り組め」の論調には、違和感を持ちます。

      「内輪の対立にエネルギーを費やしている時ではあるまい。日弁連が今、最も力を注がねばならないのは、東日本大震災の被災者支援である」

     二重ローンや遺産相続、解雇された会社との折衝など、被災者には問題山積。福島第一原発での被災者と東電の賠償交渉は進んでいない。要するに、こんなことをやっている時間があったら、被災地へ行け、という風です。ただ、これは読者の賛同を促すための入口に過ぎません。やはりタイトル通り、読売が結び付けたいのは「改革」の話です。

     法曹人口の大幅増は、司法制度改革の主眼だったのに、選挙では両候補とも、司法試験合格者数を1500人にまでの減員を訴え、法曹人口の急増が、新人弁護士の就職難を招くといった懸念から当選した山岸氏も、「さらなる減員も検討されるべき」とも主張している。こんな「身内の利益保護を最優先にする日弁連のこうした姿勢は、理解を得られまい」と――。

     ここは再投票を前に、ライバル朝日新聞が掲載した社説「日弁連会長選 利益団体でいいのか」と変わりません。両候補「1500人」を引き合いに出した「内向き」批判。「改革」路線そのものの失敗は、疑いもしない、よって読者の疑問を喚起しない、というところは、二大新聞が全く同じスタンスです(「『朝日』が見ようとしない『改革』の現実」)。

     しかし、今回の読売の社説は、さらにそれにとどまりません。

      「最多得票とともに、全国に52ある弁護士会の3分の1以上で首位を占めねばならないという二重の当選要件が混乱の要因となった。将来、同様の事態を繰り返さないために、選出方法を再検討してはどうか」

     読売はこれをどういうつもりで提案しているのか、と思ってしまいます。確かに再投票・再選挙にもつれ込んだのは、この当選条件が存在したからです。ただ、この要件は、今回のような「状況」にこそ、必要とされ、設置されていたということができます。3分の1の弁護士会でも最多の支持を集められない候補は、総得票で最多でも、日弁連の会長には不適格である、という大前提です。もちろん、もし、これを外せば、現実問題として都市部の大弁護士会の会員意思で代表が選出されることになります。それ自体が強制加入の弁護士会の会員で構成され、その意思が反映されるべき日弁連のあり方として望ましくない、という趣旨を、この条件から読み取ることをできます。その意味では、今回、その条件を満たさない最多票獲得者の当選への、ストッパーとして、この3分の1会条件が、はっきりと機能したということもできます。

     読売は、そのことの意味を全く見ようとしていません。社説の冒頭、日弁連の会長は、東京や大阪の主流派閥の候補が順繰りに務め、無派閥の宇都宮健児が2年前慣例を破った、と形ばかり紹介していますが、宇都宮氏が慣例を破れたのは、前回第1回選挙でこの条件のストッパーが働いたからです。結局、「当選要件が混乱の要因」と結論づける文脈からすれば、読売としては、主流派閥順繰りでいいじゃないか、と言っているようにもとれてしまいます。「改革」を引き合いに出しての会内民主主義のあり方への口出しが、非常に無責任に行われている印象を持ちます。

     そして、最も読売が罪深いと思えるのは、この一連の日弁連会長選挙を「身内の利益保護」を最優先にした者同士の内輪もめ的なものとして描くことで、「改革」路線が国民にもたらすものに、大きくかかわってくることになる、弁護士会内の対立の意味自体を、ことさらに大衆に伝えない、ということです。逆に言えば、それによって、また「改革」の失敗に目を向けさせず、この「路線」の正当性を刷り込もうとしているとしか思えません。

      「企業や自治体に弁護士の雇用を働きかけるなど、日弁連が先頭に立って、弁護士の職域を拡大させていくことが肝要だ」

     読売は、あたかも「身内の利益保護」や選挙よりも、今、弁護士がやるべきこととして、こんなことを言っています。いまや、珍しくもなくなったマスコミの「ニーズ掘り起こし」論です。ただ、書き方によれば、これが「改革」の描き方として、奇妙なものであることが、実は読者にはすぐに分かるはずです。何で企業や自治体が求めていないのに、弁護士が働きかけて、無理にでも職を作るよう働きかけさせなければいけない状況なのか、逆に言えば、なぜ、企業・自治体は弁護士の「受け皿」を用意しなければいけなくなっているのか――。

     今回の読売のような大マスコミの論調が、一方で、弁護士の中に薄らとした「国民に通用しない」論を広げかねず、「改革」推進派ほど、それをまた、お決まりのように、声高に言うことにもなりかねませんが、現実は描き方の問題であり、そのことは実は国民自身も分かってきていると思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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