司法書士にとっての弁護士激増

     司法書士は、弁護士激増になぜもっと反対しないのか――。以前から、この素朴な疑問を司法書士に投げかけてきました。いうまでもなく、その理由は、「隣接」といわれる弁護士外法律関連士業のなかで、司法書士は、ある意味、この「改革」で弁護士増員政策の影響を最も受ける立場にあり、当然、それを自覚しているはずと思えたからです。

     そして、そもそも司法制度改革審議会のこの増員政策の議論そのものが、司法書士を含む「隣接」総体を、この国の法的ニーズの受け皿とみたうえで、弁護士の増員の必要性や規模を導き出したのではないこともまた、はっきりしているからです。

     この国の各士業の活用を十分に考えたうえでも、果たして年間3000人の司法試験に合格させ、2018年に実働法曹人口5万人などという激増の目標があったのかという疑問。もちろん、各士業の活用を十分前提としないということが、あくまで「弁護士万能主義」に立ったものだとすれば、「隣接」側からすれば、士業そのものの縮小方向や、資格そのものの無用論の台頭まで考えられ、そこに危機感を持っても当然です。

     弁護士の増員そのものが、弁護士のみが携わるべき領域の十分な需要調査に基づくものでなければ、当然、弁護士はこれまで他の士業に依存していた領域、現実問題として手を出していなかった、見向きもしなかった領域に「進出」するのは当然で、有り体にいえば、食いあぶれた弁護士が「何でもできるはずだから、何でもやる」という形で乗り出してくれば、「隣接」側は当然圧迫されることにもなります。そこは「競争」として処理されるかもしれませんが、「隣接」側からすれば、厳しい闘いは予想できます。「いずれ登記まで本格的にやる若手弁護士が登場するのではないか」。司法書士のなかには、こんな声までないわけではありません。

     ただ、冒頭の投げかけに対し、司法書士から歯切れのいい回答が返ってきた記憶もありません。その理由は、大きく分けて二つではないかと思えます。一つは、そんなこと言ってもしようがない、という、この「改革」路線に対する受けとめ方。もう一つは、簡裁代理権付与という「改革」の実を得ていること。つまり、一方で「改革」路線は、司法書士の職域拡大への可能性を示してくれているというとらえ方があるように思えます。

     3月19日に行われた「法曹の養成に関するフォーラム」第11回会議で、細田長司・日本司法書士会連合会会長へのヒアリングが行われています。このなかで、細田会長は、「改革」路線に反対ではなく、司法審の「質、量ともに豊かな法曹を養成するという理念」には現在も賛成であるとしたうえで、次のように述べています。

      「司法制度改革審議会の意見書においては、一定の意味内容が提示されておりましたけれども、弁護士が増加しても司法過疎解消の特効薬にはなり得ていないことや、新人弁護士の就職口がない、生計が成り立たない等の現象、更には質が低下したとの法曹内部での評価等により、その意味内容が不明確なものとなってきているのではないでしょうか」
      「特に、弁護士の質については、我が国に存在する他の法律専門家、ここではあえて法律家群と呼ばせていただきますけれども、その存在も考慮しつつ、弁護士は,医療事件,渉外事件あるいは大企業間の事件等、特に複雑、困難な事件に対応できる専門的で豊かな法律知識を有する法律家とすることも一つの考え方であろうと思います」
      「その上で、市民に身近な法的問題については、司法書士の機能を十分に発揮させることにより解決できる状況を作りだすことができるならばその役割分担は客観的に明確なものとなると考えます。その結果、量の問題もおのずから目標値が明確になると考える次第であります」

     彼はここで、増員政策が当初の描いたようにはうまくいっていないことに触れつつ、弁護士・司法書士の棲み分けという「可能性」に目を向けさせようとしています。彼はその後も簡裁代理後の連携など役割分担を強調しますが、改善要求について、発言が遠慮気味ととられたのか、委員から「少し謙抑的御意見」と具体的な提案をうながされ、対ADRなど書類作成業務の拡大、家事事件代理、簡裁代理権範囲拡大などを挙げています。

     しかし、ここで、「改革」路線において司法審意見書が示した、ある決定的な方針を思い出さなければなりません。

      「弁護士と隣接法律専門職種との関係については、弁護士人口の大幅な増加と諸般の弁護士改革が現実化する将来において、各隣接法律専門職種の制度の趣旨や意義、及び利用者の利便とその権利保護の要請等を踏まえ、法的サービスの担い手の在り方を改めて総合的に検討する必要がある」
      「しかしながら、国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性にかんがみ、利用者の視点から、当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要がある」

     司法審意見書が盛り込んだ「隣接」についての、この微妙な表現については、以前も取り上げました(「弁護士と『隣接』の微妙な関係」)。来るべき弁護士大増員時代での、隣接との関係の仕切り直し。「可能性」に委員の目を向けさせようとしている細田会長の頭に、この意見書の下りがあったとすれば、大増員政策の想定外の現実とともに、「法的サービスの担い手」として、プラス方向、もしくは「法的需要」の「充足」のために変わらぬ司法書士の存在意義を強調したかったのではないかと思えます。

     ただ、法曹界、とりわけ弁護士界での、前記意見書の下りの解釈は、およそそうではありません。「当面」という表現に重きを置く、つまりは「隣接」活用を増員への過渡的な措置と見るものです。増員推進派の弁護士から、これを大前提とする言い方を何度か耳にしました。ある意味、この一文は一義的な弁護士活用論であり、いわば、前記したような「万能主義」に立つ弁護士が大幅に増えた社会で、それでも「隣接」が必要とされているかどうかを見極めることを宣言しているととれ、またそうとられているというべきです。

     だとすれば、やはり少なくとも、この「改革」路線のうえで、弁護士大増員政策が貫徹される限り、本当の意味での「隣接」活用の可能性も、また、それを踏まえたうえでの、弁護士の適正規模も、果たして議論される余地があるのか、そこも疑わなければならなくなるのです。


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    私も気になってたので、知り合いの司法書士に尋ねてみたところ
    登記業務も訴訟同様数が急激に減少し、司法書士も当然に飽和状態。
    弁護士の肩書きだけで若手が乱入してくるといっても、数を抱えてる銀行等の
    既得権益が簡単にとれるものではなく、それだけの営業力があるなら訴訟
    やった方が儲かるし、将来性もあるんじゃない?とのことでした。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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