残されたままの「給費制」論議

     司法修習生の給費制というものが、仮にこのまま復活することなく、時が過ぎたこの国の未来では、かつてあったこの制度と、それを維持するために展開された最期の闘いを、弁護士・会は、どのように語り継いでいるのだろうか――。給費制問題にスポットを当てた、ダイヤモンド・オンラインが特集連載「弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年」の第7回を読みながら、そんなことが頭を過りました。

      「『カネ持ちしか弁護士になれない』VS『将来稼ぐから税金で養う必要は無い』」

      維持派と廃止派の攻防を紹介する前記特集の中の記事には、こんな小見出しが振られていました。しかし、維持すべきとして闘ってきた弁護士のなかには、この括り方を見て、思い出したくもないと感じる方もいるかと思います。なぜならば、弁護士側からすれば、この対立図式は、日弁連側の戦術的失敗を思い出させるものともとれるからです。

      「法曹の養成に関するフォーラム」での議論を見れば、日弁連が掲げた「カネ持ちしか」論に対し、廃止派側は待っていましたとばかり、「将来稼ぐ」というデータをもって、貸与制でも「やれる」という一点で、これを叩き潰した観があります。もちろん、このデータにも弁護士の経済的な現実を正確に反映したものなのかには疑問もありましたし、「カネ持ちしか」論も経済的な条件ということにとどまらず、法曹全体の質や階層的な傾向の問題をはらんではいたのですが(「『おカネ持ちしか』論と『多様な人材確保』」) 、本来の給費制の理念的な意義を前面に押し出せなかったために、まんまと経済問題中心に引き込まれ、結局「やれるかやれないか」で廃止方向が決まってしまった、という話です。日弁連は、主戦場を誤ったのではないか、と(「給費制『フォーラム』の戦況と戦術」)。

     しかし、経済誌を発行する会社の情報サイトの特集でありながら、記者がここでスポットを当てているのは、前記効を奏した廃止派側が展開した「経済的」意味での貸与制の可能性=給費制の不必要性ではありません。

      「もし給費制が延長されずに貸与制であったなら、福島には行けなかったと思います。行きたくても、行けなかったでしょう。妻も反対していたに違いない」

      記者は、福島へ定期的に足を運び、被災者のために、持ち出しで活動を続ける弁護士の声に耳を傾けます。給費制によって司法修習の1年間を過ごすことができ、法科大学院の奨学金に加えて、司法修習のための資金を借金しなくてよかったからこそ、福島での弁護士活動ができている現実です。

      「奨学金と貸与金によって、弁護士になるまでに1000万円近い借金を負うことになる。それに、弁護士は就職難で、稼げるようになるかも分からない。人並みの生活さえ送れないのではないか」。司法試験に合格しても、司法修習に行かず、一般企業に就職する者の出現に、「優秀な人が弁護士にならなくなる、カネ持ちしか弁護士になれないというのは本当」--。

     新65期のこうした絶望的な声と、前記被災者救済弁護士の姿の先に見えてくるのは、弁護士が貸与制で「やれるかやれないか」ではなく、「やれたとしても」、あるいは「やっていくために」変質を余儀なくされ、結果、この社会から消えてしまう弱者のために使命感を持って闘う弁護士の存在です。

     給費制下で、その使命感を支えてきたものを記者は「義理」と表現しています。税金によって育てられたという事実がつないできた公共的使命感です。その関係性の糸が、ぷっつりと切れることによって、前記借金を返さなければいけないと現実的な事情とともに、意識においても、公共的使命感から遠い弁護士が登場するのは、もはや火を見るよりも明らかです。

      「『貸与制でやれるかどうか』ではなく『弁護士の一分』を議論すべき」

     この記事の結論として、ここにたどりついています。今こそ、「弁護士とは社会でどのような役割を担う人間なのか」ということを明らかにするべきだ、と。これこそが、この給費制をめぐる議論が最も踏まえるべき、かつ残念ながら結果として、欠落してしまった視点だと思えます。

     給費制が消えた未来の弁護士たちは、かつて同業者たちが存続を訴えた闘いを、本当は「市民のため」だったと語り継ぎ、会史にそう記すのでしょうか。それとも、その時には、もはや公共的使命感も、「弁護士の一分」も関係ない弁護士たちが、給費制はかつてこの国に存在した特権的制度として、その批判に抗せなかった歴史が語られているのでしょうか。


    ただいま、「給費制廃止問題」「今、必要とされる弁護士」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

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    No title

    >また、弁護士についてのみ、何故に参入規制的な法曹人口問題が語られるのか?他の職業では聞かない議論。

    公認会計士は就職難により直ちに大幅減です。

    歯科医師も減らす方向に動いています。当たり前です。
    http://www.47news.jp/CN/200611/CN2006112101000741.html

    医学部の定員もコントロールされており,医師不足だから増やそうという議論はあっても,自由競争だから増やしてもいいなどというのは論外であり,そのようなことを言っている人はいないでしょう。
    http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=51886

    >費用の問題があれば、価格規制や司法援助を手厚くすれば良いだけ。

    国の支出を大幅に増やしてもいいということですか。それとも健康保険料のように法律保険料を強制徴収ですか。

    No title

    給費制というと、必ず弁護士の公共的使命の話が出る。
    それはそうなのかもしれませんが、であれば公共的使命「感」に対しての給費ではなく、公共的使命「の履行」に対しての給費であれば、国民の納得感が得られるのではないかと思う。

    また、弁護士についてのみ、何故に参入規制的な法曹人口問題が語られるのか?他の職業では聞かない議論。
    確かに弁護士は国民の権利義務にかかわる重要な職業だが、それよりも直接的に生命にかかわる医師については、参入規制はない。
    金持ちしか弁護されない自体を防ぐのであれば、医師の受診拒否禁止と同じく、受託拒否を禁じれば良いだけ。
    費用の問題があれば、価格規制や司法援助を手厚くすれば良いだけ。

    腕の良い医者が金持ちから稼ぐのと同じく、腕の良い弁護士は金持ちから稼ぐ。
    腕の悪い医者が貧乏人からしか稼げないのと同じく、腕の悪い弁護士は貧乏人から稼ぐ。
    医者が最低限の腕の保障されているのと同じく、弁護士も司法修習で最低限の腕を保障されている。

    直接的に命を預ける医者以上に、弁護士が厚遇される論理的説明が必要であると思う。そして、そのような論は存在しないのではないかと思う。

    騒動の終わりに当たり

    司法制度改革の中で給費制が貸与制に移行することが決まるまでの議論の中で、そもそもの理念的な問題・意義論は決着済みであったところ、日弁連は貧困問題が好きな宇都宮会長になってから「現在の弁護士の経済的困窮は改革当時想定していなかったものであり、こうした新たな事情を踏まえ、きちんと弁護士の経済的状況を調査した上で改めて当否を決めるべきだ」と主張し始めました。これをふまえて、例のフォーラムの所得収入調査が日弁連の要求に従って行われ、各界を代表するフォーラム委員が貸与制導入をやめるような新たな事情があるかどうかを判断したわけです。

    ・その際、別に日弁連が「経済問題中心に引き込まれ」たわけでも、実態を反映しない恣意的な所得収入調査が行われたわけでも、初めから結論ありきで各界から反給費制の人物が委員に集められたわけでもありません。司法修習生に対する修習資金の給費制などという、世間的に超マイナーなテーマへの委員全員の賛否など、事前に分かるものとも思えません(笑)そもそもあの読売新聞出身の委員が給費制維持に一番同情的でしたよね(笑)

    ・日弁連執行部を含めた、一連の経緯を本当にご存知の方は全て分かっているはずです。単に、弁護士会等がいくら訴えても誰の共感も得られなかったのです。各党の国会議員も、逆らうと弁護士会やビギナーズなどが押しかけてきてうざいので、あれこれと時間稼ぎをしていただけだったのではと今では思えます。

    ・なお、ダイヤモンドオンラインの当該記事の主な取材先は、福島にて持ち出して活動する城北の弁護士=ビギナーズ事務局次長に限られており、あとはフォーラムの議事録をみただけという、長い記事を書くならありえないレベルの、取材深度の浅い代物です。これでは給費制を支持する弁護士や弁護士に気持ちが一体化している者しか共感できないように思います。

    ・被災地の法律相談等の費用は、交通費を含め、相当程度、法テラスから費用受給が可能な制度となっているわけですが、給費制の恩や日頃の高給に支えられたボランティア精神に頼るよりこうしたところに直裁に税金が使われるほうが正しい税金の使い方というものでしょう。公務員準拠の手当支給では高給取りの弁護士には機会費用という点で「持ち出し」という認識かもしれませんが(笑)。

    ・それにしても、合格者の経済的困窮・借金が問題であれば法科大学院をなくすのが一番ですし、なにより弁護士会だけでできる弁護士会費の減免こそ真っ先に取り組める課題です。それを誰も選挙公約に掲げもしないのは不思議なことです。本当は若者の経済的困窮のことなんて気にかけていないか、困窮など実際にはたいしたことがないとお思いなのではと疑いたくなりますね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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