「国民の司法参加」の不都合な真実

     2000年9月12日。この日はわが国の「国民の司法参加」を語るうえで、重要な発言がなされた日です。場所は第30回司法制度改革審議会で行われた法曹三者に対するヒアリングでの席上で、発言者は最高裁総務局長。そして、その内容を一口に言えば、「国民の司法参加」に対する明確な消極論・懸念論でした。

     この時はまだ、裁判員制度という案は、この国に登場しておらず、彼が見解を示したのは、陪審制と参審制でした。

     「陪参審制度はすぐれて政治的な制度。特に陪審制は、さまざまな理由から、各国で次第に縮小される傾向にあり、現在、世界の刑事陪審事件の約8割はアメリカ一国で行われている」
     「陪審の判断が不確定で予測可能性に乏しく、高い比率で誤判が生じていることを裏付ける多くの研究結果がある」
     「陪審制は裁判によって真相を解明するという構造を基本的に持っていない」
     「司法に対する国民の関心を高める半面、事実解明という司法の機能を大きく後退させる」
     「憲法上の問題を考慮すると、参審制は意見表明はできるけれども、評決を持たないものとするのが無難」

     この世界の議論の経緯を知らない一般市民の方には、いまや先頭で裁判員制度の旗振りをしている最高裁の、この見解が、おそらく信じ難いでしょう。

     最高裁の方針転換は、どう考えるべきなのでしょうか。あくまで変型参審制度とされる裁判員制度登場での事情変更で説明がつくのでしょうか。それとも、前記発言後に、国民の判断というものに対する、最高裁の大いなる「理解」の進展があった、ということでしょうか。

     私は、裁判員制度に関する、この最高裁の変化に憤る元裁判官や元検察官の声を沢山聞いてきました。彼らが憤る理由は、端的に言って、あの日の会合で最高裁が示した「国民の司法参加」への懸念は、裁判員制度についても、根本的に変わらないとみているからです。

     つまり、本来譲れないはずの問題性を認識したままで、最高裁が制度推進に回っている、という理解です。

     この点について、やや違う分析をする人がいます。弁護士の高山俊吉さんは、著書「裁判員制度はいらない」で、次のような謎解きをしています。

     「素人裁判官に訴訟参加だけでなく、評決権まで与えてよいと言い出したのは、素人に事実認定能力があることを思い出したからでも、ようやく気づいたからでもない。素人に評決権を与えても結論を変えない(変えさせない)ことは可能と判断するようになったからだ」

     そして、結論が変わらないのに、裁判のやり方を変える本当の目的は、判決批判を「皆さんの結論」とかわし、「お国の要人の苦労を自らの苦労に置き換えて、国を理解し国を支える意識を育てる」ためだと。

     もちろん、そうであれば、制度推進派である大マスコミは、全面的にこれに協力していることになります。なぜなら、こうしたことは国民に全く伝えられていないからです。

     いずれにしても、これは、この国の「国民の司法参加」にとって、不都合な真実です。裁判員制度という、この国に降って湧いた強制制度が今、作られなければならない理由について、本当は依然理解しかねている国民の前に、フェアに判断材料が伝えられる日は、いつかくるのでしょうか。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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