弁護士による反「『改革』史観」の狼煙~花伝社刊「司法改革の失敗」

     弁護士会や関係者主催の講演会に講師として招かれ、司法改革についてお話しする機会がありますが、事前の打ち合わせなどでよく主催者の弁護士から言われるのは、若い会員のなかに、「改革」の歴史を全く知らない人がいまや沢山いる、という話です。「釈迦に説法」になるのをこちらが気にしていると思って、あえて言って頂けている感じもありますが、これは現実のようです。

     1990年の日弁連の司法改革宣言から既に20年以上、さらに司法制度改革審議会の最終意見書からも10年が経過しています。当たり前といえば、当たり前です。ただ、その若手弁護士にとっても、「改革」は過去のことではありません。それどころか、今、まさにこの「改革」が何であったかが問われ、この路線の帰趨が自らの弁護士人生にかかわって来るのはもちろん、この国の司法と市民の未来にかかわってくることを実感しているはずだからです。

     なぜ、今、「改革」は行き詰っているのか――。このテーマに向き合うためには、もはや「歴史」になっている「改革」を検証し、一体、どこでどのような議論によって、その路線が決定されたのか、はたまた何が検証されず、具体的に何を見落としてはいけなかったのかを探る作業が必要であることはいうまでもありません。

     しかし、1990年以来、「改革」に主体的立場で臨むことを標榜し、司法審以降も、その路線の上を「市民のため」という旗を振り続けながら、走ってきた日弁連・弁護士会の主導層は、既に「改革」に対し、独自の「史観」を形成しています。つまりは、前記した姿勢からの目線で、「改革」に日弁連がいかに主体的・主導的な立場で臨んできたか、さらにそれによって「市民のため」の「改革」の実がいかに得られたか、その成果を強調するものです。

     問題は、日弁連発行の会史や、「改革」主導派の弁護士による多くの「改革」関連の書籍・史料が、そうした「史観」に貫かれているということです。そして、そのことは「改革」の歴史を知らない若い会員にとって、また、「改革」推進派である大マスコミの論調に接している大衆にとっても、今、求められる検証に、必ずしもフェアな環境が用意されていない不幸を意味します。

     この度、花伝社から刊行された「司法改革の失敗――弁護士過剰の弊害と法科大学院の破綻」は、まさにそうした「改革」史観の呪縛から解き放たれたような趣の一冊です。

     筆者は、弁護士の鈴木秀幸、武本夕香子、鈴木博之、打田正俊、松浦武各氏。弁護士大増員政策を中心に、内部の反対運動が何を訴えてきたのかを伝えながら、「改革」史観が浮き彫りにしていない論議の実相を豊富なデータとともに伝え、また既定路線のなかで描かれていた需要論や、需要の実態、さらに法曹養成について、現実を直視する視点から問題提起しています。それは、「改革」史観で築かれたイメージをガラガラと崩れさせるものであり、まさに弁護士による「改革」路線批判の「決定版」といっていいものです。

     弁護士もわれわれ市民も、この「改革」の惨状を前に、司法審路線とともに、日弁連が描いた「改革」のあり方そのものを問い直すことは避けられないところにきています。その意味で、この本が広く読まれることを期待しています。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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