「支障ない」と評価された合格3000人未達成

     総務省が4月20日に発表した、法曹人口の拡大・法曹養成の改革の効果検証に基づく政策評価と勧告が話題となっています。この発表が司法制度改革審議会の掲げた司法試験合格者年3000人方針の息の根を、いよいよ止めることにつながるととらえた方も少なくないと思います。少なくとも法曹人口問題については、法曹関係者・一般国民の意識調査も踏まえ、現状を直視している内容です。

     政策評価書は359ページにも及ぶ大部で、多方面から切り込んでいます。法曹人口拡大についての結論は以下のように記述されています。

      「法曹人口の増員ペース(年間合格者数)に関しては、当初の議論において、具体的なデータ分析による需要動向の将来予測に基づき目標が出されていたわけではなく、3000人合格目標については、合格率の低下傾向からみても、近い将来の達成は見込み難い。一方、弁護士の活動領域の拡大、弁護士関与事件数等の増加などの需要拡大はあるものの量的に小さく、3000人が合格していないことによる大きな支障は認められてない」
      「今後、需要が拡大する可能性も否定されるものではないが、現状では2000人規模の増員ペース(年間合格者数)を吸収する需要は顕在化しておらず、現在の需要規模と増員ペースの下、弁護士の供給過多となり、新人弁護士の就職難や即独、ノキ弁が発生・増加し、OJT不足による質の低下などの課題が指摘される状況となっている」

     この内容に尽きるのではないでしょうか。結局、現実に起きていることを拾っていけば、当然といえば当然のところにたどりついているような印象を持ちます。これまでも書いてきましたが、当初の議論で具体的なデータ分析による需要動向の将来予測に基づいていなかった。その結果、予想は外れ、弁護士の需要の拡大の見込みはあっても、それほど大きなものにはなりそうもない。むしろ、需要がついてこない供給過多で、弁護士を変質させる状況を生んでしっている――。そのまんまの話です。

     なかでも非常に意味を持つと思われるのは、「3000人」の未達成が、国民にとって、この社会にとって「大きな支障」になっていないというとらえ方です。司法審が、今後、国民生活の様々な場面で法曹に対する需要がますます多様化・高度化すると予想するなかで、「質と量を大幅に拡充することが不可欠」として、そこから算定されたはずの数の達成は、この社会にとって「不可欠」ではなかったということになります。これまでの増員が偏在解消などに一定の役割を果たしていたとしても、既に司法審の予想したほど需要が拡大していないことによる、負の部分がはっきりしてきたことを重くみれば、もはや「3000人」に固執する意味はない、ということになります。

     調査結果では国民の自由記載で、「3000人という数字にこだわりそれを達成することよりも、法曹の質の維持・向上の方が重要である」とする意見が242件だったのに対し、「合格者を目標通り増やすべき」とする意見は13件だったことも記されています。もはや「国民のため」「市民のため」というだけでは、この方針を維持できないのは明らかです。

     奇妙な気持ちにさせられます。これだけはっきりした現実があっても、制度設計者は、今でも3000人方針の正しさを国会で強弁していますし(「『改革』設計者の止まった発想」) 、需要があるから増やせといっていたはずが、需要にあっていなくても開拓要員として増やすべきといった大新聞関係者の声もあります(「日弁連『法曹人口政策提言』への反応」)。大新聞の社説は、日弁連の増員ペースダウン論を、「内向き」となじっています(「『朝日』が見ようとしない『改革』の現実」)。やはり、「改革」の根本的な失敗をどうしても認めようとしない、意図的なものを見てしまいます。

     そして、もう一つ奇妙なことを挙げると、それは、ここまで法曹人口について現実を直視し、司法試験合格者の年間数値目標の見直しを勧告したこの発表で、法科大学院については存続を前提に、既に指摘されてきたような改善策を列挙しているだけで、焦点の受験要件化撤廃などに踏み込んでいないことです。これもまた、ここでは意図的に示されていない影響が勘案されたのではないかと読めてしまうのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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