遅すぎた「受け皿」へのヒアリング

     あくまで感覚的に予想したことが外れても、本来は誰も不思議だとは思いません。所詮、感覚で決めたことで、詳細な裏付けをとって、実現可能性や必要性を導きたしたものとはいえないと見るからです。

     その意味では、今回の「改革」の弁護士激増政策の結果は、本来は何も不思議ではない、というとらえ方になってもおかしくないように思います。「改革」のキャッチフレーズの一つであり、増員の根拠ともされた「二割司法」という描き方が感覚的なものだったということを、いまや多くの弁護士たちが口にし、また実感しています。そして、期待されている増員弁護士の「受け皿」のキャパシティを、この「改革」が詳細に検討したうえではじめたものではないことも、多くの人が知っています。

     だから、今、起きていることは、何も不思議ではない。すべきなのは「反省」と仕切り直しだけであることもまた、はっきりしています。むしろ、不思議なのは、外れたことではありません。なぜ、あの時、詳細な検討がなされず、国家レベルの方針決定がなされたのかということ、またなぜ、多くの弁護士が最終的に、その検証なき路線を是としたのか、それを止めることができなかったか、そして、今なお、「反省」と仕切り直しに舵を切ることに躊躇する方々がいるのか、ということの方だと思えるのです。

      「経済・金融の国際化の進展や人権、環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処、知的財産権、医療過誤、労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加、『法の支配』を全国あまねく実現する前提となる弁護士人口の地域的偏在の是正(いわゆる「ゼロ・ワン地域」の解消)の必要性、社会経済や国民意識の変化を背景とする『国民の社会生活上の医師』としての法曹の役割の増大など、枚挙に暇がない」

     司法制度改革審議会意見書が描いた量的に増大し、質的にますます多様化、高度化する法曹、具体的には弁護士の需要に関する将来予想。これに向けた対策として、2010年ころに司法試験合格者年3000人、2018年ころ実働法曹人口5万人といった大規模な増加策があったことを今、考えれば、やはりなぜ、という気持ちになります。

     挙げられているそれぞれの分野で、数の必要性を感じていた人は、いたとは思います。ただ、その必要とされる規模は、やはり感覚的だったというべきです。かつ、この大増員の実現可能性、現実的に支えきれるかどうかについては、懐疑的ではありながらも、時勢とみる諦念や、勢いをもった「改革」ムード、「べき」論に背中を押され、実現への願望を伴って、賛成に回った多くの会員もいたことは事実です。いまとなれば、「3000人はちょっと無理だと思っていた」ということを口にする弁護士は少なくありません。

     3月13日に行われた「法曹の養成に関するフォーラム」第10回会議でのヒアリングで、ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長兼CEOの石黒不二代氏が、今、弁護士の「受け皿」として注目される企業内弁護士のニーズについて、率直にこう語っています。

      「結論から申しますと、私どものような上場企業で300名程度の従業員数の企業が現在弁護士さんを採用するニーズはありません。弁護士の市場もかなり競争的にならなくてはいけないと思っておりますので、現状ではニーズがないが、むしろニーズをつくり出してほしいと考えます。つまり、使いたいと思う人を育成をしていただけることが、今後、私どものようなIT系、新興企業に対してもいいことかなと考えます」

     彼がいう現実は、上場会社は規定改定で弁護士のニーズはなく、人事部、総務部の人間で足りる。実務経験の長い監査役とか内部監査をやっていた方の意見を入れながら対応している。監査役も労働市場では余っている。大企業に勤めていて法律関係をよく分かっているとか海外関係が分かっている人間が監査役になるケースが多い。法律関係に限って弁護士を社内の弁護士として採用する必要性は余りない。独立した法務部はなく、法務関係だけやってもらうより、人事や総務関係の仕事の経験があって、更に兼務をしてもらうならば採用に関して合理性はあるが、実業の経験がない人は非常に厳しい。外国企業との契約も弁護士資格を持っていない法務関係経験者が社内の人事、総務も兼務しながら対応をしてうまくいっている。訴訟については常に人を置くというニーズ一般的にはない――など。

     こういう「受け皿」側の意向を、増員の旗を振った方々は、果たして事前に分かっていたのでしょうか。ニーズは現状ない、作り出さないと採用はされないという話を、当初、弁護士から聞いた覚えがありません。少なくとも、企業側の要求しているものは増やせばなんとかなる、というものではありません。百歩譲って、企業関係者が弁護士の競争状態を作ることで、より利を得られることを想定していたとしても、それをどのくらいの弁護士が正面から認識し、「改革」に突っ込んでいったのかは疑いたくなります。もちろん、実情をよく分かっていた方々もいるはずです。彼らについては、なぜ、黙って旗を振ったのか、という問題になります。

     増員の「受け皿」とされた側から、いや、そちらの考えているような「受け皿」にはなれない、こちらが必要としているものは別にある、といった声が聞かれる現実。「受け皿」の本音を聞くヒアリングがなぜ、今でなければならなかったのか――。感覚的な必要論に支えられた激増政策に突き進んだ「反省」と仕切り直しには、どうしても避けて通れないテーマのように思えます。


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    No title

    2001年頃だったと思いますが「2割司法」を盛んに唱えておられたN坊元弁護士が弁護士向けに行った講演を聴いたことがありますが、会場から増員論及び増員数について質問が出たのに対して、「増員数の根拠は私の勘。私の勘はよくあたるんだと」「私の声は国民の声だ」とすごんでおられたことを鮮明に記憶しています。やま勘で突っ走った弁護士増員が壁にぶちあたったのは仕方ないと思います。

    No title

    ダイヤモンドが法曹関係の特集を組んでいる。

    私は以前、ダイヤモンドや東洋経済の年間購読をしていたが、大学関係の広告は相当な分量があった。

    大学から多額の広告料を受け取る民間メディアが、原発の時と同様、また大学関係者と同様、法科大学院や弁護士増員の失敗について、中立で客観的な意見を述べる立場にないことには、充分、留意すべきだろう。

    インハウスローイヤーの増加は、法律事務所への就職難と表裏一体であって、ダイヤモンドの特集記事が言わんとするような積極的な意味合いは、実体としては非常に乏しいと感じる。

    No title

    そもそも,弁護士を「雇う」必要があるのかな? 弁護士だけに限らず今は工場すら外注しちゃう時代ですぞ! 
    安い給料で雇うより,いざとなったときに専門性のある弁護士を外注した方がお得でしょうな

    そうかなあ。

    企業にしてみれば、「使えない弁護士(特にOJTされてない新人)なんかに、年1000万どころか500万出すのも惜しい。それなら新卒雇って育てるか、法務経験ある人を中途採用した方がいい。」というのが本音じゃないのかねぇ。

    逆に、優秀な弁護士には客が集まるから、企業が年1000万出すから来てほしいと言っても来てくれんだろう。

    この傾向は、弁護士の競争が激しくなればなるほど強くなるだろうね。

    No title

    前提条件が違いますね。
    小さい企業で弁護士のニーズがないのは、高いから。
    「弁護士を雇いたくない」のではなく、費用対効果で「雇うほどではない」から。

    弁護士が競争原理で安価になれば、十分にニーズは出てきます。
    年収で1,000万円以上を求めるのであれば、残念ながらこれ以上のニーズは増えることはありますまい。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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