苦しい法科大学院ガイド

     朝日新聞のニュースサイト、朝日デジタルの「社会人のための大学院ガイド」で法科大学院を取り上げている記事があります。

      「司法試験不合格のリスクは伴うが、確実なキャリアチェンジを可能にする法科大学院」

     このタイトルを見ただけでも、この内容の苦しい感じが分かるといってもいいかもしれません。「リスクは伴うが、確実なキャリアチェンジ」とは、普通に読めば、奇妙な気分になる文章です。司法試験に合格しなければ、法曹にはなれないのに、不合格のリスクを認めながら、確実なキャリアチェンジがなぜできるのか。受からなければ、とりあえず法曹への夢はパー。頂いた「法務博士」の肩書でも、今のところ確実な受け入れ先があるとはいえない状況を考えると、かなり危うい表現です。

      「修了後に司法試験に合格すれば法曹界への道が開かれ、裁判官、検察官、そして弁護士に転身できるため、社会人にとっては確実なキャリアチェンジが可能な大学院といえよう」
      「弁護士になれば高収入も期待できるのだが、その一方で修了後に受験する司法試験に最終的に不合格となれば、再就職でリスクが伴う。また、新人弁護士の就職難も問題となっており、必ずしも合格すればバラ色とは限らなくなってきた。社会人はそのリスクとリターンを十分に理解してから挑戦していただきたい」

     要するに、確実な話は、合格から先、法曹三者のどれかになれるということのようです。そのあとに書かれていることは、確実でないから注意しなければならない話の羅列です。不確実であるのに、前提条件や「可能な」といった逃げ道を作り、確実になった先の妙味を際立出せる、あやしい商法にもみられる手法のように読めます。結局、「リスクとリターンを十分理解してから」というのもまた、とってつけた「ご利用は計画的に」の口です。

      「外れれば大損するリスクを伴うが、当たれば確実におカネ持ちになることを可能にするギャンブル」

     いわば、こういう使い方。実は、当たり前のことを言っているだけのような気持ちになってきます。

     その後も、リスクの話は続きます。法科大学院の学費や生活費という経済的負担、司法修習後の就職難、弁護士増加による収入減、法科大学院間の司法試験合格率格差、新人弁護士就職難を理由にした日弁連の合格減員への路線変更、受験回数制限、司法試験合格率の低下。最終的に不合格となれば、未修者コースで3年、受験で3年なら6年間のブランクに。さらには法務博士の企業評価は未定。6年間のブランクは再就職する際にやはりハンデになる。だからこその社会人の敬遠傾向――。

     現実を直視しているところは、評価できますが、問題はそこから先です。

      「あくまでも司法試験の合格が前提だが、リターンも決して少なくはない。 まず、裁判官や検察官という法曹系国家公務員に転職できる。最近は司法修習を終えた人の1割弱となっており、成績が良くなければ無理だが、勉強を頑張れば不可能でない。検察官になれれば、退職後に弁護士になって独立開業するルートもある」
      「弁護士にしても、優秀な成績であれば、法廷ではなく企業法務を専門とする大手ローファームに就職でき、当初から高収入も期待できるはずだ。法科大学院への入学も、実は社会人や他学部出身者を一定割合受け入れることが大学院の努力義務となっており、社会人入学者が激減した今なら逆にチャンスといってもいいのではないだろうか。合格者数で上位の法科大学院は入学倍率も必然的に高くなるが、社会人なら一般学生よりも可能性は高い」
      「法科大学院の教育も大切だが、不合格なら人生に大きく影響するので、専門の受験指導スクールを利用するなど、とにかく合格を目指してほしい」

     これはちょっとひどい。「なれなくない」ことを魅力として強調する手法。これも、高級車やヨットにのっている「成功者」を載せている、なんとか商法のパンフを思い出します。もちろん、リスクも提示しているし、可能性は嘘ではない、という抗弁になりそうですが、それもなんとか商法の方々が言いそうなことです。結果、予備校を利用しても受かってほしい、とは。

     それにしても、この一文は一体何を狙っているものなのでしょうか。この記事と、「改革」路線の熱狂的信奉者であることで、法曹界ではおなじみの「朝日」本紙の論調とは、どういう関係にあるのか分かりません。しかし、直視せざるを得ないリスクを細かく伝えつつ、無理を承知としかとれない魅力を強調して、帳尻を合わせた、苦しいこの記事を見ると、「朝日」はやはり「改革」の大失敗も、それでもメリットを語る胡散臭さも、分かってやっているな、と思ってしまうのです。


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    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事





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    ありがとうございました

    重次直樹先生、いつもありがとうござます。

    裁判員制度でもいわれますが、巨大メディアの論調と広告収入の関係には、「不都合な真実」が存在することをうかがわせます。

    また、先生のフログ、いつも大変興味深く拝見しております。
    府下2年目の即独事務所に1年目の軒弁2人という現実に対し、「仮に、わすか数か月の臨床研修以外、臨床実務経験のないまま開業した医者の元に、同じく軒を借りた医師が2名いた場合、あなたはその医師の治療を受けるだろうか」「専門家である弁護士を選択し、その能力を見極めることは、専門知識のない一般市民の『自己責任』になるのだろうか?・・・競争と淘汰だけで質が維持され良い結果が出るのなら、そもそも資格など、不要のはず」というご指摘は、まさにその通りだと思います。また、これほど大衆に分かりやすい話を正面から取り上げて伝えない大マスコミ論調の問題性も感じます。

    今後ともよろしくお願いします。

    広告主としての大学

    記事をブログに引用させて頂きました。
    http://ameblo.jp/osaka-bengoshi/entry-11277752528.html

    朝日新聞にとって、大学や法科大学院は、重要な広告主です。朝日新聞には、「キャンパス アサヒ・コム」というサイトもあります。
    http://www.asahi.com/ad/clients/campusasahicom/

    広告を主要収入源とするメディアが、広告主に有利な記事を書くことは、やむを得ない面がありますが、公共の電波を使って、おかしな報道をしないでほしい、というのが実感です。

    No title

     法務博士については,確実な受け入れ先がないというよりも,実質的には司法試験に合格できない落ちこぼれを意味するのでそんな人を採用する企業はない,むしろマイナスの肩書きだとはっきり言った方が実情に近いと思います。
     なお,このサイトのテーマからはずれますが,会計専門職大学院の紹介はもっとひどいですよ。公認会計士試験に合格しても監査法人に就職できないため何の肩書きももらえない「待機合格者」が多数発生していることには触れておらず,会計専門職大学院出身の試験合格者は在学・修了合わせて全体の7.4%(平成23年の場合)しかおらず,公認会計士を目指す人の進路としてはマイナーな存在でしかないのですが,そのような事実には一切触れられていません。
     さらに,公認会計士業界では伝統的に学歴を重視しないので,専門職の修士号なんか取っても意味はないのですが,それについてはむしろ逆のことが書かれています。
     もともと,この記事全体が大学院の誇大広告を目的にしているのかもしれません。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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