「根拠」なき増員論議のツケ 

     2001年6月に出された司法制度改革審議会の最終意見書は、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、2010年(平成22年)ころには新司法試験の合格者数の年間3000人達成を目指し、この増加でいけば、2018年(平成30年)ころまでには、実働法曹人口は5万人規模に達するという絵を描きました。

     しかし、以前も書きましたが、これが絵の通りになるためには、当然、ある前提が成り立ってなければなりません。法曹、とりわけ数の比重として中心を占める弁護士を志望する人間たちが依然として多数存在するということです。いくらなんでも3000人くらいは確保できるだろうという人もいますが、どんな人間にも、上から3000人までに資格を与える制度ではない、というかそれがふさわしい資格ではない以上、合格者のレベルを極端に下げないためには、有能な人材を含む多数の志望者がチャレンジする世界であり続けなければなりません。

     そして、もう一つ挙げれば、そもそもこの国に5万人の弁護士が、適正な形で存在できる必要があります。それは、経済的に彼らが営んでいけることであり、もちろん、社会に実害を及ぼすような無理なものであってはならないことはいうまでもありません。

     実はこれも以前書きましたように、司法審でも、この3000人方針の実現可能性については、経済界側委員からも疑問の声が出ましたし(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)、弁護士界にも懐疑的な意見はありました。ただ、この司法審の意見書の立場も、この路線を推進した当時の弁護士会主流派の方々のご意見も、実現を信じて疑わないものだったといっていいと思います。まさに前記したような前提が成り立つかどうかなど疑いもしないということです。

     これは、今考えてみても、不思議な光景です。なぜなら、およそ「根拠」ということにこだわる仕事をしているように思える法律家たちが、まさにその前提が成り立つ「根拠」となる、どの分野にどのくらいの規模の弁護士が必要とされ、それがどのくらい時間で、経済的に成り立つ形を維持しつつ、現実的に増えていけるのか、ということを検証した痕跡が見当たらないように見えるからです。当時の推進派弁護士たちの楽観論の背景には、不良債権処理やМ&Aなどといった、それを支える当時の彼らにとって、目先に今よりも明るい材料があったことを挙げる見方もあります。

     ダイヤモンド・オンラインが特集連載「弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年」の第6回で登場する日本組織内弁護士協会理事長の片岡詳子弁護士も次のように語っています。

      「弁護士界をはじめメディアでも、『企業内弁護士が思ったよりもこの10年間増えなかった』ということを聞くが、そもそも、“思ったより”とか“想定より”というのはどういうことか。司法制度改革が議論されていたときに、10年後の予測人数などのシミュレーションをしたのだろうか。少なくとも私はそんな想定人数を聞いたことがない。単にイメージでモノを言っているのでしょう」

     彼女は、非常に重要なことを言っています。弁護士激増時代の「受け皿」として期待され、また、激増政策を継続させる根拠にまでされる企業内弁護士の可能性。彼女も指摘するように、同協会調べでは数は2001年に66人だった企業内弁護士は2011年末に既に667人、10年で10倍の実績を示し、そしてまだまだ伸びる素地はある。現役が実績を作ることで、企業側にも利点をアピールし、また、若手弁護士に対しても魅力あるフィールドということを示し、数を増やしていく、と。ただ、そのことと、今、増員の「受け皿」として語られていることとは、別だということです。

      「改革」が描いた増員のシナリオが崩れ、大量の弁護士の「受け皿」として引き合いに出される企業内弁護士の可能性は、どこまでいっても前提が成り立つがどうかの検証なき描き方のツケだと。それは違うという話です。逆にいえば、企業内弁護士の実績も可能性も、増員政策が正しいということの責任は負えないということにとれます。「改革」を描いた側の論理と、企業内弁護士の現実とは、ギャップがあるのです(「『企業内弁護士』の将来性と激増論の線引き」)。「単にイメージでモノを言っている」という言葉は、彼らの側からの痛烈な批判にとれます。

      「根拠」なき「改革」論議の欠陥を認めず、「受け皿」の将来性に逃げ込むような論理からまず、脱却しないことには、ボタンの掛け違い直すことは延々とできません。


    ただいま、「次期日弁連会長に求めるもの」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

     おっしゃりたいことはわかるのですが、そもそも、需要を考慮して供給 (=合格者数) を決定すべき事柄でしょうか? 需要を考慮して (政策的に) 決定しろ、という考えかたそのものが、おかしいのではないかと思います。

    No title

    一事が万事、弁護士会の行う方針はおよそ「根拠」がない。
    これは結果政策が失敗した時、ほとんどの組織社会では責任の所在がはっきりしていて、その責任者が何らかの形で責任をとる姿があるが、弁護士会の場合ほとんどそれがない。
    短期の任期満了で人が変わる。だから「根拠」は必要ない。
    万一政策が成功すれば、その責任者という無責任者は大功労者になる。こんな割のいい話はない。
    こう解釈されても仕方がないような方針決定のあり方が問題と思う。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR