司法修習生「給費制」廃止への思惑

     昨年11月、司法修習生に国費で給与を支給する「給費制」が1年間延長されました。とりあえず、移行が決まっていた無利子で貸し付けるという貸与制を今年の10月末まで適用しない、ということになったのてす。

     司法修習生に給与が支払われていることを知らない国民も依然として少なくないとは思いますが、「給費制」そのものも一般的に理解が得られているかといえば、そうではない状況にはあります。

     従来、働きながらでは修習に専念できない、といった主張が制度の必要性をいう立場から強調されていましたが、これも、裁判官、検察官はともかく、個人事業者として、今後儲けることになる弁護士への特別扱いの必要性はあるのか、といった論調の前には、劣勢でした。それが、ここにきて、おカネがかかる新法曹養成制度との関係で、「裕福な人しか法律家になれないでいいのか」という切り口が、とりあえずのストッパーにはなったようには見えます。

     それにしても依然として、大衆に理解が得にくい状況にあるのは、とりもなおさず、この問題で一貫して給費制存続に否定的な朝日新聞などの大マスコミの報道にも原因があります。裁判員制度、弁護士増員などともに、この問題も、司法改革関連報道に共通した、フェアに大衆に判断材料を提供しない大マスコミの姿勢がみてとれます。

     「改革」の方向を懸念する論調、その結果の実害を指摘する見方を、まるで「反革命的」との烙印を押すがごとく、「改革に逆行」といった切り口で批判し、同時にそうした反対論調を丁寧に取り上げるといった、いわば推進派の彼らにとってやぶへびな報道は、もちろんやらない、というスタンスです。

     つまり、多くの大衆はまだ、給費制の意義と廃止の影響についていう、弁護士会側の意見を十分に踏まえて、その是非を判断する材料を与えられていないのではないかと思うのです。

     実は、一昔前の弁護士会のなかには、この給費制を「返上すべきではないか」という議論もありました。いまやちょっと信じがたいことですが、国費をもらって養成されることを、弁護士の権力からの独立という観点から突きつめて考える弁護士たちもいた、ということです。

     もっとも、この議論のきっかけは、官側の姿勢にあったといっていいのかもしれません。当時の弁護士会による激しい法改正阻止運動や、反権力的立場で行動する弁護士たちに対し、当時の裁判所、検察庁関係者の口からは「国家に養成されながら何事か」といった言葉をよく聞いた気がします。弁護士の中から、「ならば返上も」という威勢のいい意見が出たとしても不思議でないムードがあったことは確かです。

     今回の給費制存続に対して、法科大学院サイドと最高裁は否定的な立場をとっています。ひとつには給費制維持に年間100億円を超える予算が使われ、そのしわ寄せで司法予算が削減されることへの懸念論があります。

     ただ、最高裁については、もうひとつ聞こえてくる話があります。これはあくまで噂ですが、最高裁が、貸与制を採用後、任官者についての返還免除措置の導入を考えているのではないか、という話です。

     戦前の法曹養成では、裁判官・検察官の司法官試補は有給、弁護士試補は無給という制度でしたが、ある意味、それと同様に、公務員となる裁判官・検察官と弁護士の「差別化」を図るものです。

     その背景には、最高裁が採用したい優秀かつ若年者の司法修習終了生が、近年、弁護士として大手渉外事務所に流れる傾向があることも挙げられています。「差別化」の意図が、最高裁が期待するような採用の流れをつくることにあるのではないか、というわけです。

     もし、そうだとすれば、かつての弁護士・会の活動に対し、「国家に養成されながら何事か」と批判した、その在朝法曹側の思想が、根底で変わらない中で、今日の「給費制」問題がある、ということにもなります。

     なにやら大衆にはっきりと伝えられないところで、いろいろな思惑が交錯しているような、そんな気配があります。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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